トヨタ自動車の店舗で、高級車「アルファード」を購入しようとしたら、執拗に販売員から残価設定ローン(残クレ)での購入を勧められた、との投稿がSNS上で話題になっている。さらに、残クレを断ると嫌な顔をされた、という。なぜディーラーは残クレを勧めるのか。残クレのメリットとデメリットは、どのようなものがあるのか。専門家に話を聞いた。
「嫁の圧力でアルファードを買うことになった友人。ディーラーからひたすら残クレを勧められてウンザリして帰ってきたそうな。銀行ローンでの一括払いだと話をしたら、嫌そうな顔をされ、残クレの方がお得ですよー。とか、残クレの方が納期早いですよー。みたいな感じの事を捲し立てられたらしい」
SNS上で、このような投稿があり、大きな注目を浴びている。アルファードといえば、トヨタが販売している超高級大型ミニバン。ミドルモデルで540万~642万円、エグゼクティブモデルになると800万円を超える。これにオプションを加えれば、さらに数十万円単位で金額は上がっていく。一般的な会社員が簡単に現金で買える代物ではないだろう。購入しようとする客も、ローンを組むケースが多いようだが、頭金を払って残金を分割払いにする一般的なローン契約ではなく、数年後にディーラーが買い取ることを前提に、その価格を割り引いてローンを組む「残価設定ローン・残価設定クレジット(通称:残クレ)」で購入する例も、近年は増えているようだ。
上記投稿を受けてSNS上では、「残クレや、KINTOの方が儲かるから薦めてきますからね~ 納期も儲かる順に早いってやつw 残クレ契約しといて納車されたら銀行から借りて一括清算で」「残クレにすると販社は儲かりますからね。ノルマもあるみたいですし。残クレとリボ払いには、手を出すべきではありません」といった投稿が相次いでいる。
残クレはディーラーが儲かる?
実際に残クレはディーラー側が儲かる仕組みなのか。客としては、残クレを利用するのは控えたほうがいいのか。中古車販売店経営者で自動車ライターの桑野将二郎氏に聞いた。
――残クレでの購入を、どこのメーカー(ディーラー)でも勧めてくるのでしょうか。
「ほぼどこでも勧めているのではないでしょうか。また、社員へのノルマについても、販売会社によって程度の差はあるものの、ほとんどのディーラーがノルマでガチガチに固められているでしょう。最近はメーカーによっては新車を売りたくても供給が追いついていないとかで、『とにかくカネになるもんを売ってこい!』とドヤされているらしく、商談が入れば100%、残クレの提案はしていることと思われます」(桑野氏)
――なぜそこまで残クレで売りたいのでしょうか。
「まず基本的なことから説明いたします。
残クレとは、クルマを買う時に販売価格の3年後や5年後など、“まだハッキリしてもいない将来の価値”を算出して、その金額を差し引いた金額で規定の期間ローンを組むというもの。
物は言い様で、こう聞くとやや不安になるかもしれませんが、ディーラーでは良いことしか言いません。例えば、『○年後の査定金額は保証されているし、金利も低くて毎月の支払いはラクだし、最近の新車は5年サイクルくらいで次にまた良い新しいモデルが発表されるので、ちょうどその時に乗り替えれば常に最新のクルマに乗り続けられます』といった具合です。
この残価設定の具体的な内容ですが、例えば500万円の新車が5年後に250万円の価値だとすれば、残価設定で250万円の5年ローンを組むわけです。ローン期間が終わった後は、(1)残りの250万円を一括支払いで買い取る、(2)また改めてローンを組み直して乗り続ける、(3)買ったディーラーで新しい新車に買い替える、(4)そのまま返却する(査定額は保証されているので残債は無し)という4パターンから選ぶことになります。
ここで一般人はお得な情報しか聞かされていないので、現金一括で買うよりお得な残価設定ローン、通常のローンで買うよりも支払いがラクチンな残価設定ローンのほうが断然お得、となります。しかし残念ながら、落とし穴があります。
ひとつは、『金利のカラクリ』。残価設定ローンの金利は、例えば前述のような場合は、ローンを組む250万円の金利ではなく、販売価格の500万円の金利がかかります。どういうことかというと、もしも5年後に改めてローンを組んで買うとしたら、残価設定ローンで500万円分の金利を支払い、再ローンでは残りの250万円に対する金利を払うことになります。しかも再ローンの金利は一般的なオートローン金利なので、さほど低金利ではなかったりします。つまり、乗り続けると金利面で断然損をします。
さらに、ローンの支払い期間の規定があったりもして、例えば5年で残価設定ローンを払い終えて、再ローンを組む時に、ローン期間がMAXで7年とかだと残りの金額を2年で支払うことになります。いざ、という場面でこういう話を聞かされると、一般ユーザーの気持ちは揺れますよね、それだったら今までと同じくらいの残価設定ローンで新しいのに乗り替えるほうがお得だよな、と。こうして皆さん、“残クレ地獄”に落ちるわけですね。ここから先はもう、ディーラーの言いなりです。
そしてもうひとつは、『残価設定のルール』。残価設定は前述のとおり、“まだハッキリしてもいない将来の価値”を算出して保証してくれる、一見親切でお得な設定のようです。しかし、なんでもかんでも残価保証してくれるわけではありません。この残価設定のルールは縛りがなかなかキツくて、事故でもしようものなら追加支払い発生。近所でぶつけて小さな傷や凹みが付いても、査定次第では追加支払い発生。走行距離が年間2万km程度走る人は走行過多で追加支払い発生。タバコを吸う人は車内が臭いから追加支払い発生。自分の好みでちょっとイジってみたりカスタムなんかしたら、場合によってはディーラーへの出入り禁止かつ追加支払い発生です(もちろんメーカーによって違いはありますが)。
では、残価設定ローンはなんのためにあるのか。表面上は、より多くのお客様に負担を少なく、乗りたいクルマに乗っていただけるお得な買い方、です。しかし内容を知ると、完全にディーラーの思うツボ商法なのです。ディーラーが儲けるための仕組みのひとつです。
まず、ディーラーの営業マンは、ノルマのために頑張っています。会社のノルマは近年、新車販売の台数と同等に残価設定ローンをいかに組ませるかに注力していると聞きます(元ディーラー営業マン複数の証言をいただいております)。もしも現金で新車を売ったりなんかしようもんなら、上司から『おまえ寝てたんのか? 残クレの提案をもう一度イチからやり直してこんかい!』などと言われるのは、ディーラー“あるある”なのだそうです。
ディーラー側にとって、残価設定ローンで買わせるウマミは、(1)ローン期間が終わった時に次の商談機会が生まれる、(2)他社にお客を取られるリスクが抑えられる、(3)金利で信販会社からのローンバックがもらえる、などといった側面があります。
ディーラーで商談している人の話を聞くと、『残価設定ローンにしたら値引きも大きくなるんだよ』なんてことを言っていたりしますが、それはディーラーは後で信販会社からローンバックがガッツリ入るのですから、多少値引きしたところで結局得をするのはディーラー側です。ちなみにこういう話、全ディーラーで一律の話ではなく、販売会社ごとにマチマチなので、そのあたりはご了承ください」(桑野氏)
残クレは、一度利用すると抜け出せなくなる恐れのあるローンと言えるのかもしれない。残クレの金利は3~9%が一般的で、なかには10%台の高金利もある。一方、銀行のマイカーローンは1~4%が多く、ディーラーの金利より大幅に低い。残クレにすれば月々の支払額は抑えられるが、最終的な総支払額は数十万円の違いが生じる。アルファードほどの高級車だと、100万円近い差になる。もちろん、今後は銀行の金利も上がってくる可能性があるが、それでも残クレよりは総額を安くできるのは間違いない。クルマの購入を予定されている方は、よく検討したほうがいいだろう。
(文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター)