全国各地に大規模なショッピングモールを展開するイオンモールが、東京23区内としては初となる商業施設「JIYUGAOKA de aone(自由が丘 デュ アオーネ)」を目黒区自由が丘にオープンさせた。だが、世間の人々が抱く「イオンモール」とは異なり、規模的には大きめのスーパーマーケットと同程度となっているため、SNS上には「小さい」などと落胆の声が広がっている。この「デュ アオーネ」はどのような施設なのか、また、なぜイオンモールは「小さな商業施設」の運営に乗り出したのか。
今月20日にオープンした「デュ アオーネ」は、旧「ピーコックストア自由が丘店」の跡地、東急東横線・大井町線の自由が丘駅(正面口)から徒歩2分という好立地で開業。地下2階・地上4階建てで、施設全体的に東京都多摩産材のヒノキなど木材がふんだんに使用されているのが特徴だ。計26の専門店が営業し、1階と地下1階はライフスタイルと食関連のフロアとなっており、フルーツ・フルーツジュース・フルーツスイーツの「一果房」、チーズスイーツ・かりんとうスイーツ「ウメダチーズラボ / CARIN&」、メガネチェーン「OWNDAYS」などが入居。地下2階には「ピーコックストア」が出店し、豊富な食品類を取り揃えている。2階にはサンマルクが運営するカフェ&ベーカリー「RISTRETTO&CROISSANT LABORATORIO」のほか、物販店が営業。3階には4つの飲食店が11月以降、順次オープンする予定となっており、4階には個別指導塾「TOMAS」も入る。
その他の大きな特徴といえるのが、自然との共生だ。3階のテラスには、草花や樹木などが植栽され、巣箱や鳥の水浴びを促進するバードバスなどが設置。4階屋上の「はらっぱ」も植栽され、子どもが虫や鳥と触れ合える場所となるほか、富士山や丹沢山系を見渡すことができる。
イオンモールの狙い
そんな「デュ アオーネ」をめぐって、なぜか落胆の声が広まっている。運営元のイオンモールといえば全国各地の大規模なショッピングモールで知られ、1カ所で食品から日用品、ファッション品まであらゆるものが購入できる便利さと、家族連れ客が休日に長時間、快適に過ごせるようさまざまな配慮がなされた快適さが人気の施設。これまで東京23区内にはなかったことから、「いよいよ23区にもイオンモールがオープン」と期待する向きもあったのだが、その敷地面積は約3500平方メートルで、イオンモール幕張新都心の約50分の1、イオンモール土岐の約60分の1という広さで、SNS上では以下のような声もあがっている。
「ちっちゃくない?」
「デカメのマックスバリュレベル」
「田舎のイオンの20分の1とか30分の1くらいしかない」
流通業界関係者はいう。
「いわゆる『イオンモール』とはまったくの別物といっていい。駅直結の商業施設にさまざまな業態の店舗が入っている光景はよくみられるが、それを価格が割高で個性のある店舗にして高級化した感じとでもいうのか。魅力的な店舗を数多く入居させているし、全体の設え的にも近年流行のウッディーな仕上がりになって落ち着ける空間にはなっているものの、日常使いするほど手軽ではなく、かといって百貨店ほどの高級感や非日常感はなく、中途半端さは否めない。自由が丘のセレブ層の取り込みを意識しているのだろうが、彼らだって日々の買い物はスーパーやファストファッション、ドラッグストアなどで済ませているし、こだわりが強いセレブ層がこのような大衆向けの商業施設を好んで足しげく通うとも考えにくい。最初の1年は興味本位で訪れる客も多いだろうが、その後は案外、集客に苦戦するのではないか」
ではイオンモールがこれまでとは毛並みの違う施設の運営に乗り出した理由は何なのか。
「地方各地のイオンモールは順調なので、これまで通りやっていればよいが、将来的な目線で、さまざまな業態やコンセプトの施設の可能性を探っておきたいというのが狙いでは。今回の新施設でトライ&エラーを繰り返し集客や売上のデータを収集・分析することで、新たなビジネス展開を模索していこうということだろう。その意味では、イオンモールでターゲットにしてきた『地方の庶民』とは客層が違う、収入が高めの層向けのビジネスを模索していくには、自由が丘駅前という立地に適当な広さの土地が空いたというのは、同社にとっては都合が良かった」
都市型店舗開発の狙い
「デュ アオーネ」の特徴について、流通ジャーナリストの西川立一氏はいう。
「これまでイオンモールは地方や郊外に施設を展開してきたが、大規模なショッピングモールの出店余地は徐々になくなりつつあり、また地方では人口減少も進む。そこで将来の成長を担保するために都市型施設の開発に力を入れ始めた。そうしたなかでトレンドに対し感度の高い人々が集う自由が丘で、同じグループのピーコックが閉店を決めたということで、その跡地に『デュ アオーネ』を出した。リーシングの構成は従来のイオンモールとは大きく違い、トレンドを意識したテナント構成となっており、イオンモールの強いリーシング力を発揮している」
今後のイオンモールの戦略について西川氏はいう。
「イオンモールが今重視しているは人々との交流だ。たとえば10月に埼玉のイオンモール羽生にオープンさせた『nONIWA(ノニワ)』は広場がキーワードで、さまざまなイベントを行って人々との交流を盛んにしようというコンセプト。グランピングなども楽しむことができる。『デュ アオーネ』もガーデンテラスやウッドコートを取り入れ、積極的にイベントを行っていこうとしている。
消費者がモノ消費からコト消費の重視に変わり、イオンモールも時間型消費という需要を喚起して、人々が交流する場としての機能を拡充していく方向性にシフトしている。その象徴が今回の『デュ アオーネ』といえる」
(文=Business Journal編集部、協力=西川立一/流通ジャーナリスト)
当サイトは5月3日付記事『東京都民の憧れの的か…イオンモールが今後も東京23区に出店する可能性は低い理由』でイオンモールの戦略について解説していたが、以下に改めて再掲載する。
――以下、再掲載――
全国各地に店舗を構える大型ショッピングセンター「イオンモール」。巨大な敷面積を有し、そのなかにはスーパーマーケット「イオン」だけでなく、ファッション、飲食、食品、インテリア、書店などのテナントが数多く入居している。また広大な駐車場も有していることから、地域住民にとっては自動車で気軽に行けるショッピング施設として評判だ。
国内に164店舗(2022年12月15日現在)を展開し、地方ではその地域のショッピングの中核を担うことも多いイオンモールだが、東京都内ではほぼ「幻の存在」になっている。都内にイオンモールはわずか4店舗しか存在せず、しかもそのすべてが多摩地区に集約されているので、23区内に住む東京都民からすると馴染みがない施設になっており、SNS上ではしばしば
「東京民はイオンとイオンモールが違うことを知らない」
「よく言ってるよな東京民 イオンモールってどんなの?って」
「都民やけど実家帰った時の実際イオンモールは楽しい」
「イオンモール、都民の憧れの的」
「田舎民が唯一マウント取れるのがイオン」
「東京には店は多いが生活に必要な店が集約されている場所がない イオンモールは1ヶ所にまとまっているから買い物に時間がかからない」
などと話題になることも。東京23区内にもイオン系列の「イオンスタイル」や「イオンタウン」といった店舗はあるものの、イオンモールほどの巨大施設ではなく、いわゆる普通のショッピングセンタークラスの大きさであることが多い。もちろん建設地や企業戦略の影響もあるのだろうが、イオンモールが東京23区に進出していないのはなぜなのか。今回は流通アナリストの中井彰人氏にイオンモールの基本的な戦略や、東京23区のイオン事情について聞いた。
必然的にイオンは郊外で発展していった
イオンモールは必然的に郊外で発展していったという経緯があると中井氏は語る。
「イオンモール登場以前の大型スーパーというと、GMS(ゼネラルマーチャンダイズストア)という小売業態が一般的でした。GMSとは3、4階建ての箱型の建物の中に食品、雑貨類、家具、薬屋などさまざまな店が入った、いわゆる衣食住が詰まった業態。関東だと西友やイトーヨーカドー、関西ではダイエーといった企業が台頭し、1970年代に東京、大阪から店舗展開が始まり、次第に地方にも広がっていき店舗を増やしていきました。
そしてGMSは都市、地方問わず駅前に展開していました。1980年代以前は、一般家庭における自動車の所有率が低かった時代なので、GMSがお客を呼び込むためには人通りの多い駅前が最適だったためです。こうして駅前の一等地を確保できたイトーヨーカドー、ダイエーなどの企業は先発組として、駅前のニーズを獲得することに成功したのです」(中井氏)
しかし80年代以降、自動車の所有率が高くなり始めたことをきっかけに状況は一変していく。
「自動車の普及率が高まり、GMSは駅前のみならず郊外のロードサイドにも進出するようになりました。郊外店は自動車で来店しやすく、土地代が安く商品の価格も抑えられるため、自動車所有世帯であれば、郊外店のほうがメリットは大きい。しかも、地方は余っている土地を有効活用できたので、イオンなどのGMS後発組の企業は、駅前一等地に出店ができない分、郊外のロードサイドに目を付けて出店するようになっていきます。その進化系として、圧倒的な面積を有し、出店したのがイオンモールでした。1992年、現在の青森県つがる市に1号店をオープンしたのです。
こうして郊外店との競争に負けた地方駅前のGMSは、7割近くが閉店に追い込まれてしまい、撤退を余儀なくされるか、もしくはダイエーのようにイオンに吸収されてしまいました。西日本ではイズミのゆめタウンや、平和堂など多様な大型モールがあるものの、イオンほど集客力があり広大な店舗面積を有す商業施設は多くはなく、実質独壇場といえますね」(同)
イオンモールは、車社会である郊外で大量に客を呼び込むという店舗設計だったからこそ、成功した側面もある。そう考えると、公共交通機関が発達しマイカーがなくても不便ではない東京23区というエリアは、イオンモールの戦略とは合致しないため、展開が進まなかったのは当然のことだったのだろう。
23区にイオンモールは来ないのか
東京、大阪の都心部ではイオンモールが台頭できないことから、今でも古いタイプのGMSは生き残れている。
「東京、大阪の都心部はマイカーではなく、バス、電車での移動がメインの方が大半であり、地方に比べて圧倒的に人の動きが多く集客を見込めるので、駅前GMSは生き残ることができています。商圏を考えたときも、地方がだいたい半径4kmとすると、都心部は1kmほどといわれていますので、そもそもの競争力が緩く、むしろスーパーにとっては好都合なんです。
ただ、それでも現状苦戦しているのが実情かと思います。現にイトーヨーカドーは、一等地に店舗を構えられているため集客こそできているものの、非食品分野で専門店チェーンとの競争に負けており、業績が下降気味となっています。先日、肌着を残してアパレル事業から身を引いたことに代表されるように、経営戦略の変更を迫られている状況なのです」(同)
大都市圏ではまだ生き残れているとはいえ、そのほかのエリアでは競争に敗れ去ったGMSは、イオンによって再編、もしくは吸収合併され新しく生まれ変わっている。それがイオンスタイルやイオンタウンと呼ばれる商業施設なのだという。
「ダイエーやサティが業績不振によりイオンに合併された後、かつて存在した都内のGMSの跡地はイオンスタイルやイオンタウンといった名称へと変更され、生まれ変わっています。イオンモールとの違いは、純粋に面積やテナント数です。かつてイオンスタイルやイオンタウンが引き継いだ店舗は、土地代が高く、面積も限られているので、イオンモール並みの大きさにはできませんし、大規模な駐車場を設けることもできないのです。神奈川県横浜市にある『イオンスタイル天王町』(現・イオン天王町ショッピングセンター元はサティ天王町)では、都市型のイオンスタイルにしては大型で話題となりましたが、やはり地方のイオンモールの規模には届いていません」(同)
たいていの買い物や用事は、イオンモールに行くだけで済ますことができる。地方暮らしでイオンモールの便利さに慣れてしまうと、都心部での買い物に不便さを感じる人もいることだろう。
「都心部には多種多様なお店が集まっているものの、イオンモールがある地方に比べると実は買い物しづらいかと思います。マイカー移動に慣れてしまっている方々からすれば、東京23区で電車やバスに乗って移動するのは面倒くさく感じるかもしれませんし、仮に車で行ったとしても駐車場が狭く、駐車料金が高いことから地方に比べ利便性は劣ります。しかも食品や日用品、薬、衣服などそれぞれ別々のお店に行かないと購入できない場合も多い。また先述したように都心部は競争が緩く、価格競争する必要がないので価格が高止まりしてしまっている一面もあります。
この点、イオンモールは食品を安い価格で提供できていますし、『トップバリュ』といったPB商品もリーズナブル。イオンとしては、競合のスーパーマーケットに勝つためというのはもちろんでしょうが、『イオンモールに来ればなんでも揃って便利でラク』というイメージをお客に定着させるように、低価格を実現しているのでしょう。イオンほどの大型店舗を運営するノウハウは、競合にはあまりありませんので、イオンモール一強といわれているのです。
ちなみに首都圏でも、『ららぽーと豊洲』や『ラゾーナ川崎』などイオンモール規模の大型ショッピングセンターはあるものの、駅近くに立地している影響もあり、混雑は必須なので車では気軽には訪れにくい。そして、これらの店舗は工場の跡地を再利用していることが多いため、大手デベロッパーが開発するケースが多いでしょう。ですから東京23区の都民がイオンモールを日常的に利用できる日は当分来ないかもしれません。もし23区内でイオンモールが出店できるとするならば、それこそ大規模な再開発が行われるときぐらいではないでしょうか」(同)
東京23区民が羨むイオンモールは、郊外ならではの事情で発展し、イオンの周到な戦略によって地方のニーズをガッツリ掴んでいる。もしかしたら、東京23区などの都心部よりも、イオンモールのある地方に引っ越ししたほうが日々の買い物は便利になるのかもしれない。
(取材・文=文月/A4studio)