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官製ゾンビ企業、日の丸液晶メーカー・JDI、悲惨な経営の果てに「中小企業化」

文=Business Journal編集部
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JDIのHPより

 経営再建中の中小型液晶大手ジャパンディスプレイ(JDI、東証1部)は、資本金を2152億円から1億円に減資する。資本準備金を全額取り崩し、2881億円の累積損失を一掃する。3月26日、臨時株主総会を開催し、株主に大幅減資を諮る。資本金が1億円以下になると税制上は中小企業となり、節税効果がある。JDIは「累積損失の解消による財務基盤の健全化と、持続的な成長に向けた資金確保を図る」としている。

 JDIは“日の丸液晶メーカー”と呼ばれており、第2位の株主はINCJ(旧産業革新機構)である(21年9月30日現在)。筆頭株主は独立系資産運用会社のいちごトラストで議決権比率44.27%を保有。

JDIの負の歴史

 JDIは2012年、官民ファンドの旧産業革新機構の支援を受けて、ソニー、東芝、日立製作所の液晶事業が統合して鳴り物入りで発足した。しかし、中国・韓国メーカーとの競争激化などに加え、新鋭工場を建設した財務の負担が重く、厳しい経営が続いていた。

 この間、JDIの経営トップは目まぐるしく入れ代わった。初代の社長兼最高経営責任者(CEO)は米テキサス・インスツルメンツ(TI)やソニーなどを経てスカウトされた大塚周一だったが、15年3月期の赤字転落で引責辞任。後任として三洋電機で電池事業の責任者だった本間充が会長兼CEOに就いたものの、赤字を拡大させて17年3月期末で更迭された。

 次の会長兼CEOは日本鉱業(現JX金属)でディスプレイ検査装置事業を手がけた東入来信博。5期連続の赤字が確定した19年5月に東入来は辞任し、18年から社長を務めていた日立製作所の液晶パネル部門生え抜きの月崎義幸がCEOのポストを引き継いだ。

 19年4月、台湾や中国の企業連合から支援を取り付けたが、業績悪化に歯止めがかからないことから支援のスキームは空中分解した。主力の白山工場(石川県白山市)が稼働停止に追い込まれ、1200人の希望退職者を募集することになった責任を取り、19年9月末に月崎も辞任。後任は日本興業銀行(現みずほ銀行)出身で最高財務責任者(CFO)を務めていた菊岡稔が10月1日付で社長兼CEOに昇格した。

 19年9月末で1000億円を超える債務超過に陥っていた。5億7800万円もの着服事件で懲戒解雇された経理担当の元幹部(故人)が19年11月、「過年度決算で不適切な会計処理をおこなっていた」と告白し、不正会計が表面化した。「いよいよJDIはギブアップ。会社更生法を申請か」(民間信用調査会社幹部)と取り沙汰された。

いちごアセットが救世主として登場

 この時、救世主が現れた。20年1月31日、投資顧問会社いちごアセットマネジメント系ファンドのいちごアセットから1008億円の出資を受けると発表した。20年4月、不正会計の実態を調べていた調査委員会が報告書を公表した。それによると14年3月期から19年4~9月期まで架空在庫の計上や損失の先送りなどの不正な会計処理があったと認定した。水増し額が最大となった16年3月期は「純損失に与えた影響は102億円もあった」という。

 報告書は「不正会計は経理担当の元社員によって主導された」と結論づけたが、不正の背景として、「経営陣による業績目標達成に向けた圧力」を指摘した。JDIは、いちごアセットと二人三脚で経営再建に取り組んでいる。

 最大の焦点は主力の白山工場の売却だ。20年8月、白山工場の土地と建物を412億円でシャープに売却、工場の設備は米アップル系の企業に301億円で譲渡すると正式に発表した。土地・建物や工場の設備を譲渡することで713億円を得る。

 白山工場の建設費(1700億円)の大半を建設時にアップルに前受け金のかたちで負担してもらっている。同工場は16年末に稼働を始め、スマホ用のパネル換算で月700万枚の生産能力を持つ。アップルが上位機種で有機ELパネルの採用を決めたことから、白山工場の稼働率が低迷。19年7月に生産を一時停止していた。

 JDIは工場の売却で得た資金を前受け金の返済などに充当して財務の負担を減らす。シャープは亀山工場(三重県亀山市)でつくるアップルのiPhone向け液晶パネルの生産を白山工場に集約する。シャープは白山工場の設備をアップルから借りてパネルを生産し、大口顧客であるアップルへの供給を続ける。

 菊岡稔は、いちごアセットからの金融支援をとりまとめ、白山工場を売却。不正会計の発覚後は、社外取締役の権限の強い「指名委員会等設置会社」へ移行するなどガバナンスの体制を見直した。「自分でないとできない仕事は減っている」として、菊岡は20年12月末に退任した。

 社長は空席となり、スコット・キャロン会長がCEOを兼務した。キャロンは米国出身で、筆頭株主のいちごアセットの社長。20年3月にJDIの会長に就任していた。スマホで有機ELパネルの採用が拡大し、JDIの命綱だったスマホ用液晶パネルの需要減が響いた。キャロン新体制は医療用パネルやセンサーなど新規事業を早期に軌道に乗せたい考えだ。

 22年3月期通期の売上高は前期比13%減の2970億円を見込む。半導体不足が緩和し、従来計画を170億円上回る。通期の損益の見通しも初めて公表した。営業損益は131億円の赤字(21年3月期は262億円の赤字)、最終損益は184億円の赤字(同426億円の赤字)となる見込みだ。

 JDIは2月10日、22年3月期の最終損益が84億円の赤字になる見通しだと発表した。従来予想から赤字幅が100億円縮小する。台湾の製造子会社の売却益を計上するためだ。売上高は21年3月期比15%減の2910億円。従来予想を60億円下回る。自動車向けの液晶パネルの出荷量が想定を下回る(売上高、最終損益とも億円以下の切り捨てしているため会社側の公表数字とそれぞれ1億円異なる)。会社側の発表では最終損益の赤字は99億円縮小し、売上高は59億円のショートとなっている。

 再建の主役に躍り出た会長のキャロンが打ち出した再建への第一歩が、資本金を2152億円から1億円に減資して、2881億円の累積損失を一掃することだった。経済産業省が音頭をとって発足した“日の丸液晶メーカー”JDIは、迷走の果てに中小企業として再出発することになった。

 経営陣の責任感の欠如から、「官製企業の悪しき典型と酷評され“ゾンビ”などと揶揄された」(M&Aに詳しいアナリスト)JDIは、14年3月に新規上場して以来、水面下の低空飛行のままだ。一度も配当したこともなく、株価もこのところ2ケタ(100円以下)であり、上場企業の体をなしていない。さらに資本金を1億円に減資して中小企業となる。「上場している意味があるのか」(外資系証券会社のアナリスト)と厳しく問われている。

(文=Business Journal編集部、文中敬称略)

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