国際線の輸送実績でANAがJALを逆転
航空会社の実力を測る指標に、輸送能力を表す「座席キロ」(座席数×飛行距離)と、旅客が搭乗して飛行した距離を示す「旅客キロ」(旅客数×飛行距離)がある。
ANAの国際線の座席キロは4月、国際線定期便の就航以来、初めて単月でJALを上回り、国際線の旅客キロでも、5月に初めてANAがJALを抜いた。
14年4~8月の国際線の輸送実績はANAがJALを激しく追い上げ、座席キロはANAの206億キロに対してJALは199億キロ、売り上げに直結する旅客キロはANAとJALが共に150億キロで並んだ。夏休みの稼ぎ時である8月の旅客キロはANAがJALを上回っており、年間を通すとANAがJALを上回ることは確実だ。
この逆転には政府の意向が大きく関係している。それは3月から羽田空港で増えた国際線の発着枠を国土交通省が配分する際に、ANAに1日11便、JALに5便と露骨な傾斜配分を行ったからだ。こうした動きの背景としては、民主党政権が主導したJAL再建に批判的な自民党の働きかけがあったというのが定説だ。実際、自民党内には「16枠全部をANAに渡すべきだ」との極端な意見もあったという。
政府による「ANA優遇、JAL冷遇」は、そのまま両社の勢いの差として、輸送実績を示す国際線の座席キロと旅客キロに如実に表れたといえる。航空会社の命運を決めるのは、企業努力もさることながら、時の政権との距離であることをまざまざと見せつけた格好だ。「2番手企業の逆転物語」の教材では、政治力学についてどう扱うのかが気になるところだ。
教材に採用された主な日本企業
HBSの教材は、世界規模で集めた企業の経営戦略の中から採用するため、評価が高く、各国の主な経営大学院でよく使われる。登場事例は経営戦略のお手本となり、世界の有力企業の幹部らに影響を与えることもある。
02年に開設されたHBS日本リサーチ・センターが、HBS教官の日本企業研究とケーススタディの作成を支援している。日本企業は02~14年まで74の事例が採用されているが、10年以降は日本企業の低迷を反映してか、採用事例は毎年3~5件にとどまる。
02年以降で教材に取り上げられた主な日本企業は、カルロス・ゴーン社長のリーダーシップの下で再建した日産自動車(02年)、消費者視点のイノベーションを論じたキッコーマン(03年)、90年代の業績低迷から復活した松下電器産業(現パナソニック、05年)、トヨタ自動車のハイブッド車プリウスの誕生(05年)と続いた。
また、ネットベンチャーのライブドア(06年)もケーススタディとして取り上げられたほか、六本木ヒルズ(森ビル、07年)、富士フイルムの第2の創業(06年)、野村ホールディングスによるリーマン・ブラザーズの一部部門買収(09年)、楽天の社内英語公用語化(11年)、オリンパスの粉飾決算(12年)、コマツの中国事業(14年)なども採用されている。
HBSの教授陣が日本企業を視察
今春、HBSの教授陣18人が来日した。これは同校教授全体の1割近くの人数で、これほど多数の教授陣が一斉に来日するのは1世紀以上の歴史がある同校では初めてという。
同校は株主価値の最大化や市場経済の効率化を教え、米国型資本主義の“士官学校”でもあった。卒業生の多くがウォール街で金融界を主導したが、リーマン・ショックで金融バブルがはじけた後は、「富の一極集中と自らの報酬の極大化に邁進した、強欲資本家の供給元」としてHBSは批判された。
そこで方向性に悩んでいたHBSが目を向けたのが日本だ。教授陣が視察した企業を見れば、彼らが何に関心を持っているかがわかる。
「テクノロジーと起業」のテーマでHBSが注目したのは、日本の新たな強みとなっているロボット技術だ。世界初の「ロボットスーツ・HAL」を開発したサイバーダインは山海嘉之筑波大学大学院教授が04年、ロボット工学の研究成果を活用する目的で設立した大学発のベンチャー企業である。
「ウルトラテクノロジスト集団」を自称するチームラボに対する関心も高かった。プログラマーやロボットエンジニア、数学者、ウェブデザイナー、CGアニメーターなど多分野のスペシャリストが集うベンチャー企業で、ウェブにとどまらず、さまざまな製品やサービスをつくり続けている。
日本の医療サービスにも関心を寄せている。患者の視点でサービスを提供し、効率の良い経営を支援する、医療機関の経営コンサルタント会社メディヴァと、予防医学にマーケティングの手法を取り入れ、がん検診の受診率を向上させたキャンサースキャンを訪れた。
HBSの教授陣が現場を視察し、経営者と会った企業が、今後の教材に取り上げられることになるのだ。これら日本企業のビジネスが、世界中の企業に良い影響を与えることを期待しよう。
(文=編集部)