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NHK「受信料は組織運営のための特殊な負担金」見解が波紋…視聴の対価ではない

文=Business Journal編集部
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NHK放送センター(「Wikipedia」より

 19日付「Impress Watch」記事によれば、NHKは17日に開催したメディア関係者向けの説明会において、NHK受信料が「視聴の対価」ではなく組織運営のための「特殊な負担金」であるとの見解を示したという。NHKがスマホ所有者からの受信料徴収の動きを進め、4月からは期限内に受信契約をしない人などに対して本来の受信料の2倍の割増金を課す制度を開始したなかでの見解表明となり、議論を呼んでいる。

 ここ最近、NHK受信料をめぐる動きが注目されている。今年10月からは、NHK総合とEテレを視聴する「地上契約」、BS1やBSプレミアムなどの衛星放送もセットの「衛星契約」の受信料を約1割値下げ。その一方で4月からは、期限内(受信機設置の翌々月の末日)に受信契約をしなかったり、不正に受信料を支払わない人に対し、本来の受信料の2倍の割増金を課す制度を開始。未払いの受信料も合わせると通常の3倍の支払いを求めることになる。昨年の放送法改正を受けたものだが、受信契約の解約や受信料免除に不正がある場合や、衛星契約など料金が高い別の契約へ変更した後も正しい契約種別の放送受信契約書を提出しない場合も割増金請求の対象となる。

 このようにNHKが国民から広くかつ確実に受信料を徴収する動きは以前から加速している。2017年に公表されたNHK受信料制度等検討委員会の答申案では、スマホやインターネットの利用者からも受信料を徴収することが検討されており、過去の有識者会議でもテレビを持っていなくてもスマホなどで積極的に放送を見る人については「負担を議論していく必要がある」との意見が出ていた。

 そして総務省は昨年秋から有識者会議である公共放送ワーキンググループ(WG)にて、将来のNHKのインターネット関連事業のあり方に関する議論に着手。焦点は、ネット事業をNHKの「必須業務」に変更するかどうかという点。現在は放送を補完する「実施できる業務」として位置づけられており、配信コンテンツはNHKで放送される内容の「理解増進情報」に限定されている。もしNHKがネット事業を必須業務として多額の受信料収入を元手に大々的に展開すれば、慎重に収益性を見極めながらネット事業を展開する民放各局は打撃を受けかねないため、日本民間放送連盟は反発している。

 4月の同WGの会合(第7回)では、今後のNHKの財源として、サブスクリプション収入、広告収入、税収入も提示されたが、公共性などへの懸念が指摘され、スマホなど視聴可能な環境にある人からの受信料収入とする考えで一致したという(産経新聞の報道による)。

従来の国とNHKの見解

 そうしたなかでNHKは今回、受信料について「視聴の対価」ではなく組織運営のための「特殊な負担金」であるとの説明を行ったわけだが、実はこの見解は以前からNHKと国の間では共有されていたものであり、新しい内容ではない。たとえば07年に総務省の「公平負担のための受信料体系の現状と課題に関する検討会」で出された中間報告書には

<受信料は視聴の有無に関わらず国民が公共放送たるNHKの業務の維持運営のための経費を負担するもの>

と記載されている。また、同検討会で08年に出された最終報告書には

<受信料制度は、NHKが公共放送としての使命を果たすため、その事業運営を支える制度>

<既存の受信料制度の変更には、視聴者の負担や「特殊な負担金」という受信料の性格等への影響も想定されるため、十分に慎重な検討が必要>

との記述がみられる。

 さらにNHK自身もHP上で次のように説明しており、受信料を組織を運営するための財源と位置付けていることがわかる。

<NHKの運営財源は、受信設備を設置された全ての視聴者のみなさまに公平に負担していただくよう放送法で定められています>(「よくある質問集」―「NHKとはどういう事業体なのか」より)

<テレビをお備えであればNHKを見る見ないにかかわらず、受信料をお支払いいただくことになります。テレビをお持ちのすべての方に公平に負担していただく受信料によって、財政での自立が保障され、放送の自主性を保ちながら基本的使命を果たすことが可能になります。

 この受信料制度があるからこそ、NHKは視聴率や特定の勢力の影響にとらわれることなく、視聴者の要望にこたえることを唯一の指針とした番組作りができるのです>(「NHK受信料の窓口」―「なんで受信料払うの?」より)

 今回、改めてNHKがメディア説明会でこの点を強調したことを受け、SNS上では以下のような声が寄せられ議論を呼んでいる。

<組織運営のための特殊な負担金というのであれば その組織が必要だと思う人間から徴収だけすれば良い いらない存在、存続してほしくない組織に対しての運営費の負担金なんて誰も払いたくない>

<視聴の対価でないのはいいとして、誰がその費用を負担すべきか、いくら負担すべきか、という事を考える必要があります。最も公平なのは、受益者がその得た利益(ここでは視聴するということ)に応じて負担することと考えます。有料放送のようにスクランブル化すれば、金額が妥当かはその金額で契約されるかどうかで自動的に分かるので、これもスクランブル化で解決です>

<職員給与が高いと思われているんだから まずは無駄を省いて、会計を明確にし、契約者が納得できる金額を提示する必要がある>

<はたしてNHKの番組全てが日本にとって必要かどうかを考えればいい。時代劇、現代劇のドラマ、バラエティ番組等は、あれば見るけど、なくても困ることはないというようなものは、高い受信料を取り続けてまでする必要は無いと考えます>

<組織運営を広く国民が負担しないといけないのならば、その組織には高度の公共性・公益性が求められるでしょう。そういう面から見ると娯楽番組などは不要ですよね。娯楽番組に公共性はないのだから。そういう不要なものの費用まで一律に負担させるのは合理性を欠きますね>

<公平かつ妥当な金銭負担を実現するためには、有料放送と同じように任意契約でスクランブル化がベストです>

民間の動画配信サービスとの比較を牽制

 テレビ局関係者はいう。

「受信料収入が年々低下傾向にあるなか、NHKとしてはネット事業を必須業務化して本格的に展開することで、それを名目に『テレビを持っていなくてもスマホを所有していれば受信料を取りますよ』という流れに持っていきたい。総務省のWGでは、まずは専用アプリの利用者から受信料を徴収する方式から始めることが提案されているが、有料の動画配信サービスを展開している民放各社は民業を圧迫されるとして反発している。こうしたなかで、NHK受信料が各種動画配信サービスの利用料と同列に扱われて議論されることを牽制するために、『あくまで放送の自主性の高い組織を運営するための財源』だと強調しているのだろう。

 以前から国民の間では『NHKを見ないのに、なぜ受信料を払わなければならないのか』という不満は根強く、専用アプリに加入した人から受信料を徴収するとなれば、見たい人だけが加入して料金を支払う動画配信サービスが引き合いに出されるかたちで議論が展開されるのは必至で、同列に議論されるのを避けたいNHKが『受信料は見る見ないに関係なく国民が負担すべきものなんですよ』と改めて訴えているようにみえる」

 また、別のテレビ局関係者はいう。

「視聴率や特定の勢力の影響にとらわれずに中立的な立場で放送する組織を運営するために受信料を徴収するというが、受信料を使って数多くのバラエティ番組や歌番組、ドラマ、さらにはジャニーズ事務所のタレントの専門の歌番組まで制作している実態と整合性がつかない。巨費を投じて『紅白歌合戦』や『大河ドラマ』などを制作していることにも合理性がない。国民が最低限必要とするニュースや災害情報などを発信するだけなら、現在のNHKのような肥大化した組織は必要なく、国がNHK受信料よりずっと低額の税金を国民から集めて独立法人のようなかたちで情報を発信していけばよい。そのほうがずっと国民からも理解を得やすい」

 NHKが受信料徴収の正当性の根拠とする「放送の自主性」には疑問を指摘する声も多い。また、NHKの受信料が憲法第13条に違反しているという指摘も以前から根強い。当サイトは3月27日付記事『NHK、未契約者に2倍の受信料「割増金」請求へ…憲法違反、テレビ非保有者も徴収』でこの問題を検証していたが、今回、改めて再掲載する。

――以下、再掲載――

 NHKは4月から、期限内(受信機設置の翌々月の末日)に受信契約をしなかったり、不正に受信料を支払わない人に対し、本来の受信料の2倍の割増金を課す制度を開始する。未払いの受信料も合わせると通常の3倍の支払いを求めることになる。昨年の放送法改正を受けたものだが、受信契約の解約や受信料免除に不正がある場合や、衛星契約など料金が高い別の契約へ変更した後も正しい契約種別の放送受信契約書を提出しない場合も割増金請求の対象となることから、さまざまな声があがっている。

 NHKの受信料徴収をめぐる動きは大きな転機を迎えている。今年10月からは、NHK総合とEテレを視聴する「地上契約」、BS1やBSプレミアムなどの衛星放送もセットの「衛星契約」の受信料を約1割値下げする。

 その一方、NHKはテレビを保有していない人からも受信料を徴収する動きを加速させている。すでに現在でも、自宅にテレビを設置していなくてもチューナー内蔵パソコン、ワンセグ対応端末の保有者は受信料を支払わなくてはならないと定められているが、昨年9月の総務省の「公共放送に関する有識者会議」では、テレビを持っていなくてもスマホなどで放送を見る人について「負担を議論していく必要がある」との意見が提起。NHKは2017年に公表したNHK受信料制度等検討委員会の答申案で、スマホやインターネットの利用者からも受信料を徴収する検討を始めており、テレビ非保有者からも広く徴収する流れが固まりつつある。

 そうしたなかで始まる割増金制度をめぐっては、SNS上で次のようにさまざまな意見が出ている。

<見たい人だけ見られる様にすればいいだけだと思う。わざわざ人件費割いて未払いの家に訪問させるなら「見たい人にはお金を払ってもらう」が一番いい方法>(原文ママ、以下同)

<デジタル時代、未払いには映らなくしたら済む問題では。この情報化時代、NHKが必要か考える方が先ではないかな>

<視聴していないのに視聴料をとる現行法はおかしい。だから皆が口を揃えて言う様に必要な人だけが、受信料を支払うスクランブル化が急務>

<罰則を作るのは自由だが、その前に解約の自由やスクランブルを実現化してからじゃないと駄目でしょ。こんな一方的なお金の稼ぎ方は詐欺だよ。役員報酬を減らし、職員の年収を一般平均に落とし、偏向報道を辞め、スクランブル化の実現と解約の自由を行ってからするべき>

<今の時代、観たい物をお金払って観る時代になりました。NHKも払わない人には映さないようにシステム変更したらいいと思う。なぜ、強制的に支払いさせるのか?昔はそれで通用してましたが今時、有料チャンネルが増えて、観たい物にお金を払う時代になりました。強制的に料金取るのはもはや時代遅れ>

<そもそもテレビを設置すれば強制的に払わないといけないのだから「NHKの価値や受信料制度の意義に共感していただき、納得してお手続きやお支払いをいただく」方針ではないよね。この方針だと納得しない人が払わないと言う選択肢は正しいのに罰則徴収はおかしい>

割増金制度を始める背景

 NHKの「カネあまり」は顕著だ。21年度の受信料収入は6896億円で、毎年平均して1000億円以上の連結事業CF(キャッシュフロー)を生み、22年9月末時点の連結剰余金残高は5000億円を超える。そしてNHK本体は法人税の負担はない。

 そんなNHKは、なぜ割増金制度を始めるのか。『NHK受信料の研究』(新潮新書)の著者で早稲田大学社会科学総合学術院の有馬哲夫教授はいう。

「NHK放送文化研究所の調査によれば、NHK総合チャンネルを1週間に5分以上見ている日本人は54.7%であり、日本人の約半数がNHKを見ていない。NetflixやAmazonプライム・ビデオなど動画配信サービスへの個人の支出が増えるなか、人々の間では『なぜNHKを見ないのに高い受信料を払わされなければならないのか』という不満が高まっている。そうした不満を和らげる目的もあり、NHKは10月から受信料を値下げするが、その交換条件として政府は事実上の罰則である割増金制度の導入を認めたという構図だ。

 NHKの会長は政府が任命するNHK経営委員会で選任され、政府は事実上、NHKの経営をコントロールできる。なので政府は、言いなりにさせられるNHKを存続させたい一方、世論の反発を避けるためにもNHKの肥大化は困る。そこで、NHKに組織の規模縮小をさせるために受信料を値下げさせる代わりに、割増金の導入を認めたということだ。

 だが、そもそもNHKの受信料は、契約締結の相手方や内容などを自由に選ぶことができるとする憲法第13条に違反しており、また、違反しても効力が生じず処罰もされない訓示規定だ。にもかかわらず事実上の罰則である割増金を国民に課すというのは不適切だ」

 NHKの稲葉延雄会長は「割増金についても、一律に条件に該当するからといって請求するというのではなく、お客様の個別の事情を総合的に勘案しながら運用していくという姿勢にあると聞いております」と話しているが、実際には、どのような運用になると予想されるか。

「総務省は1月、日本放送協会放送受信規約について、これまで受信契約書を『遅滞なく提出』としていたところを『受信機の設置の月の翌々月の末日までに提出』とするNHKの変更案を認可した。だが、NHKは受信契約を結んでいない国民の個人情報を収集することはできないので、誰がいつから受信機を設置しているのかは把握できない。よって、個人が負担すべき割増金を正確に把握できるとは限らず、この制度を全国民にとって公平に運用することは事実上困難だ」

 今後のNHKの行く末について有馬教授はいう。

「政府からNHKへの組織縮小圧力は今後も続くため、設備や人員は徐々に縮小されると思う。ネットで配信すれば、全国に張り巡らされた巨大な放送網を維持するためのコストは必要なくなるので、広告費を取り入れるなどして放送は無料にして、配信のほうは有料で提供すればよい。世界もこの方向に向かっている」

(文=Business Journal編集部)

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