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シャープ、なぜJDIから時代遅れの“液晶”白山工場を購入したのか?アップル依存の罠

文=編集部
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シャープ幕張ビル(「Wikipedia」より)

 米アップル主導で経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)の白山工場(石川県白山市)の売却問題が、ようやく決着した。総額713億円。土地と建物を412億円でシャープに、工場内の設備はアップルに301億円で譲り渡す。アップルの意向を受け、共同買収のかたちをとった。

 時代遅れの液晶を生産する白山工場をシャープが買う狙いはなんなのか。シャープは主力の液晶工場だった堺工場を液晶ディスプレイパネル市況の悪化に伴い、堺ディスプレイプロダクト(SDP)として本体から切り離した。SDPはシャープの持ち分適用会社となり、子会社とする構想もあったが、液晶市場の競争激化と有機ELディスプレイパネルの普及で液晶事業の成長が見込めないとして見送った。つまり、シャープには有機ELに市場を奪われた液晶の工場を買い取る必要も動機もない、ことになる。

 アップルも日本で10月14日に発売を開始した「iPhone12」シリーズは全機種で有機ELを採用している。2021年以降、液晶を採用するモデルは「iPhoneSE」(第2世代)と、生産の継続が見込まれる「同11」の2機種とタブレット型端末の「iPad」シリーズだけとなる。

 iPhone11は2021年秋に同13が発売されれば生産停止となる。iPhoneSEも第3世代では有機ELになる可能性が高い。アップル製品の液晶需要は先細りになる。アップルにとっても液晶工場を譲り受けるメリットはないはずだ。

 JDIは16年末に稼働した白山工場を持てあましていた。白山工場の建設時にアップルが前渡し金というかたちで約1700億円の資金の大半を負担した。白山工場はアップルの専用工場であり、受け取る製品の代金と前渡金を相殺するかたちを取ってきた。しかし、iPhoneの18年モデルの販売不振でアップルからの受注が急減したため、白山工場は19年7月に生産を停止した。

アップルはiPad向けの液晶は残したかった

 アップルとシャープの狙いはどこにあるのか。

 韓国サムスンディスプレイは20年12月末までに有機ELに完全にシフトし、液晶の生産を終了する。iPadのディスプレイは韓国LGディスプレイから調達しているが、韓国LGは液晶の生産をやめて有機ELに特化する。

 アップルに、欲しい時に欲しいだけの数量の液晶が入らなくなる懸念が出てきた。iPhoneでは液晶は御用済みだが、アップルはタブレッド市場での裾野を広げようとしている。低価格のタブレットをつくり続けるには液晶が必要だ。iPad向けのパネルを安定的に調達するためにも液晶の生産拠点は残しておきたい。

 一方、シャープは出遅れた有機ELを諦め、発光ダイオード(LED)を採用した高精細な「マイクロLEDディスプレイ」の開発を進めている。シャープの白山工場の買収は、JDIのアップルに対する412億円の前受け金債務をシャープが引き継ぐかたちとなる。シャープの現金支出はない。アップルの製品発注次第で、シャープは代物代弁のやり方をフレキシブルに変えることができるといわれている。

 シャープは白山工場でiPad向け液晶を生産する見返りに、好条件で最新鋭の工場を手に入れたことになる。2016年、台湾の鴻海精密工業の傘下に入り、シャープは需要変動の大きいアップル依存からの脱却を掲げてきたが、白山工場の買収のディールを通して、再びアップルへの依存度を高めることとなる。

いちごアセットの傘下でJDIは再建に取り組む

 JDIは2020年3月期まで6期連続で最終赤字となった。決算発表を延期していた20年4~6月期の連結決算を9月10日にようやく発表した。売上高は前年同期比2.7%減の879億円、営業損益は70億円の赤字(前年同期は270億円の赤字)、最終損益は162億円の赤字(同789億円の赤字)だった。

 液晶パネルは新型コロナウイルスの影響による自動車メーカーの生産調整で車載向けが低迷した。早期退職や主力工場の白山工場の稼働停止で固定費の削減を進めてきたが、赤字が拡大した。

 今年3月、独立系投資顧問会社いちごアセットマネジメント(名義はいちごトラスト)から出資を受け入れた結果、マイナスだった自己資本比率は10.5%まで高まった。8月26日、株主総会を開き、いちごアセットから最大604億円の支援の受け入れと指名委員会等設置会社への移行を決議した。すでにいちごから504億円調達しており、今回の決議を受けて出資額は最大1108億円となる。

 いちごから招聘したスコット・キャロン会長は株主総会に議長として登壇し、黒字化に向けた決意を表明した。ヘルスケアなど新規分野に参入。中長期的にスマホ以外の製品比率を5割に高める方針を示した。

 JDI再建の第1弾が白山工場の売却。固定費を削減し、収益力のアップに務める。JDIは、アップル(りんご)といちごから支援を受け、再建に取り組むことになる。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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