カフェチェーン「コメダ珈琲店」で大ぶりなサイズで知られる「カツパン」を注文し、食べ切れずに一切れだけ残してしまい、店員に持ち帰りたいと告げたところ、ちょうど一切れ分が納まるサイズの持ち帰り用容器を無料でくれたという体験談がX(旧Twitter)上にポストされ、話題を呼んでいる。コメダは実際にそのようなサービスを提供しているのか。また、飲食店では食べ残しを持ち帰り可能な店と、持ち帰りできない店があるが、その違いの理由はなんなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
コメダは全国に1004店舗(2024年2月末時点)を展開。国内カフェチェーンとしては「スターバックス コーヒー」「ドトールコーヒーショップ」に次ぐ3位(店舗数ベース)。開店から午前11時まではドリンクを注文すると無料でローブパンまたは山食パン(トースト)、さらに「定番ゆで玉子」「手作りたまごペースト」「コメダ特製おぐらあん」のいずれかが付くモーニングサービスがあるのが特徴。ホットコーヒー「コメダブレンド」(460~700円)のほか、「シロノワール」(730~790円)、「カツパン」(910~1000円)、「『名古屋名物』あんかけスパ(単品)」(1020~1110円)などのスイーツ・食事メニューも人気だ。
積極的に投入される期間限定のオリジナル商品やコラボ商品も集客の要となっている。先月23日に期間限定で復刻発売された甘辛の特製タレを絡めた多量の牛カルビ肉と千切りキャベツをバンズで挟んだ「コメ牛」が“物議”を醸したことも記憶に新しい(店舗によってはすでに販売終了)。現在は「東京ばな奈」「FUJIYA」とのコラボ商品が販売中であり、「カラムーチョ」とのコラボ商品「湖池屋監修 カラムーチョ コメチキクリスマスBOX」の予約販売も受付中だ。
「コメダは価格設定は高めですが、ゆったりとしたフカフカの席を設置するなど客が長く滞在することを前提としており、これはチェーン展開する飲食店としては珍しいです。スターバックスコーヒーとは対照的に店舗の約9割近くがフランチャイズ(FC)経営とFC比率が高く、ロイヤリティ収入に加えてFC店舗への食材販売で安定的に収益を確保できており、売上高利益率は約20%という大手カフェチェーン企業のなかでは突出した高い数値を実現しています」(外食チェーン関係者)
ちょうど一切れ分が入る大きさの容器
そんなコメダといえば、しばしばSNS上で「逆写真詐欺」だとして話題になるほどの、メニュー表の商品写真から想像されるより多い量で知られている。たとえば、2022年に当サイト記事でコメダの「自慢のドミグラスバーガー」(税込650円)とマクドナルドの「ベーコンレタスバーガー」(360円)のサイズを比較したところ、前者のほうが約3倍も大きかった(いずれも価格は当時)。なかでも“デカさ”が際立つ人気メニューなのがカツパン類だ。
・カツパン
・みそカツパン
・エビカツパン
・カツカリーパン
※金額はすべて910~1000円(税込)
そのカツパンをめぐって、あるX上の投稿が一部で話題を呼んでいる。同商品は上からみると長方形型の大きなカツパンを3等分した状態で提供されるのだが、前述のとおり一切れだけ残した際に店員にお願いすると、ちょうど一切れサイズのカツパンが入る持ち帰り用容器を無料で提供してくれたというのだ。先日、コメダでエビカツパンを注文したという男性は語る。
「途中でお腹がいっぱいになってしまい、一切れだけ余ったのですが、コメダは料理を残すと持ち帰り用容器をくれるという話をネットで見たことがあったので、店員さんを呼んで聞いてみたところ、慣れた様子で笑顔で『承知しました。少々お待ちください』と言ってくれました。注文時に提供される完成形のものが入る大きな容器をくれると思っていたら、なんとちょうど一切れ分が入る大きさの容器で驚きました」
持ち帰り可能な店と、できない店の違い
こうした顧客志向の取り組みがコメダ人気の秘密の一つとみられるが、飲食店では食べ残しを持ち帰り可能な店と、持ち帰りできない店がある。その違いの理由はなんなのか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。
「『持ち帰っても大丈夫か』『衛生上安全か』が重要な判断基準となります。汁物など形状的な問題なら容器でカバーできますが、卵料理や生ものは衛生的安全を確保するのが難しいため、食べ残しの持ち帰りをNGにしているお店がほとんどだと思います。店内飲食では生ものや、味や食感を重視して火入れを途中で止めた料理を提供していても、持ち帰りとなると、持ち帰ったあとの保存状態、食べるまでの時間など、お店として責任のとれない不確定なリスクが生じます。料理が冷めてから容器の蓋を閉めるなど、きちんと対策をとってテイクアウトを提供しているのとは異なり、食べ残しはお客が口をつけていたり、室温でテーブルの上に長時間放置されている場合もあります。『お客の自己責任』とはいえ、食中毒などが起きてしまえばお店の責任を問われるリスクもあります」
食べ残しを持ち帰り可能にするのは、店舗にとっては結構大変な労力・対応が必要になるのか。また、店側にとってコストやリスクの増加などはあるものなのか。
「持ち帰り可能か否かを店として決めるにあたって、労力・コスト増、スペース確保などの点も判断材料となります。持ち帰りを認めるとなると、持ち帰り用の容器を準備しておく必要や、それを保管するスペースの確保の必要が出てきます。チェーン系の大型店であれば保管スペースを確保しやすいでしょうが、街場の小さなお店は普段から各種スペースの確保に頭を悩ませているところも多いので、できれば余分なものは置きたくないでしょう。また、スタッフが分刻みで動いていることも多いので、食べ残しの容器への詰め直しや包装作業は避けたいところでしょう。対応に要する労力やコストは一つひとつは大きくはなくても、塵(ちり)も積もれば山となりますし、衛生上のリスクもあるため、できれば避けたいというのが本音だと思います」(江間氏)
持ち帰り可能にすることによる影響
では、食べ残しを持ち帰り可能にするかどうかで、店舗の売上・利益に大きな影響が生じるものなのか。
「大きな影響までは出ないと思いますが、小さな影響はあると思います。『あそこのお店は食べ残しが持ち帰れるから行こう』といった主な来店動機にはならなくても、食べ残してしまったものを『もったいないな』と思っているところに『よろしければお持ち帰りにしましょうか?』とスタッフが声を掛けてくれれば、『親切なお店』という好印象を持ってくれることにつながります。持ち帰りができることが分かっていると小食の人も普通にオーダーでき、料理を多めにオーダーするお客さんも出てくるでしょう。お店の売上は小さなことの積み重ねや各種要因のミックスによって成り立ちますから、対応が可能だと思うお店は取り組んでみてもいいのではないでしょうか。ただし、親切心やエコの気持ちからの行動が思わぬトラブルにつながってしまう可能性もあるため、お客さんには『●時までにお召しあがりください』と期限を伝えることをお勧めします」(江間氏)
(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)