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ルネサス、社長交代、相次ぐリストラでも止まらぬ赤字拡大と迷走に市場は冷ややか

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ルネサス、社長交代、相次ぐリストラでも止まらぬ赤字拡大と迷走に市場は冷ややかの画像1ルネサスエレクトロニクス本社が所在する
日本ビル(東京)(「Wikipedia」より)
 昨年10月の7511人の人員リストラ実施に続き、今年1月に3000人以上の追加リストラを発表、さらに函館工場など3工場売却の発表を連発しても、ルネサスエレクトロニクスの赤字拡大が止まらない。

 ルネサスは2月8日、2013年3月期の連結業績見通しを下方修正し、営業損益が従来見通しの210億円の黒字から260億円の赤字に、最終損益が同1500億円の赤字から1760億円の赤字に拡大すると発表した。同社としては過去最大の赤字幅。前身のルネサステクノロジ時代を含めると、8期連続の赤字見通し。しかも、赤字幅はさらに膨らむ公算が強まっている。

●リストラ資金も不足

 業績見通しの修正に追い込まれたのは、自動車・産業機器向けのマイコンと半導体の需要減速によるところが大きい。

 同社は安易に市況回復を見込んでいたが、中国の経済成長低下の影響などを受けて需要が減少。加えて、民生用の電子機器向け半導体生産を絞ったのが響いた。民生用の顧客には、販売不振に陥っている任天堂などを抱えている。

 2月8日の記者発表で、赤尾泰社長(当時、現取締役)は産業革新機構(以下、革新機構)とトヨタ自動車など8社からの1500億円の出資を踏まえ、「新たな成長に向けた資本増強を控え、合理化施策や足元の構造改革を推進している。固定費削減も着々とやっている」と強調したが、赤字幅の拡大により自己資本比率は昨年9月の13.0%から8.8%へ低下。財務体質の悪化と売上不振により、今年1月に発表した人員削減追加を賄う手元資金の欠如も明らかになっている。

 一方で、採算が悪化するシステムLSI事業については、富士通とパナソニックの統合会社への合流について協議が続いていると見られるが、赤尾前社長は「得意の車載や産業用は競争力を持っており、今後も強化する」と述べ、統合会社への不参加を示唆している。

 しかし、同事業は「ルネサス単独での立て直しは無理」と見る関係者が多く、ここでも赤尾前社長の判断ミスが取り沙汰されている。

●迷走を続けた赤尾経営

 ルネサスの売上規模は10年4月発足時の60%程度にまで縮小、赤尾前社長の経営が迷走を極めている。特に昨年は、それが顕著な1年だった。経緯をざっとさらってみよう。

 12年1月末、同社は11年度(12年3月期)第3四半期連結決算発表で、11年度の通期業績見通しを下方修正すると共に、11年度の下期業績の営業黒字が困難になったことも明らかにした。11年10月末の決算発表では「11年度の第2四半期以降、業績は回復傾向にあり、下期は確実に黒字化を達成したい」(赤尾前社長)と意気込んでいた。だが結果は赤字。11年夏に発生したタイ洪水の影響、欧州の不況、中国経済の減速などを見通せなかった赤尾社長の甘い判断が原因だった。ここから、赤尾社長の経営迷走が顕著になったと言ってもよい。

 12年5月、11年度の連結決算発表で、半導体売上高が前年度比23%減の7860億円、営業損益が568億円の赤字になったと発表。しかも「景気に左右されない製品群を中核とする事業計画を策定中」として、12年度の業績見通しを開示しなかった。

 この時点で、すでに運転資金不足の可能性が指摘されていたが、決算発表では「運転資金は十分にある」(同社)とかわしていた。実際には、この時期に出資を受けることとなった革新機構をはじめ、「国内外の複数の投資家を増資割当候補先として検討を進め、いくつかの割当候補先から具体的な出資提案を受けていた」(赤尾前社長)事実が後に明らかになった。

 そして12年7月、国内生産18拠点の再編と、5000人規模の人員リストラを柱とする「事業再建計画」を発表。赤尾前社長は「譲渡もしくは閉鎖する工場がある地域に大きな影響があることはわかっている。しかし、ルネサスがなくなるか、痛みや犠牲があっても残すか、どちらを選ぶか問われれば、間違いなく残すほうを選ぶ。今回の再建計画はそのためのものだ」と説明、経営再建に自信を示した。

 12年10月末、12年度の中間決算発表で、決算内容と事業再建計画の実施状況のみを説明。以前から報道されていた、革新機構や米国の投資ファンドKKR(Kohlberg Kravis Roberts)による増資に関する質問に対して「当社から発表したものではない。回答できない」(佐川雅彦執行役員)とノーコメントを貫いた。

 なお、事業再建計画の実施状況発表により、同社のグローバル従業員数が、12年9月末の約4万2000人から約3万5000人まで減少したことが明らかになった。さらに今後は、工場の譲渡や閉鎖により4000人程度を削減、14年度末にはグローバル従業員数が3万人規模まで減ることもわかった。

 12年12月10日には、革新機構などから総額1500億円の出資を受けると発表。同日発表した12年度の連結決算通期見通しでは、半導体売上高が前回予想(12年8月発表)比510億円減の7600億円に落ち込むにもかかわらず、営業損益は210億円の黒字になるとの見通しを据え置いた。500億円もの売上高減少にもかかわらず、営業利益の見通しを据え置くという判断は、2カ月後、冒頭の通り260億円の赤字修正でその誤りが証明された。

 甘い判断と誤りを繰り返した、赤尾前社長の1年だったといえる。

●1500億円出資でも見えない再建の道筋

 この1年間、赤字幅が拡大を続け、リストラ経費の捻出にさえ窮する異常な事態に追い込まれたのは、そもそも問題を繰り返し先送りしてきた赤尾前社長の決断力のなさと批判されても仕方がない。世界シェア40%を握る車載マイコンという強い製品がありながら、他のお荷物事業を整理できず、成長戦略も描けなかった。

 昨年12月10日、革新機構などから1500億円の増資を受けると発表した記者会見で、提案力の強化に加え「製品でなくプラットホームを提供する」と説明、会場から失笑が漏れた。これこそ同社が一番苦手な分野だからだ。

 そもそも同社が業績不振に陥ったのは、今回の出資者に名を連ねているトヨタなど大口顧客の言うがままに多品種半導体を低価格で供給し続け、低収益体質を改善できなかったのが原因。同社には「下請け体質」が染み付いているのだ。

 革新機構などからの増資で獲得する1500億円の使途について、赤尾社長はプラットホームサプライヤに進化するため「コアコンピタンスの強化」「ソリューション提案力の強化」「急激な市場変化に対する耐性強化」の3分野に用いると説明した。

 コアコンピタンスの強化では、研究開発投資に400億円、設備投資に200億円を振り向ける。マイコンの製造に適用する40/28nmプロセスの開発と設備投資を進めながら、自社の制御系IP(Intellectual Property)と、先進プロセス製品の量産パートナーであるTSMCが持つ情報通信系IPを融合させて周辺機能を充実させ、「マイコンで圧倒的トップを目指す」(赤尾前社長)と宣言した。

 また、ソリューション提案力の強化では、自動車向けに400億円、産業機器向けに400億円を投資する。それぞれの分野で、IPやソフトウェアの開発に注力し、プラットホームサプライヤとしての事業展開を早期に行えるようにするという。

そして、急激な市場変化に対する耐性強化では、経営基盤の再構築に残り100億円を振り向ける。特に東日本大震災で那珂工場(茨城県ひたちなか市)が被災した際の教訓を生かし、今後の生産の主力となる90/40nmプロセスについて大手ファウンドリを含むマルチファブ化(多拠点生産)を実現し、顧客への安定供給体制を強化するという。

●市場関係者からは冷ややかな視線

 これらの説明において、赤尾前社長は目を下に向けてプレゼン資料を淡々と読み上げるだけで、自らの言葉で語ることはなかった。1500億円の使途は説明したものの、投資の具体的時期はノーコメントだった。

 証券アナリストの一人は「成長の道筋が見えず、再建の熱意も伝わらない、白けっぱなしの説明だった。本当に経営再建をする気があるのか」と呆れ、疑いの眼をあらわにしている。

 また革新機構の幹部も、「破綻しているビジネスモデルを変えようとの発想がない。危機感がない」と漏らしている。

 一方、ルネサス関係者は「赤尾前社長は調整型の経営者。何をするにも日立、三菱、NECの親会社3社に相談しなければ決定できない。その親3社の判断がまた遅い。返事を待っているうちに状況がどんどん変わってゆく。荒海で舵を取れる器ではないのに舵取りを任されたのが、彼の不運」と、半ば同情している。

 その赤尾前社長は、革新機構などの出資受け入れを承認した2月22日の臨時株主総会で、同日付で代表権のない取締役に退き、後任には鶴丸哲哉取締役執行役員が昇格した。
赤尾前社長は今年6月の定例株主総会で、取締役も退く意向と報じられている。
(文=福井晋/フリーライター)

BusinessJournal編集部

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