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岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

摂取カロリー削減で死亡率15%低下、寿命延命との研究結果…禁煙と同等の効果

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
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「gettyimages」より

 食べ過ぎていませんか? 摂取カロリーを減らしたほうが長生きできる、という話題をお届けします。およそ30年前、ガラスで覆われた広大な空間に男女8人が、2年間にわたり自給自足で生活する、という実験が米国で行われていました【注1】。将来の月面や火星での生活に備えた実験だったようです。8人が食べるものは、すべて自分たちで栽培するか、必要な栄養素は循環させて使用し、事前に持ち込んだ食品はごく一部だけ、という徹底したものでした。当時、明らかにされたのは、コレステロール、血圧、血糖などの検査値が明らかに改善していたことでした。およそ20年後、この実験に参加した人たちの血液を再度、調べたところ、当時の好ましい数値がそのまま保たれていることもわかりました。

 最近になって、カロリーカットの効果を調べる本格的な研究が、米国で行われました【注2】。男女220人のボランティアの協力を得て、2年間にわたり1日の摂取カロリーを25パーセントカットすると、ヒトの体にどのような変化が生じるかを、多方面から分析するというものでした。協力したのは、20~50歳の健康な人たちで、とくに肥満ではありませんでした。

 2年後、結果的に25パーセントのカロリーカットは達成されず、平均で12パーセントのカットに留まっていました。ちなみに1日の摂取カロリーの「12パーセント」は、米国人が食べているベーグルの1個分に相当すると論文に記載されています。普通サイズのベーグルは1個が270キロカロリーほどですから、日本の食パンに換算すれば、6枚切りの1枚半ほどになります。

 この実験では、重要なことが判明しました。カロリー制限により、DNAの老化を示す指標である「メチル化」と呼ばれる現象に、好ましい変化が認められたのです。これは、「遺伝子老化時計」とも呼ばれている指標で、「老化とは何か」を考える上で注目されているものです。

 DNA上の変化の程度はわずかなものでしたが、試算によれば、生涯の死亡率を15パーセントも下げることに相当するとしています。つまり、それだけ寿命も延びるということです。これはタバコを吸っている人が禁煙した場合に得られる延命効果に、ほぼ等しいものです。実験が終了してしばらくしてから、実験に参加したボランティたちに協力を求め、画像検査のMRIを使って全身を調べるという調査が行われました【注3】。それによると全身の脂肪、とくに内臓脂肪が大幅に減少した状態が、その後も保たれていることがわかりました。

 ただし、この実験には問題もあります。カロリー制限を行えば、当然、体重も減っていきます。つまり昔から語られてきたダイエット効果、つまり痩せることの効果と同じなのではないという点について、考えておく必要があります。

遺伝子老化時計

 この難問についても、明快な答えが見つかりました。前述した遺伝子老化時計の好ましい変化は、体重の変化とはほぼ無関係であることがわかったのです。つまり偏ったダイエット法で、無理に体重を落としても、遺伝子老化時計には好ましい変化は起きないのです。ただし本当に長生きできるのかどうかは、これから数十年をかけた追跡調査が必要です。また週に1日か2日だけ断食をしても効果があるのかとか、個人差はないのかなど不明な点も多く、数々の疑問に対する答えは、今後の研究の進展に期待するしかありません。

 カロリーの取り過ぎが健康寿命を縮めることに異論はないでしょう。カロリーカットの大原則は、すべての栄養素をバランスよく摂ることと、全体を少しずつ減らしていくことです。またカロリーカットを無理に進めると、体調を崩してしまうことがあり、ほどほどにすることも大切です。とくに幼少期や青年期など育ち盛りの世代で、無理なカロリーカットを行うと、大切な成長ホルモンが低下してしまうので要注意です。日ごろから食べ過ぎと感じている人は、まずカロリーの少ない食材に変えること、そして食べる量を一口ずつまんべんなく減らすところから始めましょう。

(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

参考文献

【1】Walford RL, et al., Calorie restriction in biosphere 2: alterations in physiologic, hematologic, hormonal, and biochemical parameters in humans restricted for a 2-year period. J Gerontol, Jun 1, 2002.

【2】Rubin R, Cut calories, lengthen life span? Randomized trial uncovers evidence that calorie restriction might slowing aging, but questions remain, JAMA, Mar 15, 2023.

【3】Shen W, et al., Effect of 2-year caloric restriction on organ and tissue size in nonobese 21- to 50-year-old adults in a randomized clinical trial: the CALERIE study. Am J Clin Nutr, Jun 22, 2021.

【4】Belsky DW, et al., Change in the rate of biological aging in response to caloric restriction: CALERIE biobank analysis. J Gerontol, May 22, 2017.

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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