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国内事業の利益4割減…無印良品に今、何が起きているのか?

文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授
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無印良品のHPより

 世界全体での物価急騰が良品計画の事業運営に大きな負のインパクトを与えている。5月の国内売上高は前年同月の実績を上回るなど、動線修復に支えられて収益は徐々に上向いているが先行きは楽観できない。ウクライナ危機の発生などによって、世界経済の脱グローバル化が勢いづいた。エネルギー資源などの価格急騰は鮮明だ。良品計画はさらなるコストプッシュ圧力に直面するだろう。同社が事業運営体制を強化してきた中国では、経済が高度成長期から安定成長期へ曲がり角を曲がった。中国事業の業績拡大ペースが鈍化するなど、同社はより強い逆風に直面する恐れが増している。

 良品計画は、新しい事業運営体制を確立しなければならない。そのために重要性が急速に高まっているのが、アセアン地域やインドでのシェア拡大だ。2022年8月期の上期決算では国内や中国事業が苦戦する状況下でも、タイとマレーシア事業が成長した。やや長めの目線で考えると、中国からアセアン各国やインドに流入する資本が増えるだろう。それは良品計画が長期の成長を目指す光明といえる。

急激なコストプッシュ型インフレの直撃

 2022年8月期の良品計画の上期決算は増収減益だった。営業収益は前年同期比107.1%の2,444億円だった。営業収益増加の主たる要因は国内外における出店の増加だ。それは無印良品のブランドが世界の消費者から強く支持されていることを示している。その一方で、営業利益は前年同期比80.6%の188億円だった。

 営業利益が減少した原因の一つは、世界全体で急激に物価が上昇して事業運営コストが急増したことだ。中国のゼロコロナ政策によって生産活動は大きく停滞した。ゼロコロナ政策は世界的な物流網の混乱と停滞に拍車をかけた。さらに、ウクライナ危機が発生したことがコストプッシュ圧力を急激に強めた。サプライチェーンが寸断され、エネルギー資源や穀物などの価格が上昇した。

 さらには、世界的に人手不足が深刻化し、賃金も増加基調だ。それに加えて、世界経済全体で需要が落ち込んだことも大きい。特に中国では上海など主要都市でロックダウンが実施され個人消費が急速に減少した。なお、中国では動線寸断によって既存店舗の売上が苦戦したものの、オンライン事業は相応の好調さを維持した。感染再拡大によって韓国事業も苦戦した。そうした負の要因が重なり、営業利益が減少した。特に、国内事業の営業利益は前年同期の59.7%と落ち込みが大きい。良品計画が消費者の支持を維持するために値下げを実行した結果、コストを吸収することが一段と難しくなった。

 同社は正念場を迎えている。特に、コストの削減を徹底し、新しい商品をより多く生み出すビジネスモデルを確立することは急務だ。決算説明会資料には自社を取り巻く環境が急激に変化していることの危機感が明確に示された。経営陣は中国事業の売上見通しを引き下げ、通期の業績予想を下方修正した。それだけゼロコロナ政策への警戒感などが強い。

 それに加えて、急速なコストプッシュ圧力の高まりへの危機感も明確に示され、店舗運営に必要な費用が削減される。また、良品計画は本部人員のプロ化、少数化を進め意思決定のスピードを引き上げようとしている。良品計画は事業運営の守りを固めようとしている。

成長期待高まる良品計画のアセアン事業

 他方で、事業環境の厳しさが増す中にあっても、良品計画は中長期の視点で成長を目指さなければならない。そのために注目されるのが、アセアン地域など中国以外のアジア新興国市場での事業運営だ。同社のアセアン事業は着実に成長を遂げている。上期にはタイで新規出店も行われた。昨年夏場のデルタ株の感染再拡大によって経済に大きな打撃がもたらされたアセアン地域の個人消費は堅調であり、それを良品計画は着実に取り込んでいる。先行きの不確定要素が増えるなかで良品計画がさらなる成長を目指すために、アセアン事業の成長加速は欠かせない。

 アセアン地域における良品計画の成長は、同社が世界経済の急激な環境変化に対応する力をつけていることを示唆する。1990年代初頭以降、世界経済はグローバル化した。国境の敷居が下がり、先進国の企業は中国や東南アジアの新興国に進出して生産コストの低減を享受した。その一方で、多くの企業が米国などより高い価格で商品を販売するビジネスモデルを構築した。ジャストインタイムのサプライチェーンの整備も進み、世界経済全体で物価が上昇しづらいと同時に国内総生産(GDP)成長率が緩やかに上向く環境が出現した。

 しかし、2018年以降の米中対立、コロナ禍、ウクライナ危機の発生などによって、グローバル化が逆回転し始めた。国境のハードルが上昇してサプライチェーンは寸断され、企業の事業運営の効率性が低下している。ウクライナ危機の発生後はエネルギーや穀物など多くのモノとサービスの価格が急騰し、世界全体で物価が急速に上昇している。それが良品計画の減益に与えた影響は大きい。

 その状況下、世界の供給基地としてのアセアン経済の重要性が急速に高まっている。例えば、台湾海峡緊迫化などのリスクの高まりを避けるために、マレーシアで車載用の半導体生産能力強化に取り組む半導体メーカーが増えた。タイでは自動車や食品分野などで直接投資が増えている。そのため、世界的に物価が急騰し景気減速懸念が高まる状況下にあっても両国の景況感は底堅い。それが、良品計画のアセアン事業の成長を支えている。

緊急性高まるアセアンやインドでの需要獲得

 良品計画の中長期的な事業戦略として、アセアン地域やインド市場の重要性はさらに高まる。同社の収益を地域別に考えると、日本では人口の減少と経済の停滞によって国内需要が縮小均衡に向かう。さらに物価の上昇によって節約を優先する家計が増えるだろう。同じことは韓国にも当てはまる。中国ではゼロコロナ政策による景気の急速な冷え込みによって消費者心理の悪化が深刻だ。不動産バブル崩壊も深刻化しており、短期間で中国の個人消費が上向く展開は期待できない。中国経済の成長率低下とウクライナ危機によるエネルギー資源などの価格急騰によって、欧州の個人消費も減少するだろう。

 さらに欧米中銀がインフレ退治になりふりかまってはいられなくなった。金利上昇も消費にマイナスだ。その一方で、中国からインドなどに生産拠点を移す企業が増えている。中長期的にアセアン地域やインドは良品計画が長期存続を実現するための最重要地域になる可能性が高い。中国で支持されたように、無印良品ブランドは新興国の消費者にとって憧れの存在といえる。コストの削減を徹底しつつ、各国の消費者の行動様式にあった商品開発を加速することで、良品計画がアセアン地域の成長のダイナミズムをより大きく取り込むことはできるはずだ。

 そのために、良品計画は新しい事業運営体制を整備しなければならない。具体的にはアセアン地域などの消費者の好みに精通したマーケティングなどの専門家=プロをより多く登用し、いち早く新しい商品を投入することが不可欠だ。事業運営の効率性を引き上げるために生産拠点の再編など既存のビジネスモデルの再構築も避けて通ることはできないだろう。

 近年、良品計画は海外事業を強化してきたが、依然として営業収益の6割は国内で獲得されている。組織内部には、自社は国内の小売ブランドとしての認識が強く残っているだろう。そうした組織の風土を根本から変え世界経済の急激な環境変化にしっかりと対応しつつアセアン地域などの消費者の好みをいちはやく理解し、長く支持される商品を開発する体制を同社は迅速に確立しなければならない。経営陣の腕の見せ所だ。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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