2月24日にとあるTwitterユーザーがつぶやいたツイートが話題を呼んでいる。その内容は、大学受験生を子に持つという投稿者の友人が、MARCHや関関同立ラインなら多少勉強をすれば比較的ラクに入学させられると思っていたが、実際は非常にハードルが高いことを実感した、というものだった。
このツイートには多くの反響が寄せられ、そのなかには「MARCH・関関同立レベルまでいくと各世代の上位1割くらいになるらしい」「1クラス40人中の4人までしか入れない狭き門なんだよなぁ」という声も目立った。
MARCHといえば、関東地方にキャンパスを構え、比較的同程度の偏差値とされる私立大学の明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学の頭文字をつなげた造語。また、関関同立といえば関西地方にキャンパスを構え、比較的同程度の偏差値とされる私立大学の関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学の頭文字をつなげた造語である。
東京大学や京都大学をはじめとする旧帝大系の国立大学、早稲田大学、慶應義塾大学、上智大学などの難関大学に比べると、MARCHや関関同立は難易度が下がる“準難関大学”というイメージが強いが、そんな準難関でも同世代の学力上位1割に入っていなければいけないということに、驚いた人が少なくなかったようだ。
そこで今回は、教育問題や受験問題の実情に詳しい大学ジャーナリストの石渡嶺司氏に話を聞いた。
準難関大学に入れるのはクラス40人のうちたった4人?
まず、MARCHや関関同立に入れる人は同世代の上位1割に入るという意見は、実情に即しているのだろうか。
「大きく外れてはいないと思います。世間でMARCH、関関同立ラインの大学は、早慶以上の難関大学よりは下の難易度という認識が一般的でしょう。実際のところ2000年代以前であれば、準難関大学というイメージは実情とさほどかけ離れてはいなかったかもしれませんが、2010年代になると大学受験に詳しい人々の間では、早慶ほどではないにせよ難関大学であることは間違いない、という認識に変化してきているんです」(石渡氏)
だが、MARCHや関関同立に限らず、少子化が加速する現在においては、倍率が下がるため大学の難易度は上がらないのでは、という疑問が浮かぶ。それにもかかわらず難易度が上がっているというのはどういうことなのか。
「シンプルに志願者数が増えているからです。文部科学省が出している『学校基本調査』の値を見比べてみると、2004年にMARCHの志願者数の合計が約32万人だったのに対し、19年には約34万人と増えています。同様に関関同立も04年が約24万人でしたが、19年には約28万人と増加。少子化が進み世代ごとの人口は年々減っているのに、MARCHや関関同立の志願者数は増えていますので、それだけ人気が右肩上がりだということがわかるでしょう。
大きな要因として考えられるのが、“女性の高学歴化”。理由はさまざまですが、近年は日本経済全体が低成長になり、高学歴でないと高収入が期待できなくなったこと、そして、それが保護者の間でも共通認識になったというのは大きいはずです」(同)
文科省の法整備で苦しめられる大学側と受験生たち
そして、志願者数の増加だけが難易度上昇の原因ではないという。
「原因はいくつかあるのですが、ひとつは2016年に『私立大学の入学定員の厳格化』が文部科学省の推進で始まったことがあるでしょう。それまでは定員の1.3倍までの入学が許可されていたので、大学側は定員よりもかなり多めの受験生に合格通知を出していました。ですが、定員の1.1倍までしか許されないようになり、違反すると私学助成金をカットされるなどの罰則があるため、大学側は合格者人数を絞らざるを得なくなったのです。
例えば、以前なら定員の1.3倍の合格者を出し、そのなかから滑り止めとして受けていた合格者が入学を辞退して、結果的に定員の1.2倍が入学してきても問題はありませんでしたが、現在はそれだと違反になってしまう。そのため定員数が以前と同じでも、実は16年以後は、実際の合格者数は減っているのです。
この施策は、地方の若者の都市部への流出を止めるために、都市部の大学の難易度を引き上げたいという国の意図によるものですが、結局学生たちは地方の大学は選ばず、将来の安定のために難易度がさらに上がった都市部の大学を目指しているという状況になっています」(同)
このほか、大学入試改革の影響も大きいでしょう。大学入試改革といえば、21年から大学入試センター試験が廃止され、大学入学共通テストが導入されたことや、民間の資格・検定試験を導入するとして19年に批判が噴出して撤回になったことなどが話題になりました。これで改革は終わったと考えられがちですが、実際はまだ終わっていません。
要約すると、個別試験で大学入試を変えてほしい文科省が21年から各大学に、試験変革を行えば補助金を出すという施策を打ち出しているんです。その文科省の要請により、批判が噴出した共通テストでの英語民間試験の活用や記述式問題の導入が事実上復活するなど、受験の難易度はかなり上がっています」(同)
変わっていく受験の“今”を正確に認識することが重要
こうした受験戦争の現状に対して、受験生の親たちが気をつけるべきこととは何か。
「現在の状況を正確に認識することです。件のツイートで語られた親世代からすると、20年くらい前の感覚で『MARCHや関関同立なんて少しがんばれば入れる』と思うかもしれませんが、その感覚がだいぶズレているわけです。『このレベルの大学も入れないのか』と実情とかけ離れたプレッシャーを与えたことで、子のメンタルを壊してしまうような不幸な事態は避けてもらいたいものですね。
25年になると、情報に関する法制度、プログラミング、情報モラルといった内容を見る『情報I』が、共通テストの必須科目に加わるなど、入試対策がかつてないほどに変貌します。だからこそ親たちは、望む大学に我が子を入れたいなら浪人生になることも覚悟しておく必要があるでしょう。それが嫌でなんとしても現役のうちに大学に入れたいのであれば、ランクを下げることも視野に入れるべきです。
そして受験を控える高校生たちに言いたいのは、学歴差別を正面から捉えすぎないでほしいということですね。大企業がMARCHや関関同立以上の学生を求めるのは、単純に学歴が採用時の目安になるからであり、上司に優秀な人材が入ったと報告しやすくなる、くらいの理由でしかありません。学歴差別に踊らされず、もっと自分をアピールできることを探すほうがずっと賢明です」(同)
親が「自分は難関大学出身だから子は準難関大学ぐらいなら当然合格できるはず」と思い込むのは、相当危険ということかもしれない。
(文=A4studio)