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小林敦志「自動車大激変!」

スズキ「ソリオ」とトヨタ「ルーミー&タンク」が“どちらも売れ続けた”新車販売の裏事情

文=小林敦志/フリー編集記者
スズキ「ソリオ」とトヨタ「ルーミー&タンク」がどちらも売れ続けた新車販売の裏事情の画像1
スズキの「ソリオ」(「ソリオ|スズキ – スズキ株式会社」より)

 2020年11月25日にスズキの新型「ソリオ」が発表、12月4日に発売された。1997年にデビューした、当時の「ワゴンR」の登録車版といっていい“ワゴンRワイド”を源流とするモデルであり、その2代目ともいえる“ワゴンR+”がモデル途中でソリオに改名。さらに、2010年にオリジナルモデルとして2代目ソリオが、そして2015年に3代目がデビューし、今回4代目がデビューしたことになる。

 ワゴンRワイド、そしてワゴンR+改めソリオの頃は、見た目もワゴンRに近いこともあり、販売台数は自慢できるものではなかったが、2代目ソリオでオリジナルデザインを採用すると、たちまちヒットモデルとなった。しかも、他のメーカーからライバルと呼べるモデルが出てくることはなく、2代目ソリオは“ひとり勝ち”を謳歌していた。

 3代目も、しばらくの間は同様にひとり勝ち状態だったが、2016年11月に、まさに“眠れる獅子”状態であったトヨタ&ダイハツ連合が「タンク」「ルーミー」「トール」を発表した(ルーミーとタンクはダイハツからのOEM)。その後、スバルもダイハツからのOEMで「ジャスティ」をデビューさせ、4兄弟体制でソリオを包囲することとなった(ソリオのOEMとして、2代目、3代目では三菱「デリカD:2」もラインナップされていた。本稿執筆時点では、デリカD:2は先代ソリオベースのままであった)。

 ルーミー系がデビューしたとき、業界内では「スズキが眠れる獅子(トヨタ)を起こした」となり、ソリオは販売面でかなりのダメージを受けるのではないかといわれた。しかし……。

 ルーミー系が通年でフル販売となる2017暦年から、ルーミー、タンク、ソリオの年間販売台数をもとに月販平均台数を見ると、2017年はルーミー約6556台、タンク約5904台、ソリオ約4145台。2018年がルーミー約7188台、タンク約6149台、ソリオ約3740台。2019年がルーミー約7637台、タンク約6209台、ソリオ約3707台であった。

スズキ「ソリオ」とトヨタ「ルーミー&タンク」がどちらも売れ続けた新車販売の裏事情の画像2 デビュー時のルーミーとタンクの月販目標台数は各3750台、先代ソリオは3500台。そして、2017年から2019年の3年間の平均月販台数は、ルーミーが約7127台、タンクが約6088台、ソリオが約3864台であった。月販目標台数に対しては、ルーミーが約190%、タンクが約162%、ルーミーとタンクの合算では約176%と、とにかく売れまくった。

 一方、ソリオも3年間の平均月販台数は約3864台で、月販目標台数比で約110%となっており、“ルーミーやタンクに食われた”という結果にはなっていない。ルーミー系が存在しなかった2016暦年締めの年間販売台数4万8814台に対し、2017年から2019年の3年間の年間平均販売台数は約4万6371台だったので、ルーミー系のデビュー後も販売の勢いはほとんど衰えることがなかったといえるのだ。

 つまり、今日のルーミー系の大ヒットは、ソリオのニーズを“食った”わけではなく、まったく別のお客を集めていたということになる。購入の際、ルーミー系とソリオを比較検討していた人は、ほとんどいなかったといっても過言ではないのである。トヨタ系ディーラーからも「ソリオと競合することはほとんどない」との話を聞いている。

ソリオとルーミー&タンクのニーズの違いとは

 その理由には、まず両車の登場の背景の違いが大きいことが挙げられる。前述したように、ソリオの源流はワゴンRの登録車版であるワゴンRワイドとなっている。つまり、「ワゴンRもいいけど、このコンセプトで登録車版があればなあ」というユーザーに向けたものと考えられる。オリジナルモデルとなって以降も、“軽自動車より少し大きいMPV(多目的車)が欲しい”というニーズをメインに売れていたと考えられる。

 一方で、ルーミーやタンクは、子育てをしていたときに「ノア」などのミニバンに乗っていたが、子どもたちも大きくなり独立したので、所有車のダウンサイズをしたいというニーズへ向けた販売促進での存在感が大きいという話を、以前に販売現場で聞いたことがある。

 もともとスズキは軽自動車販売にも熱心であり、所有車の“アップサイズ”を希望する軽自動車ユーザーの受け皿的存在も強いのがソリオであり、ノアなどミニバンからのダウンサイズを希望するユーザーの受け皿がルーミー系というラインナップになっている。そのため、ユーザー層が被らないのではないかと判断できる。

 軽自動車ユーザーにとってスズキやダイハツの存在は大きいものだが、トヨタや日産、ホンダユーザーからは“軽自動車のメーカー”という認識を持たれる傾向が、いまだに目立つ。

 たとえば、筆者はたまに「おすすめのコンパクトカーってどれ?」みたいなことを聞かれる。そこで、トヨタ「ヤリス」、日産「ノート」、ホンダ「フィット」、マツダ「デミオ」あたりの車名を出しながら「スズキ・スイフトはなかなかいいですよ」と伝えると、「スイフト?」という反応をされることがある。あくまで主観的な部分なのだろうが、“スズキ=軽自動車”というイメージが強い人には、やはりスズキの登録車は一瞬考えてしまう部分があるようだ。

 アメリカ大統領選挙では“分断”という言葉が報道でよく使われていたが、新車購入の世界にも、“分断”という表現まではいかないものの、登録車を乗り続ける人と軽自動車を乗り続ける人の間には、ある種“見えない壁”のようなものが存在するといってもいいだろう。そのため、軽自動車に興味があってもスズキやダイハツの軽自動車をなかなか現実的な選択肢として受け入れられない人も目立つので、その両社には及ばないものの、ホンダや日産の軽自動車がそこそこの販売実績をあげることができるのである。

 ちなみに、トヨタでも軽自動車の「ピクシス」シリーズ(ダイハツのOEM)をラインナップし、ピクシスと被らないダイハツ軽自動車の委託販売も行っている。しかし、これはあくまでトヨタ車ユーザーにセカンドカーなどで軽自動車が欲しいといわれたときに、他メーカーおよび他グループに流れるのを防ぐためのラインナップであり、積極的に販売するつもりはない。

「ルーミーが多いからルーミーに」という傾向も

 何が言いたいかというと、テレビCMなどでソリオの存在は認知し、「こんなクルマいいなあ」と考えていても、そこから先になかなか進めなかった人が、ルーミー&タンクが出ると「トヨタから出た!」ということで、たちまち現実的な選択肢となってしまう。新車販売の世界では、そういうこともあるのは事実。

 また、国内販売で50%近い販売シェアを持っていることがトヨタの圧倒的な信頼感につながっているのも、事実なのである。さらに、スズキより明らかに密なディーラーネットワークと強力な販売力により、ルーミー&タンクの存在感が急上昇してしまう。

 今はデビューしたばかりなので、ソリオのテレビCMは積極的にオンエアされているが、これが落ち着いてきたとしても、ルーミーのテレビCMなどはごくたまに見かけるぐらいなので、決してソリオより強力な宣伝活動をしているわけではない。ただ、ルーミー系のユーザーには現役子育て世代も多いだけに、“口コミ”での広がりはハンパではないはずだ。

「大昔には、新車購入では隣近所と被らないクルマにしようと考えたりしたものですが、最近は現役子育て世代を中心に、隣近所やママ友ネットワークなどのコミュニケーションサークル内で、あえて同じモデルに乗る傾向があるそうです。そのため“ルーミーが多いからソリオにする”ではなく、“ルーミーが多いからルーミーにする”というパターンの方が目立つと、販売現場で聞いたことがあります」とは事情通。

 グループのオピニオンリーダーが乗っているクルマに、他の人が“右へならえ”となる傾向があるということだ。これは、軽自動車でより目立つとのことである。

 また、トヨタとスズキの最大の違いに業販比率の問題があるのだが、これについては次回に詳述したい。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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