ゼネコンの大成建設(本社・東京都新宿区)が発表した、同社が手がけていた工事の鉄骨の精度不良と虚偽報告は世間に衝撃を与えた。問題が発生したのは「(仮称)札幌北1西5計画」での複合再開発ビルで、NTT都市開発が事業主であり、大成建設の札幌支店が施工を行っている。ビルは鉄骨・鉄筋コンクリート造で、地上26階の構造だ。事務所や店舗、米ハイアットグループの「ハイアット セントリック 札幌」が入る予定だった。ビルの完成は2024年2月の予定だったが、今回の不祥事により26年6月末頃に延期となった。
大成建設によれば、発注者からの鉄骨工事に関する指摘に対応するため、大成建設が改めて鉄骨精度を検証。その結果、複数の箇所で発注者と定めた品質基準を満たさない鉄骨等の精度不良が発覚したという。NTT都市開発は3月16日に発表したプレスリリース「『(仮称)札幌北1西5計画』の竣工時期延期について」で、大成建設側から「重大な施工不良が発生し、現在工事中の地上部分の全て及び地下部の是正対象部分を撤去したうえで再構築するため28ヶ月の工期延伸が必要」「これまでの各種計測記録の報告に虚偽があった」との報告を受けたと明らかにした。そして事業主としてその内容を検討した結果、「建設中の建物が『契約に基づいた品質』及び『建築関連法規』を満たさない見込みとなるため、再構築をせざるを得ないと判断」したとしている。すなわち、鉄骨を一度撤去したうえで再び作業を実施することになる。
大成建設も「発注者様をはじめとするご関係の皆様には、多大なるご迷惑をお掛けすることとなり、誠に申し訳なく深くお詫び申し上げます」などとするプレスリリースを同日に発表。責任を取って建築部門の責任者である役員が辞任し、改ざん問題からの幕引きを図っている。
建設業界の「暗黙の了解」が原因?識者はチェック不足も指摘
このような施工不良は、なぜ起きたのだろうか。『非常識な建築業界 「どや建築」という病 』(光文社新書)などの著書がある一級建築士で建築エコノミスト・森山高至氏は「チェック不足」を指摘する。
「鉄骨精度のチェックはまず、元請け業者の設計担当者と施工設計担当者→鉄骨工事発注者→鉄骨工事図面担当者→元請け業者の図面担当者と設計担当者というプロセスで行われる。次に、元請け業者の設計担当者と施工担当者、鉄骨工事を担当する業者が確認するという流れになる。各段階で正確にチェックしていればいいが、昨今は人手不足や資材高騰などもあるためか余裕のない現場が多く、チェックがおざなりになってしまったと考えられる」
建設業界特有の「上下関係」が影響している可能性もあるという。
「建設業界では上流の意見が優先されるため、元請け業者による設計の間違いを下流の鉄骨工事担当業者が見つけて指摘するのは、互いの信頼関係がないと難しい面がある。下流の現場担当者が疑問を感じる箇所があっても、そのまま行程が進んでしまった可能性もある」(森山氏)
今回発覚したような精度不良や虚偽報告は、建設の現場では珍しくはないのだろうか。
「施工不良や虚偽報告は多いものの見逃されている面はあるが、ある程度の許容範囲もある。例えば、鉄骨材料のズレの許容範囲は約10㎜以下、建物全体では30㎜以下なら許容範囲とされるケースは多い。仮に建物が10階建てだとして、各階で10㎜ずつズレていたとしても、全体でのズレが0mmになれば問題なしとなる。逆に全階で同じ方向に10㎜ずつズレていれば全体で100㎜もズレることになる」(森山氏)
今回発覚したような精度不良、虚偽報告が生じる遠因として、森山氏は人手不足とモチベーション低下を挙げる。
「少子高齢化の影響で建設業界では新規就労希望者数が減っていることに加え、工事監督の立場が低下している。かつては工事監督に発注先や職人選抜などの権限がゆだねられていたが、現在は監督権限が大幅に縮小されており、全体を動かす醍醐味がなくなっていることもモチベーション低下の理由として挙げられる」(森山氏)
建設業界では現在「2024年問題」が取りざたされている。24年4月から適用される「働き方改革関連法」では、原則として時間外労働時間は月45時間以内、年360時間以内となり、この上限規制に違反した事業所には罰則が科される。
今回の不祥事により、北海道新幹線の札幌延伸に合わせた札幌の再開発は水を差された格好となった。二度とこのようなことが起きないよう、建設会社は再発防止に取り組むべきだ。
(文=小林英介、協力=森山高至/建築エコノミスト)