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民主主義の軽視、少子高齢化、ニュース砂漠化…江川紹子が危惧する「今年直面する正念場」

文=江川紹子/ジャーナリスト
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岸田首相(写真=GettyImages/Anadolu Agency)
唐突な政策決定に批判の声があがるも、同じ説明を繰り返すだけで“丁寧な議論”を避ける岸田首相(写真=GettyImages/Anadolu Agency)

 2023年は、いくつかの点で、私たちの国にとっての正念場となるのではないか。

 一つは、この国の民主主義のありようである。

 2年前の9月に自民党総裁選に立候補した岸田文雄氏は、民主主義の危機を強く訴えた。

「この国の民主主義を守るために」「政治生命をかけ、新しい政治の選択肢を示す」――そう約束し、「聞く力」をアピールして当選。この岸田氏が首相の座に就いた時には、長く続いた安倍・菅政権の間に傷んだこの国の議会制民主主義を立て直すのではないか、と期待する向きもあった。

 だが、安倍晋三元首相の国葬を国会の関与抜きで決定したあたりから、その期待は急速にしぼんだ。岸田首相の「丁寧な説明」は、結局のところ、同じ説明を繰り返すだけで、民主主義にとって大事な「丁寧な議論」が欠けているからだ。

唐突な防衛政策の大転換、問題だらけのプロセス

 それでも、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題がクローズアップされた昨年の臨時国会では、被害者救済法と位置づけられた「不当寄付勧誘防止法」案について、野党との修正協議には応じた。年内に何らかの成果を出すことが求められていたからだが、それでも久々に「熟議」という言葉を思い出した。

 ところが、その国会が閉じるや、安全保障やエネルギーなど、本来熟議が必要と思われる重要な政策を相次いで、慌ただしく決定。その中には、増税など国政選挙の時にはまったく出ていない事柄も含まれていた。

 たとえば防衛政策。

 臨時国会のさなかの昨年11月末に読売新聞が、「反撃能力」確保のために防衛省が米国製巡航ミサイル「トマホーク」を最大500発購入する、との独自記事を掲載した。この事実について、国会で野党議員が質問したが、浜田靖一防衛相は「検討中であり、具体的な内容は何ら決まっておりません」と何も語らなかった。

 その臨時国会が閉会するや、翌日の日曜日から自民党が防衛費増加の財源の議論を始めた。「金額ありきではなく、国民に丁寧に説明する」と言っていたはずの岸田首相は、防衛費GDP比2%増の、まさに「金額ありき」の指示を出しており、それを実現するためには1兆円程度不足するとの計算が出ていたためだ。

 数日間の党内のすったもんだを経て、法人税など3税の増税で合意した。昨年あった参院選での公約にはまるで出ていない、唐突な議論と決定だった。

 この党内合意があった翌日、政府は「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有などを盛り込んだ安保関連3文書を閣議決定。そこには、2週間ほど前に国会で「何ら決まっておりません」と答弁した「トマホーク」など長射程ミサイルの「着実な導入」も明記されていた。岸田首相は記者会見で「戦後の安全保障政策を大きく転換する」と宣言した。この間、国会閉会からわずか6日である。

 そして年明け早々には、岸田首相の訪米日程が発表された。報道によれば、バイデン米大統領は日米首脳会談において、反撃能力「トマホーク導入」を含む安保3文書に全面的な支持を表明する、という。

 ロシアによる侵略戦争が続き、北朝鮮のミサイル発射が相次ぎ、中国の軍拡路線が進むさなかに、この国の安全保障をどうしていくべきか。その方向性を「国権の最高機関」たる国会で議論するでもなく、閉会してから政府が決定し、しかも次の国会に諮るより先に米国の支持をもらいに行くのである。その前にはG7のヨーロッパも歴訪する。日本国憲法の平和主義のもとで、どの程度の「反撃能力」が許されるのかなどの論議を尽くす前に、G7各国の支持をとりつけ、「トマホーク」など米国製巡航ミサイルの購入も約束し、国際公約にして帰ってくるのだろう。

 順番が違うのではないか。

人口減少・少子高齢化……国力低下の危機にもかかわらず具体策を先送り

 今月23日に始まる通常国会で、こうしたプロセスも含めて、徹底した議論ができるのか。この国の今後の民主主義のありようを考えるうえで、この国会はとても重要だと思う。

 正念場となる第2の課題は、人口減少・少子高齢化だ。

 国立社会保障・人口問題研究所が、2017年に公表した「日本の将来推計人口」は、2053年に人口は1億人を切り、65年には8808万人へと落ち込むと推計する。ただ、少子化はこの時の予測を上回るペースで進んでいる。年間出生数は昨年初めて80万人を割り込む見込みとなり、予測を8年も前倒しした。また、出入国在留管理庁のデータを見ても、外国籍の中長期在留者数が劇的に増えているわけでもなく、定住外国人が人口を押し上げる兆しは見られない。

 同研究所は今年、新たな推計値を公表する。人口減少のペースはさらに早まる推計が出るのではないか。

 経済が縮み、国力の低下に直結する。人々はこれまで受けられていた様々な行政サービスを受けられなくなる。文化やスポーツの担い手もいなくなる。自衛隊や海上保安庁など防人たちも足りなくなる……。人口減少・少子高齢化は、この国にとって間違いなく、最大の脅威と言えよう。

 しかも、外国から侵略や攻撃を受ける「可能性」とは異なり、こちらはすでに進行中。極めて現実的で、もはや「不可避」の危機と言える。

 昨年暮れ、安保3文書閣議決定と同じ日に公表された「全世代型社会保障構築本部」(本部長・岸田首相)の報告書でも、「少子化は、まさに、国の存続そのものに関わる問題」と警告。「子育て・若者世代への支援」を「最も緊急を要する」課題に位置づけている。にもかかわらず、防衛費に関しては慌ただしく増税を決めたのと違い、こちらは肝心の財源に関して具体策は示さず、決定は今年夏以降に先送りされた。

 4月にはこども家庭庁が発足するが、同庁に移管される事業の23年度予算案は前年度比わずか2.6%増にとどまる。ちなみに防衛費は26%増だった。

 政府の危機対応は、優先順位が間違っているのではないか。

 そんな批判を受けてか、今年に入って、岸田首相は「異次元の少子化対策に挑戦する」と言い出した。「異次元」とはいかなる意味か不明だ。具体策としてあげているのは、(1)児童手当など経済的支援の強化、(2)学童保育や病児保育など子育てサービスの強化、(3)育児休業制度など働き方改革の推進の3点であり、これまでの施策の延長だ。「異次元」の話ではない。おまけに「実施する」ではなく「挑戦する」。予算や財源にも触れていない。

 その後、財源については、甘利明・前自民党幹事長が消費税増税を言い始めたが、松野博一・官房長官は「当面(消費税に)触れることは考えていない」と打ち消した。防衛費のいきさつを考えれば、「当面」は考えず、通常国会を閉じた頃に急に考え始めるのかもしれない。

 人口減少のスピードを緩和するには、少子化対策以外に外国人が日本にやってきて定住しやすい社会を作っていくことも考える必要があろう。だが、岸田首相からその点についての「丁寧な説明」は未だない。

 人口減少以外にも、現に進行中の「不可避の危機」はいくつも存在する。気候変動が原因と思われる災害の劇甚化がそうであり、橋やトンネル、上下水道などのインフラ老朽化も深刻だ。

 そのうえ、日本経済研究センターの試算によれば、国の平均的な豊かさを示す日本の1人当たりGDPは、今年は台湾、来年には韓国を下回る、という。しかも、行政などのデジタル化が遅れた日本は、今後は年々差を広げられる見通し、とのことだ。文部科学省科学技術・学術政策研究所が公表した「科学技術指標2022」によれば、自然科学分野の論文数で日本は約20年間で4位から10位に陥落。科学技術力の低落傾向に歯止めがかからない。

 こうした「不可避の危機」にどう対応するのか、これも政治の状況を注視していきたい。

迫りくる新聞社の倒産の影……日本全土「ニュース砂漠化」への危機

 そしてもう一つ、深刻さを増している危機がある。それは、「ニュース砂漠」化の問題だ。「ニュース砂漠」とは、アメリカで地方紙が次々と廃刊となり、地元で発行されている新聞がゼロ、もしくは1紙のみ、という地域が増えている現象を指す。これが対岸の火事とは言えなくなってきている。

 日本では、読売、朝日、毎日、日経などの全国紙に加え、一つの県に1紙もしくは2紙の県紙が存在し、一見、「砂漠化」は免れているように見える。

 しかし、日本の新聞の購読者はどんどん減っている。日本新聞協会の調査では、全国での新聞の発行部数は2000年の約7200万部から2022年には約3700万部と、ほぼ半減。世帯当たりの部数も、1.13から0.53へと激減した。今年は0.5を切る可能性がある。つまり、過半数の家庭が新聞を購読していない状態が出現する。

 もちろん、ニュースを見るのに、新聞などの紙媒体にこだわる必要はない。各新聞社も、電子版の契約コースを用意するなどデジタル化を進めてはいるが、その歩みは極めて遅遅としている。これまでのビジネスを支えてきた販売店を切り捨てられず、重要顧客である高齢者層への配慮もあるのだろう。

 家庭で新聞を購読していなければ、若い世代は新聞がないのが当たり前の環境で育つ。当然、読む習慣もない。筆者(江川)が教えている大学で、新聞を教材に使う時など、「おばあちゃんのうちに行ってもらってきました」「初めてコンビニで新聞買いました」などという学生もいる。

 新聞業界はますますじり貧である。(都会も含めて)様々な地域を取材する記者が減らされ、全国紙が地方支局を閉じる動きも進んでいる。今のところは持ちこたえている地方紙でも、それがいつまで続くか分からない。今の愛読者である高齢者層も永遠に生きられるわけではない。いつの時点でか、新聞社がバタバタと倒れ、日本全土が一気にニュース砂漠化する懸念もある。

 新聞を、単なる情報ビジネスととらえる向きは、「別にいいじゃないか、時代遅れの産業は潰れれば」と考えるかもしれない。しかし困るのは、ニュース情報の量、質、価値判断、さらに取材の組織性や継続性などの点で、新聞は今なお基本メディアであり、それに代替するものはまだない、ということだ。

 様々な分野でフリーランスのジャーナリストやネット上の新興メディアが活躍している。専門家による解説なども盛んに発信される。スマートフォンやSNSの普及で、いろいろな出来事に居合わせた人たちが、ビビッドな写真や動画を拡散したりもする。情報源の多様化は、私たちに多くの恵みをもたらしてくれている。

 ただし、人々への情報提供がそれで十分とは思えない。ネットで流れる様々なニュースの多くは、新聞や通信社などの記事である。その新聞が次々に潰れ、記事の配信もろくにできなくなり、全国的かつ継続的に取材を展開できるのはNHKだけ、というような状況になったらどうなるのか。様々な危機に直面している今、大学教授がネットメディアで「僕はニュースは見ない」とコメントしてはばからない状況を見るにつけ心配になる。

 にもかかわらず、当事者である新聞業界、具体的に言えば日本新聞協会が、この問題について何ら発信していないことが本当に歯がゆい。人々が必要な情報を十分に得られない状況は、格好の戦争プロパガンダの土壌にもなりかねない。ニュースの危機を、当事者はもっと発信すべきではないのか。

 この問題も、まさに正念場を迎えている。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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