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藤和彦「日本と世界の先を読む」

米国がウクライナに供与した兵器、武装勢力に渡る懸念…アルカイダの二の舞

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
米国がウクライナに供与した兵器、武装勢力に渡る懸念…アルカイダの二の舞の画像1
ウクライナのHPより

 北大西洋条約機構(NATO)は5月15日にドイツのベルリンで外相会合を開催し、ウクライナへの無制限の軍事支援を約束した。NATOのなかで突出して軍事支援に熱心なのは米国だ。米国はロシアの侵攻以来、ウクライナに対して同国の2020年の国防費の6割近くに相当する34億ドルの軍事支援をすでに行っている。大量の兵器がウクライナに供給されていることから、米国内では「米軍の兵器の在庫が不足し、他の同盟国への支援ができなくなっている」との批判が出ているほどだ。

 米国の軍事支援の規模は近年に行われたなかで最大となっているが、驚くべきは提供されている兵器の中身だ。ロシアの緒戦の侵攻を食い止めるのに役立ったとされる地対空ミサイル「スティンガー」は1400基、携行型の対戦車ミサイル「ジャベリン」は5500基に上る。ハイテク兵器の代表格といえる無人機も大量に投入されることになっている。自爆攻撃機能がある無人機「スイッチブレード」は700機以上、新型無人機「フェニックスゴースト」は121機以上だ。

ハイテク兵器の巨大なブラックホール

「米国の追加の軍事支援によりロシア軍の第2段階の軍事作戦を抑制し、ウクライナ軍は今後反転攻勢に転じることができる」との期待が高まる一方、頭の痛い問題も浮上している。ウクライナに供与されている大量の兵器を管理する方法がなく、これらの兵器が別の勢力の手に渡ってしまうことが懸念視され始めているのだ。

 米国からの軍事支援はウクライナ側が提供する情報をもとに行われている。ウクライナ側はより多くの支援を得るため、正確な情報を提示していない可能性が指摘されているが、ウクライナ軍についての情報が不足している米軍には打つ手がない。米国から提供される兵器はトラックなどに載せられ、ポーランドとの国境でウクライナ軍に引き渡され、その後、兵器がどこに行き、どこに配備されるかはウクライナ軍が決めることになっているのが実情だ。

 ウクライナに米軍が配備されていないことから、兵器の移動や使用法についての監視・監督はなされていない。米国防総省高官も「ウクライナ軍の兵器管理は短期的には信頼できるかもしれないが、紛争が長期化すればその信頼性はゼロに近づくことになる」ことを認めている(4月18日付CNN)。ウクライナはロシアの侵攻以前から、世界の不安定な地域へ兵器が横流しされる「グレーゾーン」として知られていた。国際NGO「汚職・組織犯罪研究センター」は2017年、「米国をはじめ西側諸国の兵器がウクライナを経由してアフリカ諸国の武装勢力に流れている」ことを明らかにしている。ロシアのウクライナ侵攻から3ヶ月近くになるが、「スティンガーやジャベリンは既に闇市場に出回っている」と軍事専門家は指摘する。

 だが、米国政府は兵器が「横流し」されるリスクに目をつぶり、ウクライナ軍の増強を最優先していることから、ウクライナが「ハイテク兵器の巨大なブラックホール」になってしまうのは確実な情勢だ。

 米軍が供与した兵器が結果的に敵対勢力に利する結果を招いた事例は少なくない。旧ソ連が1979年にアフガニスタンに侵攻した際、米国はアフガニスタンの抵抗勢力にスティンガーなどのハイテク兵器を供与した。ソ連撤退後、米軍は地方軍閥に巨額の資金を与えてスティンガーなどを回収しようとしたが、米国を敵視するアルカイダなどイスラム主義武装勢力の手にも流れてしまったことが確認されている。

 米国は2010年代前半にも、シリアのアサド政権打倒のために、同国の反政府軍に大量の武器を供与したが、これらの武器を大量に確保したイラクのスンニ派過激派勢力が2014年に「イスラム国(IS)」を建国するという皮肉な結果を招いている。

米国内での大規模テロなテロにつながる恐れ

 イラクの安全保障専門家は「米軍がウクライナに供与する兵器をISの残党が手に入れる可能性がある」と警告を発しているが、今回の米国の「兵器の大盤振る舞い」の恩恵を享受するのは中東やアフリカ地域の過激派勢力ばかりではない。ウクライナへの軍事支援で陣頭指揮を執るバイデン大統領は17日、黒人10人が死亡する銃乱射事件が起きた東部ニューヨーク州バファローで演説した。容疑者が影響されたとされる白人至上主義を「毒」だと非難し、白人至上主義者によるテロが広がることへの警戒感を強めるよう訴えた。2001年9月の同時多発テロは米国の支援で急成長したアルカイダの犯行だったが、米国内のテロの脅威は近年、イスラム過激主義の外国人ではなく、白人至上主義者など国内の極右主義者に変わりつつある。

 気になるのはウクライナに米国から義勇兵が多数参加していることだ。そのなかに極右主義者が多数含まれていることが指摘されており、彼らが自国政府がウクライナ軍に供与した取り扱いが容易なハイテク兵器を手にすれば、米国内で大規模テロを引き起こすことが可能になるのではないだろうか。考えるだけでもぞっとする話だ。

 米国は長年にわたり、ならず者国家やテロリスト集団など次々に現れる敵に対して、短兵急に戦いを仕掛け、そのたびに手痛いしっぺ返しを喫してきたが、ウクライナへの野放図な軍事支援のせいで同じ失敗を繰り返さないことを祈るばかりだ。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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