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独立ビジネスとして人気の裏で厳しい現実も…売れるキッチンカーの条件とは?

文=清談社
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「gettyimages」より

 ここ数年、気軽に始められる独立ビジネスとして人気が高まっている「キッチンカー」。飲食店をやりたいが、資金的にも経験的にも店舗経営が不安という人の最初の一歩としても需要があり、その数は増えているという。

 しかし、コロナ禍に伴う市場の変化など、さまざまな要因によって当初の計画通りに事が運ばず、廃業を迫られるケースも出てきている。その実情は、経験者いわく「やってみないとわからない」という。

 「はっきり言ってしまうと、僕は軽い気持ちでキッチンカーをやりたいという人がいたら止めます。それぐらい厳しい世界だし、体力的にも精神的にもキツい。でも、かつての僕がまさにそうなんですが、1人でそれなりにがんばれば、そこそこ儲かりそうで、楽しく暮らせそうに見えるんですよね……」

 千葉県でキッチンカー出店先の仲介を行っている「カケハシフードトラック」代表の一條友樹氏は、そう力説する。この一條氏本人も、甘い考えでキッチンカー運営を始め、後悔したという「挫折組」だ。

 「30歳まで消防士をしていたんですが、仕事に新鮮味が感じられなくなり、独立して自分で何かを始めたいなと思って、後先考えずに辞めてしまったんです。そんなとき、たまたま訪れたホームセンターでクレープを販売していたキッチンカーを見かけて『なんかいいな』とインスピレーションを覚え、自分でもやってみようと思いました」

 飲食業に興味があったわけではないが、調べてみると、キッチンカーは初期資金もそこまで必要ではなく、がんばり次第で稼ぐこともできる業界だと感じたという。

 「最初のイメージで、特に考えもなくクレープをやろうと思いました。まずは自分でいろいろな販売企業を見て回って、キッチンカーを180万円で購入。ほとんどのキッチンカーは軽自動車を専門カスタムして作るものなので、未使用車でも車上の分類としては中古車になるんですよ。あとは備品や食材費で40万くらいかかったので、初期費用は220万円くらい。これでもコーディネーターなどを頼らず、ネットの情報をひたすら読み漁ってできるだけ自分でやるようにして経費を節減したので、独立開業するにはギリギリの資金だったと思います」

 キッチンカーが完成し、準備もできた。しかし、ここで大きな壁が立ちはだかる。出店場所の確保だ。

 「スーパーの近くで出店させてもらうことを想定していたので、電話をかけてお願いしてみたんですが『ウチはそんなことやっていませんよ』と断られました。どこでも簡単に出店できるのがキッチンカーの利点だと思っていたので、どうしようと肝を冷やしました。そこでまたネットで情報収集して、いろいろなところに電話をかけ、なんとか柏にある道の駅で出店させてもらえることになったんです」

 出店のテナント料は売り上げの20%が相場。これも想定外だったという。とはいえ、無事に出店できた一條氏だったが、初日は緊張もあってうまくクレープを焼けなかったそうだ。

 「家でひたすらクレープを焼く練習をしていたのですが、実際に店に立ってみると本当に緊張して失敗ばかり。3回目の出店くらいからようやく落ち着いて焼けるようになり、やっと売り上げを意識するようになりました。クレープは1つ500円で販売していたのですが、最初の頃は1日15食くらい、8000円ほどの売り上げにしかならない。目標は1日100食提供して5万円だったので、想像以上に稼げなくて愕然としました」

 このままでは生活もできないと必死に試行錯誤を繰り返した結果、単価の安い小さいサイズのクレープを販売することで活路を見い出す。

 「値段も大きさも半分のミニクレープを出してみたところ、大好評で飛ぶように売れました。ただ、小さくてもクレープを作る手間はほとんど変わらないので、ずっと焼き続ける体力勝負でした。消防士として働いていた頃の体力がここで生きるとは考えてもいなかったですね。でも、ここで自分が倒れたら一巻の終わり。正直、キッチンカーを一生やっていくのはキツイなと思っていましたね。ただ、当時はYouTubeでキッチンカーについての動画を上げていたこともあり、その視聴者がいたことが働くモチベーションになっていました」

 2020年3月には月間の売り上げが40万円を超えるようになり、経営は軌道に乗り始めていたが、新型コロナウイルスの流行で状況が大きく変わってしまった。

 「本当に街から人が消えてしまって、20年3月の最終週には3万円を売り上げていた場所でも、4月の頭は3000円しか売れなかった。これは無理だと思い、潔く撤退することを決めました。でも、心のどこかでホッとする自分もいましたね。それくらい営業を続けるのがキツかったんだと思います」

 キッチンカーは行政が区分けするところの「飲食店」ではないため、給付金もなかった。そのため、この時期には営業休止や廃業するキッチンカー経営者が跡を絶たなかったという。

 一條氏は、キッチンカー廃業後はYouTube活動やクラウドファンディングで糊口をしのいでいたが、その頃からキッチンカー営業そのものではなく、出店場所をマッチングする仲介業を構想し始めたという。

 「当時から、場所とキッチンカーを取り持つ仲介会社は存在していました。私も10%ほどの仲介料を払って利用していたのですが、出店の希望もキャンセルの連絡もすべてこちら側が行うシステムだったので、何のために仲介料を払っているのか理解できなかった。明らかにキッチンカー側の立場が弱いと感じたので、もっと公平でちゃんとマッチングする会社があればいいなと考え、だったら自分でやろうと思ったんです」

 キッチンカーの出店料に対しても現状を変える必要があると考えていたと、一條氏は話す。

 「およそ20%が相場なんですが、これを10%に下げられるように交渉していきたい。こうした私の思いに共感していただいて、会社を立ち上げて間もなく50台ほど登録してくれました。出店場所に関しても、本当に運良く人気スポットの担当者と知り合えて、管理を任せていただけることになり、仲介業も軌道に乗り始めたんです」

 現在、一條氏が代表を務める「カケハシフードトラック」ではキッチンカーの登録台数が400台を超える。多くのキッチンカーを見てきた一條氏の考える「売れるキッチンカー」の条件とはなんだろうか。

 「正直言いますと、これをやれば絶対売れるというものはありません。ただ、料理の味や値段だけでなく、お客さんの視点でおいしそうと思えるような彩りを考えたり、パッケージにまで気を使うなど、創意工夫を続ける気概がある人の多くは成功していると思います。あとは一般的な社会人としてちゃんとしている人なら、それなりに売り上げは安定していく。流行っているからといってメニューをコロコロ変えたり、特色や個性がない商品をただ売っているだけだと、だんだん淘汰されていくと思います」

 コロナ禍で店舗営業ができなかった飲食店がキッチンカーを出店するという逆パターンも増えてきた。このような場合、料理のクオリティは総じて高く、従来のキッチンカーが割を食ってしまうような状況もあったという。

 「お客さんの目も舌も肥えてきています。なので、これからキッチンカーを始めようという人にとっては厳しい市場かもしれません。しかし、可能性はゼロではない。一度はキッチンカーをやってみたかった、1人で誰にも縛られずに商売がしたいというような、ある種の覚悟を持った人はチャレンジするだけの価値はあると思います」

 コロナの流行が落ち着き、イベントも多く開催されるようになり、キッチンカーを街で見かけることも増えた。始めるハードルも低く、成功する余地はありそうなキッチンカービジネスだが、今後はさらに厳しい競争にさらされることは覚悟しておいた方が良さそうだ。

清談社

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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