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トヨタ「実績なし」新社長人選の怪…豊田社長、長男の世襲への布石とEV普及阻止

文=桜井遼/ジャーナリスト
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トヨタ自動車のHPより

 13年間にわたってトヨタ自動車のトップを務めてきた創業家出身の豊田章男社長が、4月1日付けで代表権を持つ会長に就くことを決めた。後任は取締役でもない佐藤恒治執行役員。後継者を育成すると言い続けながら、次々と候補者を切り捨ててきた豊田氏がここにきて社長交代を決めた理由とは――。

「トヨタの変革をさらに進めるためには、私が会長となり、新社長をサポートするかたちが一番よいと考え、今回の決断に至った」(豊田社長)

 社長就任から10年以上が経過したころから豊田社長の後継者選びが話題となり、数多くの候補者の名前が挙がった。株主総会で後継者に関して質問が及ぶと、豊田社長は「トヨタフィロソフィー、TPS(トヨタ生産方式)といったトヨタの思想や技、所作を身につけている」ことなどを挙げて、後継者を人選している姿勢を示してきたが、その一方で後継者として名前が挙がると、自身の立場を脅かすと思ったのか、次々と排除してきた。

 その豊田社長が急遽、社長交代を決断したのは、「経団連を中心とした財界活動を本格化するため」との見方が有力だ。豊田社長は以前は政財界とは距離を置いてきた。その理由は「自動車業界と違って、言うことを聞いてくれない」(自動車メーカー幹部)からだといわれている。トヨタにしても、豊田社長が会長を務める業界団体の日本自動車工業会にしても、豊田社長が意のままに操ってきたが、政財界はそういうわけにはいかない。

EVシフトへの抵抗

 しかし、「政財界が嫌いだから近寄らない」ではすまなくなってきた。その背景にあるのが世界的に進む電気自動車(EV)シフトだ。欧州や北米、中国ではEV市場が急激に拡大しており、テスラや中国のBYDなどEVメーカーが販売を伸ばし、海外自動車メーカー各社もEVのラインナップを拡充している。EVで出遅れていたトヨタもこうした動きに対応するため、EVのラインナップを拡充する計画を打ち出した。ところが、最初に市場投入した量産型EV「bZ4X」で原因不明の不具合が発覚、長期間販売停止に追い込まれるなど、つまずいた。「トヨタはEVを開発する能力がない」との烙印を押された。

 もともとトヨタはハイブリッド車(HV)では世界トップなこともあって、環境対応車としてHVを重視、EVに否定的だった。部品点数が少ないEVは、トヨタの競争力の源泉である系列サプライヤーを維持できなくなる。このため、HVや燃料電池車(FCV)、水素エンジン車など全方位戦略を掲げている。

 ただ、カーボンニュートラル社会の実現に向けた機運が高まるなかで、環境対応車としてEVが本命視されている。2035年に内燃機関車の新車販売を禁止する欧州連合や米国カリフォルニア州などの規制では、HVも販売禁止の対象となる。こうした動きに強い危機感を持っているのが豊田社長だ。世界がEVシフトに流れるのを止めるためには、政財界の力を活かすしかないと判断した。

 この第一歩として昨年6月、経団連に「モビリティ委員会」の設置を主導、豊田社長は経団連の十倉雅和会長、デンソーの有馬浩二社長とともに委員長に就いた。その後、モビリティ委員会の活動として岸田文雄首相と懇談するなど、財界活動に動き始めた。社長交代の記者会見で豊田社長は、会長就任後の役割について「自動車産業を日本の競争力のど真ん中にしっかり運営していくことが国への一番の貢献になる」と述べており、業界活動に本腰を入れる姿勢を示した。今春の経団連の役員改選で豊田社長が副会長に就くことが予想される。

「優秀な人材を後継者にできない」

 一方、後任として取締役でもない佐藤氏を選んだことに首を傾げる関係者は少なくない。佐藤氏は「私はエンジニアで、長くクルマ創りに携わってきた」としているが、チーフエンジニアとして手がけたモデルは少ない。「プリウス」や「カローラ」などの部品開発を主に手掛けており、目立った実績はない。ただ、EVシフトへの対抗するモデルとしてトヨタがグループを挙げて期待し、現在レース活動で実用化の道を探っている水素エンジン車の開発を豊田社長に任されて実行したことが豊田社長に評価された。水素エンジン車は現在の内燃機関の部品をそのまま活用できることから、トヨタグループの強みを発揮できるからだ。

 佐藤氏を後継者としたことについて専門紙の記者は「将来、章男社長の長男の大輔氏を社長に据えることを考えると、優秀な人材を後継者にできない」と解説する。ただ、佐藤氏が社長となった後も豊田社長が院政をひくのは衆目の一致するところだ。今年6月の株主総会で内山田竹志会長は退任するが、豊田氏の暴走を「誰も止められない」ことを懸念する声は強い。

(文=桜井遼/ジャーナリスト)

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