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テレビの次世代規格開発の新組織、トップにトヨタ相談役の怪…また日本ガラパゴス化の懸念

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post_2230.jpg無駄に変わる?(「足成」より)
 テレビの次世代ハイビジョン規格の開発や普及を担う新組織のトップに、トヨタ自動車の渡辺捷昭相談役(71)が就任した。なぜだ?

 新規格の推進組織「次世代放送推進フォーラム」(NexTV-F、以下フォーラムと略)は5月2日に総会を開き正式に発足した。現行ハイビジョンの4倍の解像度を持つ4K、16倍の8Kと呼ぶ2つの規格の開発に取り組む。

 フォーラムはNHK、スカパーJSAT、NTT、ソニーの4社が発起人となり、TBS、テレビ朝日、フジテレビジョン、日本テレビ放送網、テレビ東京の在京キー局5社のほか、WOWWOW、KDDI、NEC、パナソニック、東芝や商社、広告代理店など21社が参加した。全社から理事を出すフラットの態勢で名誉会長にトヨタ自動車の渡辺捷昭相談役が、理事長に総務省の「放送サービスの高度化に関する検討会」で座長の須藤修・東京大学大学院教授が就任した。

 総務省による具体的なロードマップ(行程表)はサッカーのワールドカップのある2014年に次世代の4Kの試験放送を開始。16年に次々世代の8Kの実用化試験放送を始め、20年に本放送を実施する計画だ。

 4K、8Kテレビ推進の新組織はアベノミクスの成長戦略の一環として総務省がアイデアを出した。4K放送は韓国が昨年から地上波で試験放送を開始しており、英BSkyや米ディレクトTVも衛星を使った4K放送を計画している。だが、国内では高画質放送をめぐり、足並みが揃っていない。

 ソニーや東芝は韓国勢への対抗策として4Kの早期普及に意欲を見せるのに対して、地上デジタル放送の移行に巨額の投資をしたばかりの民放各社は消極的。技術に絶大な自信をもつNHKは4Kに興味はなく一足飛びに8Kの開発を目指すといった具合だ。

 そこで総務省が音頭を取ってオールジャパンで世界に先駆けて実用化を目指すため、4Kと8Kを推進するフォーラムを立ち上げた。総務省は、このフォーラムに放送免許を与えてテストベッド(試験用送信業務)の運営を任せる。総務省が要求した12年度の補正予算の31億円を活用して試験放送を始める。

 新規格は日本のテレビ産業を復権させる切り札として期待されている。しかし日本独自の規格ではガラパゴス化の懸念がある。

 ガラパゴス諸島の動物のように携帯電話は日本市場で独自の進化を遂げ、世界標準からかけ離れてしまった。だから、日本メーカーの携帯端末は世界市場ではまったく相手にされなかった。

 郵政省(現・総務省)とNTTが、世界標準とまったく異なる携帯電話の独自規格を押し付けたからである。その結果、日本メーカーのケータイは日本市場でしか売れない、ガラパガスゾウガメのような隔絶された固有種になってしまった。

 ガラパゴス化は携帯電話だけにとどまらない。パソコン、デジタルテレビ放送、ポータブルオーディオプレーヤー、コンピュータゲーム、カーナビゲーション、非接触IDカード(読み取り機に接触させる必要のない身分証明カード)、電子マネーなど、日本独自に進化してきた技術が目白押しだ。

 4K、8Kの新規格が、国際標準を獲得できるかが勝負どころだ。日本独自の規格に終われば携帯電話の二の舞となる。

●渡辺トヨタ相談役登板の狙い

 新規格を推進するフォーラムのトップにトヨタ自動車の渡辺捷昭相談役を招いた狙いはどこにあるのか。総務省は経団連副会長を務める渡辺氏をトップに据えることで天下り先作りとの批判をかわすことができ、経済界から幅広い支持を取り付けることができると判断している。一石二鳥だ。

 フォーラムではテレビ局やメーカーが新規格の技術基準を巡って激しく対立するとみられており、渡辺氏に意見調整役を任せるということだろう。

 渡辺氏は、トヨタでは天国と地獄を味わった。トヨタの社長として赫々たる実績をあげた。2008年3月期の連結営業利益は2兆2703億円と過去最高益を更新。世界市場での新車販売台数は897万台となり、王者として君臨してきた米ゼネラル・モーターズ(GM)を抜き世界一に躍り出た。米タイム誌の「最も影響力のある100人」の1人として05年と07年に選出されており、トヨタの輝かしい歴史を築いたトップリーダーと評価されてきた。

 だが、08年秋のリーマン・ショックで暗転。金融危機で車の販売台数が激減、2009年同期の最終損益は58年ぶりとなる4369億円の赤字に転落した。絶叫マシーンさながらの業績の急降下に、“トヨタ・ショック”という言葉まで生まれた。

 その責任を問われ、09年6月に創業家の御曹司、章男氏に社長の椅子を譲り、副会長(現・相談役)に退いた。09年に1000万台超の販売目標を掲げ、身の丈を超えた拡大路線を突き進み、ブレーキを踏むのが遅れたと批判された。渡辺氏は赤字転落のA級戦犯となった。

 創業家の豊田一族との確執の果てに、最後は石もて追われたかたちになった。

 渡辺氏は今年5月末で経団連副会長の任期が切れる。それに伴い、トヨタ自動車相談役の肩書きも外れるだろう。

 社長任期中に史上最高益を達成するなど、実績を残した。その一方で、行き過ぎたコスト削減がリコールや品質問題の引き金となるなど経営的な失策を起こしたことは否定できない事実だ。経営者は結果がすべてである。

 12年、首都高速道路株式会社の取締役会長に就任し、今回、一般社団法人、次世代放送推進フォーラムの名誉会長になったが、過去の功績に見合ったポストとはいい難い。結局、“トヨタの帝王”となった豊田章男社長が渡辺氏の功績を全否定していることが響いているわけだ。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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