レクサス「IS」のマイナーチェンジモデルは、僕に2つの疑問を突きつけた。
そのひとつは、エクステリアの大胆な意匠変更である。基本的な印象は従来型と大きく変わらない。デザイン的にはキープコンセプトである。それも道理で、造形的な評価は高く、デザインを刷新する必然性は感じられなかった。
だが、つぶさに観察すると、細部にいたるまで新設計がなされている。フロントガラスとその窓枠であるAピラーと、リアクォーターのCピラーを流用しているだけで、そのほかのすべては新しいのである。これはもう、フルモデルチェンジといっていい。それほどの改良なのだ。それでいて不思議なことに、インテリアの変更はほとんどない。外観をガラリと変えているのに、内装はそのままという不思議なマイナーチェンジなのである。
ちなみに、プラットフォームもパワーユニットも、基本的にはほとんど変更がない。つまりは、外観だけがまったく新しく、その他は従来型を受け継ぐ。フルモデルチェンジとしては軽微であり、マイナーチェンジとしては大胆すぎる。特異な改良モデルとして誕生したのである。
だが僕はこれを、“ほとんどフルモデルチェンジ級”だと思うことにした。というのも、プラットフォームもパワーユニットも変更はないが、走りは劇的に変化していたからだ。
ボディ剛性が大幅に引き上げられた。もともとレクサスは、現行のISデビューに合わせて、接着溶接やスポット増しといった革新的なボディ剛性技術を完成させた。それをさらに徹底したのである。
最大のエポックは、「ハブボルト締結構造」に挑んだことだろう。簡単にいえば、「アルミホイールをしっかりと組み込む」である。これまでは、いわば日本で一般的な構造を採用していた。ボディ側からスタッドボルトが突き出ている。そのスタッドボルトをホイール穴に通し、突き抜けたボルトをねじ止めする。だが、その構造を改めたのだ。
ボディ側からはスタッドボルトは突き出ておらず、その代わりにねじ穴が開いている。そこにアルミホイールを貫通させた状態でボルトを突き刺すスタイルに改めた。つまり、ナットで締めるのではなく、ボルトをねじ込む構造にしたのだ。これを「ハブボルト締結構造」という。
これによって、ボルトを太くすることが可能になった。それは、より強い力でボディとホイールを締結させることを意味する。それが走りの剛性アップに貢献する。これまでは、いくらボディ剛性を引き上げても肝心のタイヤの部分で緩みがあった。応力の損失があったのだ。それを改めたのである。
また、今回からタイヤサイズが19インチに改められた。これによって走りのパフォーマンスは飛躍的に高まった。これまで限界領域でフラフラと見放すことがあった接地が安定したのは、タイヤのパフォーマンスアップが効いている。そしてその効果を、ハブボルトの締結力アップがアシストしているというわけだ。
外観はフルメイクである。それと比較すれば、ハブボルト締結構造の採用は地味な細工のように思われる。だが、メカニズム的視点では、フルモデルチェンジに近似した大英断だったと思う。そこに挑んだ開発陣のこだわりは、大いに褒めていいと思う。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)