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JR東日本、突然にSuica未使用残高を「利益」計上→黒字転換し物議…苦肉の策か

取材・文=文月/A4studio
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JR東日本のHPより

 10月31日、JR東日本は2023年3月期第2四半期決算を公表。連結売上高は1兆1150億7300万円、前年同月比27%増となった。コロナ禍の反動で需要が増えたことにより、すべてのセグメントで増収、増益を果たし、およそ3期ぶりにすべての利益項目が黒字転換した。

 しかし、決算の中身を読んでみると、奇妙な点があることに気づく。20年度3月期第2四半期決算から赤字続きだった運輸事業の営業利益が、前年度の1439億円の赤字から173億円の黒字となり、大幅な増益となっている。黒字転換はしているのだが、Suica負債分の収益計上時期を変更し、利益として勘定したのだ。

 Suica負債とは、Suicaにおける未使用の入金残高のこと。すなわちSuica利用者が入金(チャージ)したものと、預け入れ(デポジット)したものの使用していない金額を指す。従来、JR東日本はこうした未使用の入金残高を負債として計上し、一定期間が経過した未使用の残高を収益計上していたが、23年度3月期第1四半期決算から収益計上方法を変更し、(売上高に相当する)営業収益が222億ほど増加し、営業利益も上がった。

 このJR東日本の突然の方針転換には疑問の声があがる一方、資金調達や税制優遇などへの影響を考慮しての苦渋の決断だったと評価する声も出ている。そこで今回は、武田公認会計士事務所所長で公認会計士の武田雄治氏に、今回の決断の背景について解説してもらう。

利益計上変更の狙いは金融機関へのアピールか

 JR東日本は決算書で「Suicaのサービス開始後相当期間が経過し、適切なデータが蓄積されたことで、未使用の残額に係る収益計上の時期をより合理的に見積ることが可能となったため、当該データを使用した見積り方法に変更しております」と説明しているが、武田氏はいう。

「JR東日本の監査法人がOKを出したので、会計方針の変更は問題ないのでしょうが、決算書には具体的な計上方法の説明がなく、会計処理のプロセスが一切不明です。株主を多数抱える上場企業としては、少々説明不足な点は否めません。

 JR東日本は、従来からSuica入金残高を負債として計上していましたが、22年度までは『一定期間が経過した未使用の残額を収益計上しております』としていたものをいたものを、23年度に『一定期間が経過』していない未使用の残額をも一気に営業収益に計上したようです。しかし、その計算方法などは外部からは分かりません」(同)

 Suica未使用残高を利益計上すること自体は問題ないのだろうか。

「それは特に問題はないでしょう。Suicaはデパートの自社商品券と同じです。そして通常、未使用の自社商品券は負債として計上されることになるのですが、一定期間以上、商品券が使われないと、負債を取り崩し、収入として会計処理することが慣行となっています。

 ただ今回のようなイレギュラーな会計処理の変更に伴う収益計上は、特別利益として計上するのが一般的なのですが、今回JR東日本は(売上高に相当する)営業収益に計上しています。JR東日本は負債のSuica未使用残高を営業収益に計上したい理由があったのでしょう」(同)

 JR東日本がそこまでして、営業利益に計上することにこだわった理由とは何か。

「一番はやはり資金調達対策でしょう。JR東日本の主要事業である運輸業の営業利益は21年度3月期から赤字になっており、仮に今年が赤字であれば3期連続でした。企業が3期連続で赤字になれば、金融機関の「債権者区分」(格付け)が「破産懸念先」へと格下げされる場合があります。。そのため実質的に資金調達が困難な状態になってしまうのです。

 主要産業である運輸業の業績が悪ければ、金融機関は融資に難色を示しやすい。JR東日本は、融資を受け続けるために営業利益をなんとか黒字にするべく、苦渋の決断でSuica未使用残高を営業収益に計上したのではないでしょうか」(同)

業績不調の運輸事業、求められる説明責任

 たしかにコロナ禍以降、JR東日本の運輸事業の業績は低迷していた。23年3月期第2四半期決算をより詳しく見ると、20年度の営業利益は2941億円の赤字、21年度は1439億円の赤字と、回復傾向にはあるものの大幅な赤字が続いていた。

 鉄道事業は、利用者数によって業績が左右される。コロナ禍の影響による利用者数減少、列車本数の削減などの理由によって、JR東日本は業績を落としてしまったのだと考えられる。またコロナ禍前に比べ、在来線、新幹線の運輸収入はそれぞれ76.3%、64.0%となっており、好調とはいいがたい。JR東日本はどちらも23年3月末までに90%近くへと回復する見通しを立てているものの、コロナ禍前の水準に戻るかどうかは不透明である。こうした業績への焦りから、Suica未使用残高の利益計上へと舵を切ったのは想像に容易い。

「具体的な企業名は申し上げられませんが、今回のJR東日本のように、利益計上の方法を変更して見かけ上、業績がアップしているように見せている企業は少なくありません。ただ今回のJR東日本の行動は、ストックしてあった売上見込み分を前倒しして計上する、一世一代の大技を使ったということになります。推測になりますが、それだけJR東日本は追い詰められているのかもしれないですね」(同)

 方法としては常套手段だが、JR東日本クラスの大企業ならば説明責任を果たすべきだと武田氏はいう。

「具体的な計上の仕方に関する説明もなければ、決算書にもさらっと変更の旨の記載をしているだけのものです。どうしても説明不足感は否めませんし、投資家、株主への説明が十分なものではないと思います。個人的には、JR東日本がきちんと意図と詳細について説明する責任があると考えております」(同)

(取材・文=文月/A4studio)

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エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
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Twitter:@a4studio_tokyo

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