本連載前回記事で、スズキの新型「ソリオ」とトヨタ自動車の「ルーミー」「タンク」の販売事情について、詳述した。大ヒットを記録したルーミー系はソリオのニーズを“食った”わけではなく、その裏側にはニーズの違いなどの事情があったわけだ。
また、トヨタとスズキの最大の違いが業販比率である。正規ディーラーでの販売がほとんどのトヨタに対し、スズキでは街なかのモータースや中古車専売店などで新車販売の協力をしている“業販店”での販売比率が高い。
その地域のクルマに関するオピニオンリーダーである業販店が、昔ながらの“人のつながり”でスズキの新車を売りまくっているのである。ダイハツの業販店を兼ねているところも多いようだが、最後はスズキに肩入れする業販店も多いと聞く。スズキの業販店へのケアはかなりのもので、この業販比率の高さがあるからこそ、強大な販売力を持つトヨタがルーミー系を市場投入してきても、ソリオが販売台数を大きく落とさなかったといっても過言ではないだろう。
ヒット車の重要な条件とは
もちろん、両車がガチンコでライバルとなるようなクルマづくりをしていないということも忘れてはならない。また、トヨタとの販売ネットワーク差を考えれば、ソリオは数字以上に“善戦”しているといっても過言ではない。
新車は、単純に“格好いいから”などの魅力だけで売れるものではない。コロナ禍でリモートワークなどが注目されているが、最後は肌感覚を大切にし、信頼関係の中でどれだけ“売り込む”ことができるかが、ヒット車の重要な条件となるのである。
ルーミー&タンクは2020年9月にマイナーチェンジを実施し、このタイミングでタンクを廃止し、ルーミーに一本化した。そして、月販目標台数を1200台増やして8700台とした。一方で、ソリオも2020年11月にフルモデルチェンジを行い、月販目標台数を500台増やして4000台とした。今までもトヨタとスズキは売りまくってきたが、まだまだ“イケる”と考えているように見える。
日本での消費行動の特徴に“ないよりあった方がいい”というものがある。背が低いよりは高い方がいい、リアドアがヒンジよりはスライドの方がいい、といったものである。海外でもこの考えはあるようで、そのようなニーズは海外ではコンパクトクロスオーバーSUVが吸収している。
トヨタでは、ルーミー以外もコンパクトクロスオーバーSUVの「ライズ」が今なお大ヒットを続けているのも、そのような動きのひとつ。「パッソ」より“なんかおもしろそう”という感覚が、ルーミーやライズ、そしてソリオの人気につながっているといってもいいだろう。
“ファーストペンギン”をソリオとすると、二番煎じはルーミーとなる。世の中では“三番煎じ”くらいまでは許されて儲かる、ともいわれているが、ソリオやルーミーのライバル車は出てくるだろうか?
ホンダはディーラーに行って「フィット」を見ていると、どこでも「視界も良くて、室内も広いですよ」と紹介されるので、フィットでソリオやルーミー系までをフォローしているようにも見える。日産自動車は新型「ノート」をe-POWERのみにするなど、少々路線が違うような感じであるし、もともと国内専売(ソリオやルーミー)モデルはラインナップすることが少ないので、これ以上ライバルは増えそうもない。
そのため、トヨタとスズキは、今後もしばらく売りまくることになりそうだ。
(文=小林敦志/フリー編集記者)