
ロシアのウクライナ侵攻開始から3カ月が経ったが、このところロシアの通貨ルーブルは絶好調だ。ドルに対して過去4年間、ユーロに対して過去7年間の最高値を記録している。ロシアのウクライナ侵攻に対する西側諸国の制裁でルーブルは当初暴落し、過去最安値となっていたが、3月下旬には侵攻以前の水準にまで回復し、足元では侵攻前に比べて約40%のルーブル高となっている。
ルーブルのV字回復に大きく貢献したのはロシアの中央銀行(ロシア中銀)だ。西側諸国に米ドルとユーロの外貨準備が凍結され、為替介入を事実上行うことができなくなったロシア中銀は、投機的なルーブル売りが膨らむのを抑止する目的で政策金利を9.5%から20%へと一気に引き上げた。ロシア中銀はさらにロシア財務省とともに資本規制を導入し、海外貿易の売上高の80%に相当する外貨を強制的にルーブルに両替することを義務付けた。ロシア中銀が実施したこれらの政策の効果はてきめんだった。ルーブルは安定を取り戻し、破滅的な輸入インフレは回避された。
通貨防衛に成功したロシア中銀は、政策の優先度を経済の安定に移しつつある。ロシア中銀は4月上旬、政策金利を17%に引き下げ、同下旬にはさらに14%に引き下げた。ロシアのインフレ率は2002年以来の高水準となっているが、鈍化しつつあり、ロシア中銀は「年内にさらなる利下げの余地がある」との見解を示している。
ロシア中銀は、通貨防衛のために導入した資本規制も緩和し始めている。西側諸国のエコノミストたちは「経済制裁の影響で今年のロシア経済は大幅なマイナスになる」と予測しているが、その予想に反してロシア経済はなんとか持ちこたえている。
最大の理由は化石燃料の輸出が続いていることだ。ウクライナ侵攻以降、ロシアは650億ドル以上の化石燃料を輸出している。ロシア経済を破綻に追い込むため、欧州(EU)委員会はロシア産原油の禁輸を検討している。EUに輸出されていたロシア産原油の量はすでに減少しているといわれているが、タンカーで世界各地に輸送することが可能な原油は「玉突き」現象が起きやすい。
欧州に代わって受け皿となりつつあるのはアジアやアフリカ地域だ。国民の所得水準が低い国々にとって国際価格よりも3割安いロシア産原油は魅力的であり、なかでも目立った動きを見せているのはインドだ。昨年ほとんどロシア産原油を輸入しなかったインドの現在の輸入量は日量70万バレルを超えている。
インドはロシア産原油輸入のさらなる拡大のための準備を進めており、その切り札として期待されているのがインド中銀がロシア中銀とともに進めている「自国通貨ルピーとロシア通貨ルーブルを併用する決済システムの構築」だ。ロシアと伝統的に友好関係にあるインドは冷戦期、旧ソ連との間で二国間通貨による貿易決済を実施していたことから、新決済システムが早期に立ち上がる可能性がある。