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岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

塩分の過剰摂取、胃がんの最大原因…一日7.6g以下が推奨、特に子どもは要注意

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
塩分の過剰摂取に要注意
「Getty Images」より

 食事の塩分量に気をつかっていますか? アメリカ食品医薬品局は、長い沈黙を破り、一日の塩分摂取量に関する国民向け指針を発表しました【注1】。

 このような指針は従来からあったのですが、アメリカも縦割り社会のため、役所や学会によって内容がバラバラでした。塩分を減らすとむしろ寿命が縮まるというデータが発表されたこともあり、混乱が続いていたのです。

 今回、発表された改訂指針は、ずばり「一日のナトリウム摂取量を3グラム以下に!」というものでした。ナトリウムは食塩の主成分ですが、これを食塩に換算すると約7.6グラムになります【注2】。ちなみに日本人の一日平均塩分摂取量は、厚生労働省の最新データで、女性9.3グラム、男性10.9グラムとなっています。

 過剰な塩分摂取が原因で起こる病気の代表は、血圧の上昇によって起こる脳卒中です。塩分を厳しく制限することで、この病気を大幅に減らせることは、すでに広く知られているところです。

 意外に知られていないのは、塩分の取り過ぎが「胃がん」の最大原因になっているという事実です。図をご覧ください。これは少し前のデータですが、欧米各国の研究者たちが共同でまとめたもので、横軸が1日の塩分摂取量、縦軸が10年間の胃がんによる死亡率となっています【注3】。ひと目でわかるのは、食肉や乳製品などの消費が多い欧米諸国では、胃がんによる死亡が非常に少なく、一方、塩分が味付けの中心になっている東アジアの国々では、日本を含めて圧倒的に多くなっていることです。

 アメリカでは、保存用に塩漬けにした肉を食べていた時代、胃がんによる死亡が最上位を占めていました。しかし、電気冷蔵庫の普及にともなって食生活が激変し、その後、胃がん死亡もほとんどゼロになっていったのです。この事実から、日本でも塩分摂取を減らす努力を国全体で進めていけば、胃がんを撲滅できるかもしれないという期待があります。

 これらのエビデンスを総合してアメリカ食品医薬品局は、今後10年で国民の塩分摂取量を4割減らせれば、50万人の命を救えると試算しています。塩分摂取が1日7.6グラム以下というのは、日本人の食生活を考えると、かなり厳しい目標値です。そんなに減らして大丈夫なのか、という心配もあります。

食塩に代わる味付けをする

 そこで参考になるのは、われわれの祖先の食生活です。石器時代まで遡ってみましょう。そのころ製塩の技術はもちろんなく、とくに海から遠く離れた土地に生活していた祖先は、食塩を取るチャンスはほとんどなかったはずなのです。研究者の推測によれば、野に咲く草花や木の実、魚や動物の肉などに含まれている塩分が中心で、その量はおよそ1日3グラム以下だったそうです。

 その時代を出発点にして遺伝子を育み、今日に至っているのがわれわれの体です。産業革命以降、突然、われわれは大量の食塩と砂糖を食するようになってしまい、体の仕組みが追いついていないのが実情です。

 では、現代の食生活で1日塩分摂取量を7.6グラム以下にするには、どうすればいいでしょうか。アメリカ食品医薬品局は、まず食品加工を行っている企業や外食産業、レストラン業界、あるいは安価な食品やお菓子(いわゆるジャンクフード)を製造している企業などに対し、商品から徹底して塩分を抜く努力をしてほしいとの通達を出しました。しかし全米のレストラン協会、マクドナルドなどの外食産業の反応は鈍く、当局からの要請に対して、黙して語らずの態度を取っています【注4】。

 とくに2歳から13歳くらいまでの子供の塩分摂取量が多くなりがちで、小さいうちからの食育が大切です。子供は親の食べ方を見て育ちますから、すべて大人の責任といえるでしょう。食卓にソース、しょうゆ、塩、マヨネーズなどを置かないようにしましょう。外食でラーメンやそばを食べるときは、汁を全部、飲まないこと。インスタントラーメン1袋に6グラム、大きめの梅干し1個に約2グラムの食塩が含まれていることなどを覚えておくとよいでしょう。

 パンには塩分が加えられていますが、お米(ご飯)は塩分ゼロの最優良食品です。食塩に代わる味付けには、レモン水、お酢、胡椒、ハーブなどがお勧めです。ポストコロナ、健康に対する最大の脅威は、間違いなく過剰な塩分です。

参考文献
【1】   FDA, Sodium reduction, accessed Nov 15, 2021.
【2】   Joossens JV, et al., Dietary salt, nitrate and stomach cancer mortality in 24 countries. J Epidemiol 25: 494-504, 1996.
【3】   Cogswell ME, et al., Estimated 24-hour urinary sodium and potassium excretion in US adults. JAMA 319: 1209-1220, 2018
【4】   Jacobs A, F.D.A. issues guidelines to reduce salt in foods, New York Times, Oct 13, 2021.
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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