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チルド弁当なし、食品廃棄ロス削減…グリーンローソンの衝撃、究極の人手不足対策

文=松崎隆司/経済ジャーナリスト
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グリーンローソンのアバター

 JR大塚駅北口から約4分、ロータリーを進み右に入ると、カラフルな看板に彩られたローソンの店舗がある。昨年11月28日にオープンした24時間店舗「グリーンローソン北大塚一丁目店」だ。いわゆるSDGsなどの新しい取り組みを進めていくための実験店で、コンビニエンスストアが抱える「食品ロス」や「プラスチック」などの削減、人手不足のなかでの働き方改革などを進めるための店舗だ。コンビニ業界のなかでは初の取り組みだという。

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 きっかけは社長の竹増貞信が1年ほど前に、都内の有力コンビニオーナーたちと「近未来店舗」の開発について意見交換をしたときに、そんな話が出てきただという。ローソンは新浪剛史が社長に就任している頃から、本部主導の体制からフランチャイズオーナーとの共存共栄を図る体制づくりに力を入れ、本部の幹部とフランチャイズオーナーが出席する「オーナー福祉会 理事会」にも社長自らが出席した。竹増はさらにオーナーとの共存共栄体制を推し進め、オーナー福祉会の元理事を集めて「OB理事会」まで結成、意見交換を進めてきた。

 こうした意見交換会のなかでは早くから人手不足や食品ロスなどの問題が浮上。2016年からは「1000日全員実行プロジェクト」という加盟店支援プロジェクトを進め、省力化による人件費削減や廃棄ロス削減を進めた。業界内でいち早く全店舗にキャッシュレスのセルフレジを導入したのもローソンだ。

 しかしコンビニ業界内では24時間営業や、食品廃棄ロスを店舗側が負担する「ロスチャージ」といった仕組みに対して、セブン-イレブンの店舗の元オーナーから本部に対する怒りが爆発して告発に発展。2019年4月には経済産業省が大手8社のトップを集めて意見交換会を行った。その後、問題を是正するよう要請され、コンビニ各社は同年4月25日、行動計画を発表した。このときローソンはこれまでの施策をさらに強化し「省力化にチャレンジする」ことを明らかにしたが、竹増はSDGsが叫ばれているなかでより実効性のあるものにするにはどうすればいいのか、店舗のオーナーたちに相談していた。

「竹増社長は重要な問題を決めるときには何人かの有力オーナーに相談しながら決めてきました。今回もそのような流れのなかで決まったようです」(ローソン広報担当者)

 そこから出てきたのが「グリーンローソン」という実証店舗だった。店舗を提供してくれたのは都内に30店舗展開するオーナー。大塚駅前の店舗が選ばれたのは周囲がオフィスや住宅地に囲まれ、老若男女、家族も独身も多数住んでいる立地だったからだという。

「どの世代も住まわれているので、消費行動を調査するにはもっとも適している場所だということでこの場所を選ばせていただきました」(ローソン広報担当者)

冷蔵ショーケースにガラス扉を付け30~40%の節電

 店の広さは214平方メートル(約65坪)、通常店舗の1.5倍の広さがあり、以前は「ナチュラルローソン」の店舗があったところだという。店に一歩入るとそこには等身大のアバターがあり、「いらっしゃいませ」と声をかけてくれる。人が遠隔操作で分身となるCGキャラクター操る技術だが、ローソンは人手不足が長年の課題だったコンビニの店舗内でアバターのモニターを設置した。

 実はこのアバターが大人気で、筆者の目の前でも親に連れられた子供がしばらくアバターの前にたたずみ、手を振ったり話しかけていた。空いた時間にアバターとじゃんけんをしたり、雑談を楽しみやってくるお客も増えているという。

 モニターの足元に置かれているのが買い物かご。実は素材全体の30%がリサイクルされた約53個のペットボトルのキャップが使用されているのだという。店を見渡すと、通路が通常の店舗よりも広くバリアフリーとなっている。これなら車椅子で来店しても安心して店舗を回ることができる。

 アイテム数は約4200アイテム。通常店舗とそれほど大きく違うわけではないが、この店舗には消費期限の短いチルド弁当や常温弁当がない。チルド弁当や常温弁当はこれまでコンビニ本部にとっては収益の大きな柱であったが、その一方で食品ロスの温床となっていた。これに代わって登場したのが冷凍弁当と店内調理「まちかど厨房」だ。大型冷蔵庫には「おてがるのり弁(税込み315円)」や「ナポリタン&オムライス(税込み497円)など7品目の冷凍弁当が並んでいる。チルド弁当や常温弁当の代わりに冷凍弁当があることに、お客は「冷凍弁当はストックして食べたいとき食べられる」と好意的にとらえているという。

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 一方で、まちかど厨房は作りたての料理を提供している。注文をパソコンやスマートフォンから受け、そこから店舗奥の厨房で料理される。決済はスマホで注文と同時に行うことができる。調理時間は5~10分程度。料理ができるとカウンター上の掲示板に番号が表示され、お客のスマホにもショートメッセージで通知が届くという。家から注文し、できたころ合いで受け取りに行けばいちいち店舗で待つ必要もない。牛乳など飲料や食品が並べられている冷蔵ショーケースにも一工夫されている。

「これまでパック牛乳や惣菜の冷蔵ショーケース棚にはカバーがなかったので冷気が拡散し、かなり電気代がかかっていました。そこにガラスの扉を付けたことで、従来のショーケースに比べ30~40%程度節約できています」(ローソン広報担当者)

 扉はガラスでできているが軽く開閉できるよう設計されている。それでもSDGsの取り組みのために、これまでパック牛乳や冷蔵惣菜の棚になかった「扉を開ける」というひと手間を競争の激しい都心の店舗のお客が受け入れてくれるのか、大きな課題だという。

30人募集したアバターオペレーターに400人が殺到

 決済は店内に3台ある「セルフレジ」か「ローソンスマホレジ」。原則無人だが、セルフレジの操作がわからないお客には店舗の従業員がサポートしてくれる。3台のレジのうち1台にはアバターが設置されており、「あおい(女性風店員のアバター)」さんか「そらと(男性風店員のアバター)」君が懇切丁寧に説明してくれる。

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「モニターの上部につけられているセンサーを通してお客様の動作などを見ていますから、セルフレジの操作がうまくいっているのかいないのかをその場ですぐに見ることができます。店員とはインカムで情報をやり取りできるようになっています。最初はロボットかAIだと思っていて、決まった内容しか話せないんじゃないかと不安に思っているお客様もいますが、会話をしているうちに少しずつ理解してもらっています」(30代、兵庫県淡路島在住、女性)

 アバターを活用することで、これまで直接店舗に来ることのできなかった遠隔地に住む人たちや身体障害者、高齢者などが、自宅からでもアバターのオペレーターとして仕事ができるようになったという。実際に勤務しているアバターオペレーターのなかには、自閉症で直接人前に立つのが苦手だけれども、アバターを通してならお客と話をすることはできるという人もいた。単に人手不足解消だけでなく、引きこもりで家から出られなくなった若者などが社会復帰するきっかけにもなるのではないかと、その期待は大きい。

 ローソンでアバターを店舗に導入しようという話が出たのは2022年4月頃から。その後、大阪大学発のベンチャー「AVITA」と協力し22年9月の記者会見で発表している。実はこのアバターオペレーターの採用、10~60代の幅広い年齢層を対象に30人募集したところ400人が集まったという。社会の関心度も大きい。当面は30人がグリーンローソンで働き、その後、23年度中には東京・大阪の10店舗で働くアバターオペレーターを50人育成。25年までには1000人を採用する予定だという。

「将来的には人手が不足している深夜の時間帯などで複数店を見てもらうような仕組みも考えていきたいと思っています」(ローソン広報担当者)

 実際にアバターオペレーターに話を聞いてみると、新しい働き方に満足しているようだ。

「パソコンなど機械類は得意だったのですが、発達障害を抱えている。そのため対面での接客には抵抗があったのですが、自宅でやり取りできますし、アバターだったら対面しているわけではないので、自分としてはやりやすいと感じました」(40代、大阪在住、男性)

「コンビニで働いた経験はなかったのですが、お昼や夕方にはたくさんお客さまが来られてサポートすることは多いです。ただ、私がしゃべるということを認識していない方も多いので、手を振るなどしてアピールしています。手の空いている時なんかに子供から『じゃんけんしよう』なんて言われることがよくあるんです」(前出の女性)

「私は大崎にあるローソンの本社から参加しているのですが、最初はAIかロボットのようなものだと思われて、なかなか声をかけてもらえませんでした。手を振ったり実際に会話するようになると人間が対応しているのだとわかり、関心を持ってくれる人が増えました。最近では子どもが『今日はそらとか。あおいじゃないのかよ。はずれだ』なんていいながらアバターに会うことを楽しみにしているようです(笑)。店内ではできないようなコミュニケーションを取ることができるのが魅力です」(30代前半、東京都、男性)

 バックヤードではアバター同士がチャットで情報交換することができるようになっており、仕事でわからないことがあったときや新しい商品の情報交換などをすることができるという。

「グリーンローソン」はオープンしてすでに2カ月以上がたつが、その成果はどうか。

「売上はナチュラルローソンの頃とそれほど変わってはいませんが、売上構成は大きく変わりました。以前はタバコなどの売上が多かったのですが、今回は免許証の提示などが必要なのでちょっと影響を受けています。一方で厨房系は強化しているので、売上に大きく貢献しています。店内調理はたばこに比べて利益率が3倍くらい違います。以前のような食品ロスもほとんどありませんから、利益率は伸びています」(ローソン広報担当者)

「グリーンローソン」で検証された新しい取り組みは今後、効果が実証され次第、各店舗で採用されていくことになる。

(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)

松崎隆司/経済ジャーナリスト

松崎隆司/経済ジャーナリスト

1962年生まれ。中央大学法学部を卒業。経済出版社を退社後、パブリックリレーションのコンサルティング会社を経て、2000年1月、経済ジャーナリストとして独立。企業経営やM&A、雇用問題、事業継承、ビジネスモデルの研究、経済事件などを取材。エコノミスト、プレジデントなどの経済誌や総合雑誌、サンケイビジネスアイ、日刊ゲンダイなどで執筆している。主な著書には「ロッテを創った男 重光武雄論」(ダイヤモンド社)、「堤清二と昭和の大物」(光文社)、「東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人」(宝島社)など多数。日本ペンクラブ会員。

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