毎年秋にアップルが新型iPhoneを発売するのはお馴染みの光景となっている。そして、競合の主要メーカーがすでに5G対応のスマホを出しているだけあり、近々発表・発売されると目されている新型iPhoneも、5G対応である可能性は極めて高い。
はたして5G対応iPhoneが登場した場合、スマホ市場はどういった動きを見せていくのだろうか。そこで今回はITジャーナリストの石川温氏に、5G対応iPhoneを取り巻く状況や、3G、4Gリリース後の変遷から5Gスマホ市場の今後を考察してもらった。
「5G対応iPhone」、一定の高い人気にはなるだろうが…
まず、5G対応の新型iPhoneが登場した場合、今まで以上の売れ筋端末となりえるのだろうか。
「もちろん一定の高い人気が得られるのは確実でしょうが、爆発的な売れ行きになるかどうかは未知数です。しかしNTTドコモ、KDDI (au)、ソフトバンクの大手キャリア3社は爆発的に売れることを期待しているでしょうね。というのも、実は大手3社はすでに5Gサービスをスタートしていますが、正直まだ5G対応スマホを本気で売り出しているとは思えない状態なんです。おそらく、5G対応iPhoneの登場を待ち、5G対応iPhoneを起爆剤として5Gサービスを普及させていこうという戦略なのではないでしょうか。
例えばドコモの場合、来年3月までの目標として5Gの契約件数を250万件と掲げているにもかかわらず、8月1日時点で5G契約件数は約24万件と発表していました。まだ目標の1割程度の契約しか取れていない。ですがそれは、まだドコモが全力で5Gを売り出していこうとしていない証拠のようにも見えるわけです。ドコモは5G対応iPhoneだけで100万契約以上、あるいは200万契約近くを取るという算段なのかもしれませんね」(石川氏)
国内シェアから考えて、KDDIやソフトバンクの5Gの契約件数はドコモ以下しか取れていないだろう。2社もドコモと同じ算段なのかもしれない。
「ですが、総務省が2019年10月に電気通信事業法を改正したことによって、スマートフォン本体価格の割引が最大2万円までに制限されていますよね。ですから、かつてのように『iPhone実質無料』といった宣伝文句を謳えません。そして、近年発売されるハイスペックモデルは10万円以上していますから、5G対応iPhoneといえどすぐに飛びつく人は少ないんじゃないでしょうか。経済的にそれなりに裕福であったり、熱心なアップルファンであったりしない限り、なかなか買い替えにくいと思います。
また、現在、iPhoneを使っている方が次のスマホに買い替えようと思っても、まだ5Gの魅力を感じられていないとしたら、わざわざ5G対応iPhoneにしようと思わない可能性もあります。5G対応ではないですが、リーズナブルで充分なスペックを備えたiPhone SE(第二世代)が今年4月に発売されていますし、Androidスマホでも5万円位でコスパの良いモデルがありますので、“5G対応iPhoneはまだしばらくいいや”と考えるユーザーも多いでしょう。
経済的にそこまで裕福でもなくアップルファンでもない人々に、5G対応iPhoneの魅力がどこまで伝わるか、アップルや大手3社がどう伝えていけるかにかかっているとは思いますが、そういった懸念材料があるため、5G対応iPhoneがどれだけ売れるかは予想が難しいですね」(石川氏)
5G対応スマホにしても、劇的な変化は感じにくい理由
では、5G対応スマホが普及していくと、どういった変化が起こるのか。
「今後はYouTubeなどにおいて、フルハイビジョンや4K映像のコンテンツが増えていくでしょうが、5G対応スマホならそういった大容量の動画でもスムーズに観られるはずです。それに対応できるように、容量無制限プランが浸透していくでしょうね。
例えばドコモは、5G専用の料金プラン契約者に対して、毎月の利用可能データ量が“100ギガバイト”から“無制限”になるキャンペーンを行っています。こういった大手キャリアの容量無制限プランは月額料金が多少高くても、5Gの恩恵を受けたいユーザーたちからは歓迎されるでしょう。5G対応スマホで容量無制限プランにすれば、ユーザーは4Kレベルの動画をどんなに観ても、月末になって速度制限がかかるという煩わしさから解放されますからね。
とはいえ、5G対応スマホにしても、すぐに未来的なインターネット体験を享受できるわけではないでしょう。5Gは4Gの10~20倍の通信速度だといわれてはいますが、スペック上では10~20倍だとしてもコンテンツの容量もまた増えていくもの。ですから、ユーザーの体感としてはそこまで劇的な新感覚の体験ができるということはないと思います」(石川氏)
3G、4G開始当時を振り返り、5G時代序章の今後を占う
3G、4Gの商用サービス開始当時はどうだったのだろうか。2001年に3Gの商用サービスが始まってからの、市場やユーザーに与えた影響について石川氏はいう。
「3Gが商用サービス開始当時の01年頃は、テレビ電話ができるという触れ込みで大きく期待されましたが、実際にはテレビ電話機能はそれほどユーザーから受け入れられず、鳴かず飛ばずといった印象でしたね。
ただ、当時はドコモのiモードができ、ケータイでインターネットが使えるということを筆頭に、メールが送れる、絵文字が使える、写真が送れるといった利便性の向上が受け入れられました。それはつまり2Gでも使えていた機能がより充実したというだけだったんですが、結果的に3Gが開始してからケータイの普及率が格段に上がったのは間違いありません。ですが、テレビ電話ができるといった3Gへの期待の大きさと、その結果を比べると、3Gの功績が大きかったとはいえないでしょう」(石川氏)
では12年の4Gの商用サービス開始後は、どういった市場の動きがあったのだろうか。
「4Gが商用サービス開始当時の12年頃ですが、それまで国内ではソフトバンクが独占供給していたiPhoneを、11年にKDDI、13年にドコモも取り扱うようになったことがきっかけで、3社間で4Gが絡んだ競争が激化していきました。4Gのエリアがどれだけ広いか、通信スピードがどれだけ速いか、という点で競争されていたんです。
ですから、4Gが商用サービス開始の翌年にドコモもiPhone取り扱いに参入し、大手3社すべてでiPhoneが買えるようになったことが、4G普及に拍車をかけた印象でしたね。そう考えると5G対応iPhoneが出た際には、5Gのエリアはどこが広いのか、5Gの通信スピードが一番速いキャリアはどこか、といった4Gのときのような競争が起こるかもしれません」(石川氏)
5G対応スマホが普及していくかどうかは、今のiPhoneブランドにどれだけ求心力があるかによって変わってくるだろう。
「直近5年間の世界的なiPhoneの売上高は、横ばいに推移しているイメージです。ただし、国内においては安価なAndroidが売れてきていることもあって、Androidのシェア拡大が進み、iPhoneのシェアは徐々に落ち始めています。5G対応iPhoneに一般ユーザーがどれだけ食いつくのか、注目ですね」(石川氏)
各キャリアにとってのキラー端末となるであろう5G対応iPhoneが発売されれば、5Gをめぐる競争が盛んになっていくのかもしれない。いずれにしても5Gを取り巻く市場はまだまだ序章といえる段階のようだ。
(文=A4studio)