ダウンタウンの浜田雅功がスーダラ節に乗せ「出前がすいすいすい~」と歌う、料理宅配の出前館(JQ上場)のCMが話題になって久しい。このCMが昨年7月に放映されて以来、ブランド認知率は右肩上がり。今年3月上旬に認知率は84.4%まで上がった(LINE Research Platform調べ)。CM総合研究所の調査によると、20年度は前年度の20倍を超える好感度を記録し、CM好感度躍進企業ランキングで初めて2位にランクインした。出前館のCMが消費者にいかに浸透したかがうかがえる数字だ。
業界首位のウーバーイーツ(東京・港区)などとの競争を勝ち抜くため投資を積極化した。CM効果で4月時点の加盟店舗数は7万店を突破。昨年8月末時点の2倍となった。加盟店数は大幅にアップしたが、それに見合うリターンを生み出すことができない厳しい現実に直面している。
出前館の20年9月~21年2月期の連結売上高は前年同期比2.7倍の104億円に膨らんだ。加盟店舗数・ユーザー数の拡大によるオーダー数の増加によりサービス利用料収入が増加し、シェアリングデリバリー配達件数増に伴う配達代行手数料収入も大きく伸びた。シャアリングデリバリーとは、配達機能を持たない飲食店が出前館のデリバリーを手数料を払って利用することを指す。1年以内に1回以上サービスを利用したアクティブユーザー数は582万人と8割増えた。
半面、営業損益は83億円の赤字(前年同期は9億円の赤字)、最終損益は96億円の赤字(同9億円の赤字)。配達業務の委託費などの売上原価や、新規ユーザー獲得に向けた広告宣伝費、人件費などが共に約4倍に急増した。広告宣伝費の実額は62億円、人件費は43億円であった。配達員などの人件費以上に広告宣伝費をつぎ込んだことがわかる。
売上高販管費率は19年8月期は63.5%だったが、20年8月期は96.1%に上昇。20年9月~21年2月期には130.4%と売り上げを大きく上回った。これが赤字が積み上がった原因だ。
20年2月末時点の現預金はおよそ13億円。20年3月、LINEとその親会社韓国ネイバーからの出資を受けて300億円を調達。広告宣伝費やシステム投資に充当した。
今期(21年8月期)と来期(22年8月期)は高コスト状態が続く。21年8月期通期の連結決算の見通しは、売上高が前期比2.7倍の280億円、最終損益は130億円の赤字(前の期は41億円の赤字)。23年8月期の売上高の予測は20年8月期実績の9.4倍の970億円、120億円の営業黒字を目指す。そのためにも広告・宣伝効果を高め、シェアを拡大することが絶対に必要となる。
同業他社との競合は激しさを増す。ウーバーイーツの加盟店数は出前館が目標とする10万店をすでに超えた。18年設立で業界3位のmenu(メニュー、東京・新宿区)は5万3000店に達し、KDDI(au)がmenuに資本参加し50億円を投下する。独料理宅配大手デリバリー・ヒーロー(DH)傘下の宅配アプリ、フードパンダは昨年秋、日本に新規参入。デリバリー・ヒーロー・ジャパン(東京・港区)が加盟店の募集を始めている。
SBGに組み込まれたLINEとウーバーイーツの統合はあるのか
LINEが出前館を買収した意図が見えてきた。20年8月18日放送のテレビ東京の経済情報番組『ワールドビジネスサテライト』が「出前館がウーバーイーツの買収を検討している」と報じた。出前館は翌19日、買収報道を完全否定したが、出前館とウーバーイーツは「以前、お互いに買収を検討していた時期がある」(関係者)。だから、この報道を市場関係者は「さもありなん」と受け止めた。
LINEは20年3月、業界第2位の出前館に追加出資し、出資比率を34.42%(名義はAホールディングス、21年2月末時点)に高めた。韓国ネイバーとの共同出資の未来ファンドが24.04%(同)を出資。つまり、出前館の過半数の株式を握っている。そのLINEは、21年3月をメドに、通信大手ソフトバンクグループ(SBG)傘下のZホールディングス(HD)と経営統合すると明らかにした。
一方、ウーバーイーツは、タクシー配車サービスのウーバー・ジャパンが展開している。米国本社のウーバー・テクノロジーズにはSBGが出資。出前館とウーバーイーツはいわば、SBG内の“親戚”なのである。出前館によるウーバーイーツの買収が取り沙汰された理由はこれだ。
21年3月、ZHDがLINEを経営統合した。出前館の親会社は、LINEからZHDに替わった。SBGは今年1月、傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を通じて保有するウーバー・テクノロジーズの株式の2割弱を売却した。売却額は約2100億円。18年に出資して以来、ウーバー株を手放すのは初めてだった。
SVFは20年9月末時点でウーバー株式に総額76億ドルを投下してきた。4億ドル強の含み益があり保有額(時価換算)は81億ドルとなった。ウーバー株はその後も上昇し、20年の年間上昇率は7割強に達した。ウーバー株式の売却により、SVFは一定の実現益を得た。ウーバーの堅調な株価上昇を反映する未実現評価益も、当然、SBGの決算に反映された。
これがSBGの投資手法だ。投資する上場企業の株価が上がれば、一部を売却して実現益を手にし、株価上昇に伴う未実現評価益を計上する。一口で二度果実を味わう“グリコ方式”をとる。ZHDが傘下に組み入れた出前館は赤字の膨張で株価は低迷中。年初来高値が1月4日の3560円なのに対して6月3日の終値は1844円。年初来安値は5月26日の1682円である。目減りして、株価は高値のおよそ半分になるという状況だ。
出前館がウーバーイーツとの経営統合をテコに赤字を解消できれば、これが株価を押し上げる有力な支援材料になる。
(文=編集部)