宅配サービスサービス「出前館」は10月、2023年8月期の連結営業損益が190億~210億円の赤字になるとの予想を発表した。5期連続の赤字となる見込みだ。
大々的にテレビCMを展開し、さらにコロナ禍による巣篭もり需要でその存在感が高まっている出前館だが、なぜ赤字が続いているのだろうか。そこで今回はスタートアップ企業の財務事情に詳しい株式会社ファインディールズの代表、村上茂久氏に、出前館が陥っている状況を解説してもらった。
もともとは自社でデリバリーサービスを行っていなかった出前館
まずは、出前館がどのような変遷を経てきたのかを確認しておこう。
「出前館は、好きな飲食店のメニューをスマホやパソコンから注文し、その商品を自宅まで届けてくれるフードデリバリーサービスの一種です。アメリカの『Uber Eats』と並び、コロナ禍で一気に国内でのシェアを伸ばしました。
ただ、出前館は今でこそフードデリバリー業で知られていますが、2000年のサービス開始時は自社での配達は行っておらず、配達システムを持っている『ピザーラ』や『銀のさら』といった大手フードデリバリーチェーン店の商品を中心に掲載する、デリバリーのポータルサイトだったのです。一昔前の出前というと、チラシやネットを見て客が自ら店舗に電話で注文するのが主流でしたが、出前館はこの各店舗でバラバラだったチラシなどをひとつのサイトにまとめ、ユーザーが簡単に注文できるようにしていたということですね」(村上氏)
その後、出前館は小規模な飲食店にも足を運んで交渉を重ね、登録店を増やしていったという。
「この当時の出前館は、ユーザーから注文が入ると出前館側が登録店に電話やファックスでオーダーを伝え、それを受けた店が料理を用意。その店が直接配達に向かうというシステムを採用しており、これを中心としたビジネスモデルは2018年頃まで続きました」(同)
莫大な赤字の原因は、配達業務の根幹を成す配達代行
旧来の出前のスタイルを変革させたことで人気を獲得した出前館だが、コロナ禍になって一気に売上を拡大させていく。
「有価証券報告書や、9月1日から翌8月末日までの同社の年間決算短信をもとに制作した出前館の年間売上高の推移を見ると、2015年は37億円、17年は49億円、19年は67億円と右肩上がりで成長を続けていました。そんな折にコロナ禍に突入し、20年に一気に103億円に跳ね上がり、21年は290億円、22年にはなんと473億円にまで到達しています」(同)
コロナ禍が追い風になったとはいえ、7年前の15年と比べて22年の売上高は12倍以上になるとは驚きである。にもかかわらず前期は364億円もの赤字を出してしまっているのはなぜなのか。
「出前館は、22年は473億円の売上ですが、原価(サービスを提供するために使った費用)だけでなんと492億円もかかっており、この段階ですでに19億円の赤字になっています。ここからさらに広告宣伝費や人件費などを加算することで、364億円もの営業赤字に至ってしまったのです。
問題なのはこの莫大な原価の部分。一体何にそこまで費用がかかってしまうのかというと、それはやはり配達コストなのです。16年頃まで自社で配達を行っていなかった出前館は、翌年から自社でアルバイトを雇って配達代行を行うようになり、21年、22年頃になるとこの配達を代行業者にアウトソーシングするようになったのです。
この切り替えの理由を、出前館は決算説明資料のなかで『アルバイトにかけるよりもコストが削減できるため』と説明しています。確かにアルバイトにすることでコストは削減できると思いますが、実際のところは『アウトソーシングせざるを得ないほどに注文が急増した』というのが実態ではないでしょうか」(同)
利益を出せない出前館に、親会社たちが出資を続ける深い事情
配達の代行に多額の出費を重ねている出前館だが、なぜここまでの無茶を続けられるのかが気になるところだ。
「それを説明する前に、まずは出前館の株を持っている会社について説明しましょう。16年頃からシェアリングデリバリーを始めた出前館ですが、実はこの頃からメッセンジャーアプリで知られるLINEと資本業務提携を始めます。20年頃になると、LINEは出前館にグループで総額300億円もの出資を決定し、約36%の株を持つようになります。
そして同時期にLINEが10%出資している投資組織、未来FUND有限責任事業組合も25%の株を持つようになり、瞬く間にLINEとつながりを持つグループが出前館の株式の60%超を保有することになりました。さらに、同グループは出前館に取締役を3人、監査役を1人派遣して、実質的な子会社にしてしまったのです」(同)
出前館はそんなLINEから得た資金のうち、なんと180億円を1年で使い、配達代行業務に一気に力を入れていったという。だが、こうした資金運用がさらなる企業たちとの関係につながっていった。
「成長のために多額な資金を投入することで、資金を一気に使ったため、出前館は21年9月に公募で約830億円もの増資に踏み切ります。このとき約333億円をZホールディングス(ZHD)、約180億円をNAVERが引き受けるのですが、このZHDはLINEの親会社であり、NAVERはZHDの筆頭株主であるAホールディングス(AHD)の株式を50%持つ親会社となっています。さらにAHDの株式を50%持つもうひとつの親会社がソフトバンクです。
出前館が配達代行業者に多額の資金を投入し続けている理由は、NAVERとソフトバンクという2大企業のグループの子会社となり、彼らから多額の出資を受けているからにほかなりません」(同)
ここで気になってくるのは、利益を生み出せていない出前館に、なぜ親会社がこれほどの出資を続けているのかという点だ。
「出前館の事業を通じてさらなる事業展開を見据えているからでしょう。というのも出前館は今、飲食店のみならずコンビニなどの配達を行っているのですが、これは欧米などで流行りつつある、日用品を30分以内に配達するクイックコマースという業務形態のテストだといわれています。つまり、親会社はコロナ禍で利用者が急増した出前館を通して、ユーザーを次なるビジネスへ誘導しようとしているのでしょう」(同)
NAVERとソフトバンクにとって、利益の上がらない出前館への多額の出資は、次世代のインフラにもなりえるビジネスへの先行投資という側面もあるようだ。