国民的人気を誇る超ロングセラー菓子の「うまい棒」「BIGカツ」「キャベツ太郎」「餅太郎」「蒲焼さん太郎」。商品の入れ替わりが激しい大手のコンビニエンスストアや全国のスーパーでも、その姿を消すことなく根強く販売されているが、実はこれらの商品はすべて、従業員数わずか78名(同社HPによる)の「やおきん」という非上場企業が販売していることはあまり知られていない。資本金1000万円、その年商は183億円(2022年12月現在)に上り、単純計算すると従業員一人当たりの年間売上高は約2.3億円という驚異的な数字になる。「やおきん」とはどのような企業なのか。識者の見解も交えて追ってみたい。
「やおきん」をめぐっては以前からSNS上で、
<商品は安い駄菓子ばかりなのに年商183億とかどうなってるの>
<うまい棒何本売ったら180億も稼げるんだ>
<従業員数100人以下であのスケールで全国展開してるのすげぇ>
といった声があがっていた。百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏はいう。
「年商の額に比べて従業員数が少ないのは、『やおきん』が自社工場を持たない企業(ファブレス企業)であることが前提としてあります。例えば、うまい棒はリスカというメーカーが生産しており、他の商品も製造は別の企業がやっています。『やおきん』は販売、企画、営業を担当するなど分業化されているので、従業員数が少なくても売上が大きくなるわけです。ただ、そうした企業で全国規模の展開をしているのは珍しく、いい成功例だと思います」
同社が中小企業ながら全国に幅広い販売チャネルを有する理由について、鈴木氏はいう。
「もともと、うまい棒やキャベツ太郎などが駄菓子屋の定番商品だったというのが大きく影響しています。近年は店主の高齢化などで駄菓子屋が激減し、子どもたちがお菓子を買う場所はコンビニやスーパーが中心になりましたが、そうした子どもたちのためにどんな商品を置こうかと考えた時、駄菓子屋の定番だった同社の商品が選ばれやすかった。また、うまい棒は味のバラエティが豊富で選ぶ楽しみがあり、新商品も次々と投入されるので、特にコンビニにとっては扱いやすい商品です。現在、コンビニは全国に5万店以上あります。各コンビニが同社の商品を置いた結果、全国規模での展開が可能になったわけです」(同)
絶妙な値上げ額
うまい棒といえば、発売以来約42年にわたって1本10円(税抜き、以下同)という価格を維持していたが、原材料価格・エネルギーコストなどの上昇を受けて22年4月から12円に価格を改定。この「2円」という値上げ額から同社の優れた戦略がうかがえるという。
「2円というとわずかな値上げ幅に見えるのですが、昨今の食品の値上げラッシュのなかでも、いきなり2割も値上げした商品というのはそれほどありません。一気に2割も上げれば今後も当面は利益が確保できるでしょうが、消費者側とすれば『たった2円』なので大きく値段が上がった印象はない。また、消費税は10円の時と同じように12円だと切り捨てになる店舗が多く、それも含めて絶妙な値上げ額だったといえます」(同)
帝国データバンクによると、23年に値上げした食品の1回当たりの平均値上げ率は15%となっており、それと比べると2割は値上げ幅としてかなり大きい。しかし、ネット上では「たった2円の値上げで本当に大丈夫なのか」「ずっと1本10円を守ってきてくれたのだから値上げしても応援したい」などと、心配や激励の声が目立っていた。もともとの価格が安いため、値上げ幅が平均より大きくても購買意欲にほぼ影響しなかったようだ。
消費税については、大手コンビニなどでは1円未満の端数は切り捨てられる。食品は消費税率8%だが、うまい棒は価格10円だと消費税は0.8円、12円でも0.96円でギリギリ1円に満たないので切り捨てになる(まとめ買いした場合などは別)。これが13円だと消費税が1円発生し、税込14円になるので印象が変わってくる。そう考えると、2円という値上げ額は絶妙だったようだ。
日本では特殊な例
「やおきん」の成功について、鈴木氏は「日本では特殊な例」と指摘する。
「主力商品の価格が10円台という会社は日本ではほとんどありません。国内で類似するのはチロルチョコ(1個23円、チロルチョコ株式会社が販売)くらいでしょう。しかし、海外だとインドやブラジルなどで、低所得者層向けにシャンプー1回分を10円程度で販売するといったビジネスで成功しているケースがあります。そうしたビジネスでは、先に価格を決定し、その範囲でどうすれば利益が出るのかを逆算します。『やおきん』の商品展開や戦略は、そうした海外のビジネスモデルと近い。うまい棒が10円のころから12円に値上げした現在まで、『やおきん』は利益を確保するためのコスト管理がしっかりできているからこそ、高い年商を維持できているのでしょう。『やおきん』の成功の秘訣は、そこが一番のポイントだと考えられます」(同)
(文=佐藤勇馬、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)