乗員の頚動脈切断、腕に刺さる…タカタ、危険を知りつつ販売続行で最終局面に
最初の死亡事故が起きたのは2009年5月のアメリカ。当時18歳だったアシュリー・パーハムさんは01年式ホンダ・アコードを運転しているときに事故に遭った。事故そのものは死に至るような激しいものではなかったが、ある金属片が彼女の頸動脈を切断したのである。その後の事故調査で明らかになったのは、事故の衝撃でタカタ製エアバッグが作動した際に金属製容器に入ったガス発生剤(火薬)が異常爆発を起こし、本来なら壊れないはずの金属容器が無残に破壊されたことだった。彼女を守るはずのエアバッグは凶器に変わったのだ。
米道路交通安全局(NHTSA)は設計値以上の爆発力が生じた可能性を指摘した。ホンダはこれを受けて同年6月にリコールするも、異常爆発の根本原因が明らかになっていないため、リコールの範囲は限定的なものだった。
実はこのときのリコールは2回目で、最初のリコールは08年9月に行っている。というのも、00年代中ごろから当該エアバッグを装備したホンダ車において、エアバッグの異常爆発の事故が起きていたのだ。ホンダは全容をつかんではいなかったが「タカタ製エアバッグで何かが起きている」と考え、事故を起こしたインフレーター(ガス発生装置)を搭載した前後の型の車両を含めて調査リコールを行ったのである。
不幸にも2件目の死亡事故は2回目のリコール直後の09年12月に発生した。3件目は13年。さらに14年に2件、15年にも1件の死亡事故が起きてしまった。事故が起きるたびにエアバッグのリコール範囲を広げたが、原因は推測の域を出ることはなかった。
硝酸アンモニウムの安全性に疑問の声
筆者がこの問題を取材するようになったのは1年ほど前からだが、その時から問題の深刻さを感じ、事故再発を防ぐために各メディアを通じて2つのことを提案していた。
(1)硝酸アンモニウムだけでなく、エアバッグの性能保証期限を10年とすること。1990年代中ごろまではエアバッグの先駆者であったメルセデスとホンダは10年という期限を区切っていた。車内に装備される硝酸グアニジンを使う発煙筒でさえ、4年交換と決められている。
→ 当初、エアバッグの異常爆発の原因は、劣化による結晶構造の破壊と考えられていた。さらに高温多湿が硝酸アンモニウムを不安定にする要因であった。
(2)最終的には、硝酸アンモニウムの使用を中止すること。かつて多くのメーカーが採用し、90年代後半まで使われていたアジ化ナトリウムという火薬は土壌汚染のリスクを指摘され、日本では厚生労働省が毒薬に指定したことで使用できなくなった。その代替としてタカタは硝酸アンモニウムに切り替え、ほかのエアバッグメーカーは硝酸グアニジンを採用するようになった。
→ 硝酸アンモニウムは物性として不安定になりやすく、異常爆発 (爆轟)しやすいので、最終的には90年代のアジ化ナトリウムと同じく使用禁止するべきだと考えていた。
タカタ製エアバッグ問題、最終局面へ
タカタ製エアバッグに起因する死傷事故はすべてアメリカで起きていたが、ついに日本でも負傷者が出た。日産自動車のエクストレイルで、助手席の乗員の腕にタカタ製エアバッグのインフレーターの金属片が刺さる事故が起きたのだ。これを受けて日産はすぐにリコールを発表し、この問題が対岸の火事ではないことを示した。しかし、日本のユーザーはどう対処するべきか悩ましい問題に突き当たったともいえる。というのは、今回の車両はリコールの知らせを受けて、一旦は日産ディーラーで点検し、問題ないと判断されてエアバッグの交換を後回しにされていたからだ。ちなみに、ホンダは古い順に交換に応じ、間に合わないユーザーにはエアバッグのスイッチをカットして対応していた。
そしてついに、大きな動きがあった。米国現地時間11月3日、NHTSAはタカタに対して「同意命令(Consent Order)」を発令し、硝酸アンモニウムの使用断念を同意させた。この知らせを受けたホンダは硝酸アンモニウムを使わない方針を打ち出し、各自動車メーカーも雪崩のごとくこれに同調した。トヨタ自動車は11月25日に国内で約160万台の車両をリコール。交換品が間に合わない場合は、エアバッグのスイッチをカットして対応することを発表した。
一連のエアバッグ問題はこれで最終章に入り、自動車メーカーは再び被害者が出ないことを祈りつつ、それぞれリコールに対応している。硝酸アンモニウムのリスクを知りつつ、安全だと言い続けてきたタカタの対応は理解しがたいが、一方でタカタは素晴らしい技術を持ち合わせている。早くウミを出しきって、出直してほしいと思う。
(文=清水和夫/モータージャーナリスト)
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