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住友生命・Vitality誕生の裏側…リスク自体を減らす斬新な健康増進型保険

文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授
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住友生命・Vitality誕生の裏側
売名のための慈善活動が横行(「Getty Images」より)

 古くはメセナ(企業による文化・芸術活動への支援)など企業による社会貢献および企業の社会的責任(CSR)は、SDGs(持続可能な開発目標)がしきりに叫ばれる今日、その重要性を増してきている。

 しかし、個人的には高い関心を抱くことができなかった。もちろん、公害のように企業が社会に深刻な悪影響を及ぼすことは大きな問題であり、責任ある行動が求められることは言うまでもない。それでも、例えば企業の寄付行為などは節税対策となり、結果として国税の減少となる。

 また、社会貢献を目標に本来業務とは異なる活動に従事し、そうしたことを大々的にアピールする企業も多く見受けられる。もちろん、一時的な知名度アップやブランド向上といった恩恵を受けられるかもしれないが、収益に直接的にプラスに作用しない活動が継続的に実施されていくとは考えがたく、その範囲も極めて限定的なものとなるだろう。

 さらに、ブランド価値向上を目指した社会貢献とは、なんと浅ましく偽善的な行為かと個人的には軽蔑してしまう。先生に褒められるために率先して掃除を行う、他人に優しくする小学生のようだ。

 以前、フェアトレード(開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することにより、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す「貿易のしくみ」)に精力的に取り組む、名古屋のアパレル企業エシカル・ペネロープにインタビューした際、次のような話を聞き、大いに感銘を受けた。

「例えば、接客の際、開発途上国で苦しむ子供たちの話をすると、一時的には売上は向上するだろうが、商品自体に魅力がなければ継続購買にならない。だから、私たちは現地の人々とともに市場ニーズを踏まえた新商品開発、新たな生産手法の導入など、価値ある商品づくりに取り組んでいる(こうした取り組みは現地の人々の教育・スキルアップにも通じる)」

 企業が取り組むべき真の社会貢献の姿は、このコメントに凝縮されている。

 しかしながら、CSRCSV(社会価値と企業価値の両立)で紹介されている事例は、概ね環境保護のために別途費用を投じた取り組みなど、米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授とマーク・クラマー教授が2006年に著した『競争優位のCSR戦略』で指摘しているところの「受動的CSR」であり、社会貢献を通じて自らの価値連鎖を強化する戦略に通じるような「戦略的CSR(基本的にはCSVと同義)」は見られない。

 こうした背景のもと、日本では住友生命保険相互会社が展開する「Vitality」に目が留まった。

健康増進型保険Vitalityとは?

 Vitalityという生命保険をご存じだろうか。従来の生命保険はリスクに備えるためのものであったが、Vitalityは「運動や健康診断などの取組みをポイント化し評価する」という仕組みを通じて、リスクそのものを減らす健康プログラムとなっている。

 具体的には、毎年のウォーキングやランニングといった取り組みと健診結果を評価し、1年ごとに保険料を見直す仕組みになっている。つまり、運動すれば価格が下がり、しなければ上がる。さらに、アディダス、スターバックス、ローソンなどにおけるリワード(優待サービス特典)も用意されている。

 このたび、日本でVitalityを提供する住友生命にインタビューする機会を得た。そこで、本業の価値連鎖と社会貢献が見事にリンクした真のCSVを実現しているVitalityの秘密に迫る。

Vitalityを日本に導入した経緯

 住友生命においては長きにわたり、生命保険を扱う企業として、どのような価値を、いかに顧客に届けることができるのか、ということが常に話題に上がっていた。関連して、保険会社としての社会貢献やブランド構築なども重要な課題であった。

 6年ほど前、日本における高齢化の進展に伴う健康寿命に着目し、健康増進に寄与する生命保険を推進する方針が固まった。そこで、すでに国際的に健康増進型保険を展開していた南アフリカのディスカバリー社と提携し、日本におけるライセンスを獲得。3年ほどの準備期間を経て2018年7月、健康増進型保険Vitalityのサービスを日本で開始した。

 そもそも、ディスカバリー社が所在する南アフリカと日本では医療制度や保険販売の方法などが異なるため、大規模なカスタマイズが必要となった。さらに、たとえばオランダでは自転車の移動が広く普及しているなど、移動や運動など、各国によって事情は異なる。よって、日本において顧客の運動をいかに測定し評価すべきか、という点が問題となった。

 そこで、国立健康・栄養研究所の協力を得ながら、測定並びに評価方法を構築。その他、商品開発にあたり、社内において分業されているさまざまな機能を集結させ、文字通り総力を挙げて取り組んでいる。

 日本においてVitalityを利用するには、月額880円の利用料が必要となる。この金額に関しては、直接的に収益を得るということよりも、顧客に継続的に運動してもらうためのリワードの充実などに充てられている。リワードに関しては、ディスカバリーの基本的なフォーマットを参考に、日本向けにカスタマイズしている。

 Vitalityの知名度がなかった当初、リワードに関する提携先探しは難航したが、知名度の向上に伴い、現在では逆に相手先からの要望が多い状況となっている。ちなみに、提携においてはVitalityアプリなどとのシステムの連携が必須になる。提携先企業は、サービス開始当初は11社であったが、現在17社に拡大している。

 日本特有の難しさの例として「納豆」がある。対象のヘルシーフードを最大25%OFFで購入できるというリワードがあるが、当初、ディスカバリー社から醬油が添付されているため納豆は認められない(塩分が多く、健康に寄与する食品とは捉えられない)との意見がついたが、議論を重ねて理解を得たといったこともあった。

Vitality導入に対する営業職員など社内における反応

 やはり、極めて新規性の高い商品のため、新たに付加される業務への抵抗感のようなものもあったようだ。しかしながら、健康増進という、顧客や社会にとって価値あるコンセプトであることや、従来の生命保険の営業トークといえば「病気や事故などが起こった場合に、このように保障されます」といった、どちらかといえばネガティブな話になりがちだったが、Vitalityでは「このように運動を促進していきます」といったポジティブなトークとなることから、営業職員は前向きに捉えるようになってきた。また、顧客からの評判が極めて良いことも、営業職員のモチベーションを高めることに貢献している。

 営業職員の研修・教育に関して、Vitalityの利用に際しては顧客がアプリを使用することになるため、商品知識に加え、こうした管理ツールに精通しておかなければならない。よって、Vitalityの教育には発売開始前から3~4カ月程度かけて準備をしている。

(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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