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証拠残さず「30人殺した」ペットショップ店主の破綻した理性と行動…遺体切り刻み

構成=水島観/ジャーナリスト
証拠残さず「30人殺した」ペットショップ店主の破綻した理性と行動…遺体切り刻みの画像1『仁義の報復 元ヤクザの親分が語る埼玉愛犬家殺人事件の真実』著者の高田燿山氏

 1995年1月、埼玉県内でペットショップアフリカケンネル」を経営する夫婦が客を殺害し、遺体を遺棄していた疑いで逮捕された。夫婦の名は、関根元と風間博子。93年に離婚しているが、事実上の夫婦だった2人が4人の生命を奪っていたことが明らかになった。

 被害者の1人である遠藤安亘(やすのぶ)さんが稲川会系の暴力団員だったことは当時も話題になったが、子分を殺された元組長・高田燿山氏が、20年あまりの沈黙を破り事件について綴った『仁義の報復 元ヤクザの親分が語る埼玉愛犬家殺人事件の真実』(竹書房)が昨年末に刊行されたことで、あらためて注目を集めている。

 高田氏は、同書で報復として関根の暗殺を計画していたことを明かしているのだ。高田氏に、同書出版の経緯や今の心境を聞いた。

「自分は30人は殺している」と語っていた関根

――執筆に至られたきっかけは、どのようなものですか?

高田燿山氏(以下、高田) 遠藤だけではなく多くの方が犠牲になった事件ですから、ずっと心に残っていました。執筆の直接のきっかけは、私自身のことです。がんを患い、療養のために渡世を引退して余命も考える心境に至ってきました。

 長年、「不良」として生きてきて、墓場まで持って行かなくてはならないこともあるのですが、殺された遠藤の無念だけは、きちんと記しておきたいと思うようになりました。

証拠残さず「30人殺した」ペットショップ店主の破綻した理性と行動…遺体切り刻みの画像2『仁義の報復 元ヤクザの親分が語る埼玉愛犬家殺人事件の真実』(高田燿山/竹書房)

――事件当時は、現在の高田一家の前身・高田組を率いておられました。殺害された遠藤さんは、高田組の組長代行だったそうですね。

高田 そうです。組を支えてくれていました。遠藤は古いタイプのヤクザで、街では慕われる親分でもありました。一緒に殺された運転手の和久井奨は私の組の組員ではなく、行儀見習いのように遠藤に預けられていた青年です。今では考えられないでしょうが、昔はちょっと素行の悪い子どもを街の親分に預けることはよくありました。

 遠藤と和久井は急に行方知れずになったのですが、私は最初から関根を疑っていました。当時は珍しかったシベリアンハスキーの輸入などで有名になり、ペットビジネスで儲かっていた関根は、金銭トラブルも多く抱えており、遠藤が相談に乗っていたのです。

――当時の報道では、関根は少なくとも7人は殺害しているとの疑惑がありました。

高田 被害者は、もっといると思います。関根は、遠藤など周囲に「自分は30人は殺している」とよく話していたそうです。報道でも、関根が取り調べ中に別件のヤクザ殺しをほのめかしたともありましたが、結局は捜査されませんでした。警察としては、4人の殺害を立件できれば十分に死刑にできるので、あとは捜査をしても金と時間の無駄ということで打ち切ったのでしょう。

 すべての遺体を切り刻んで焼却したとは考えにくいのですが、いずれも証拠の残らないかたちで殺したのだと思います。遠藤と和久井の遺骨の場所もわからないままです。今も判明していない被害者がいると思うと、気の毒ですね。

ヤクザは人を殺すときは「その後」を計算する

――遠藤さんが失踪した頃は、犯人夫妻はすでに「疑惑のペットショップ業者」として、ワイドショーなどでも連日報道されていました。

高田 警察もマークしていましたから、私たちも慎重に行動しました。関根のような者は生かしてはおけませんし、遠藤の仇を討てなければ渡世で笑われますからね。しかし、最終的には警察に任せることになってしまいました。今は、関根の命を狙うことで誰かを長い懲役に行かせなくて済んだのはよかったと思いたいですね。

 本書でも書いた通り、私が立ち上げた高田組と高田一家は、「人を殺さないこと」が看板です。最近では、巷で殺されているのは交際相手の連れ子や老いた親、恋人などでしょう。ヤクザの殺人事件は、ほとんど聞きません。なぜなら、ヤクザは人を殺すのがどういうことなのかをよくわかっていますから、簡単には殺さないのです。殺すときには、ちゃんと「その後」のことを計算します。

 元チンピラの関根は、殺しすぎました。「1人殺そうが2人殺そうが同じことだ」という考えになっていたのだと思います。「この関根様に嘘はつけねぇぜ。ついたら、あとはもう死ぬしかないんだ」と周囲の者によくスゴんでいたそうです。感覚がマヒしていたのでしょう。もっとも、関根は私には卑屈なくらいペコペコしていましたけどね。

密輸や詐欺も…関根が堕ちたペットビジネスの闇

――本書では、犯人夫妻の詐欺や密輸の問題にも触れられています。当時は不動産バブル時代を過ぎて、富裕層でなくても血統書付きの犬や猫を争って買うような風潮になっていました。

高田 連続殺人の衝撃が強すぎたせいか、関根の詐欺や密輸はほとんど問題になりませんでしたが、これらも追及すべきでした。高価なブランド犬が飛ぶように売れたことで、もともとおかしかった関根の金銭感覚がさらにおかしくなったのかもしれません。

 今は事情も違うでしょうが、以前はドッグショーの優勝は金で買えましたから、関根の店にはたくさんの賞状やトロフィーがありました。一般の人はそれでだまされてしまうのです。また、ペット業界誌に頻繁に広告を出していたことでも信用を得ていました。

 この信用を悪用して、関根夫婦は犬たちに法外な値をつけただけでなく、ときには「仔犬が生まれたら高額で引き取る」と雌雄の販売をもちかけておきながら、いざ生まれると「尻尾の形が悪い」などと難癖をつけて安く買い叩いていました。殺人には至らなくても、こうしたことによる金銭トラブルも多発していたのです。

 これには、生命を売り買いしていることの愚かさもありますね。本当の「愛犬家」なら仔犬で儲けようなどとは思わないのではないでしょうか。昨今のペットビジネスには疑問があります。

 一方で、関根は少年時代から犬好きではあったようです。でも、気に入らないと木刀などで殴って虐待していたそうですし、金を返さない相手には犬の生首を突き出して返済を迫ったという話もありました。また、風間博子の連れ子への暴力が問題になったこともあります。狭い街なので、そうしたこともすぐに聞こえてくるのです。

 関根は、ペットショップを経営するまでは職を転々とし、ヤクザの手下として借金の回収もしていたと聞いています。そんな関根が目をつけたのが、不動産業の娘の風間でした。実家の資産が目的で風間と結婚したのです。お嬢様育ちの風間をだますのは簡単だったのでしょう。

 関根は7度目、風間は2度目の結婚で、ペットショップの開店資金も風間に出させているはずです。お嬢様だった風間は、関根のせいで刺青を入れさせられ、殺人にまで手を染めてしまうことになりました。

連続殺人の陰に隠れた数々の不正行為

――密輸に関しては、いかがでしょうか。

高田 関根は、犬だけではなくライオンやトラなどの猛獣も売っていました。こうした動物を扱うのは、普通のペット業者ではまず無理です。関根が猛獣を調達できたのは、兄弟分の元自衛官と米兵が関わっていたからです。2人は小遣い稼ぎに猛獣を密輸し、関根はそれを買い取って転売していました。これでもだいぶ儲けたようです。

 さらに、獣医らとプラセンタエキスの原料となる牛の胎盤を加工業者に横流しし、従業員をタダ働きさせていた事実もあります。昔のペットビジネスの規制が緩かったせいもありますが、すべては連続殺人の陰に隠れてしまいました。遠藤が殺害されたのは、こうした事情を知りすぎていたせいもあるのかもしれません。

――犯人夫婦は死刑が確定していますが、何かメッセージはありますか。

高田 現在は獄中で仏教に帰依しているとも聞いていますが、今となっては遅すぎますね。せめて、生きているうちにすべての罪を告白してもらいたいものです。被害者のみなさまのご冥福を、心からお祈りしております。
(構成=水島観/ジャーナリスト)

※文中、一部敬称略

●高田燿山(たかだ・ようざん)
1945年埼玉県生まれ。稲川会直参・初代高田一家元総長。71年、26歳で稼業の道に。90年に稲川裕紘三代目会長から盃を受けて直参となり、会長秘書も務める。2011年に初代高田一家を立ち上げ、総長に就任。14年の引退後は、『稲川会系元総長の波乱の回顧録 ヤクザとシノギ』(双葉社、15年)など執筆活動も始める。

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