しかし、ANAHDだけにすべての責任があるかのような論調には首をかしげざるを得ない。
誰が責任を問われるべきか
というのは、ANAHDは再建計画の一スポンサー、それもマイナーな出資をするスポンサーにすぎないからだ。むしろ、責任を問われるべき立場にあるのは、再建の主体であるスカイマークや、再建計画全体のアドバイザーであるGCAサヴィアン、そして再建計画の「監督委員」を務める多比羅誠弁護士(ひいらぎ総合法律事務所)といった面々のはずだ。
補足すると、ANAHDは片野坂真哉社長名で4月9日、GCAの高橋元マネージングディレクターらに、再生計画で集めるべき資本を250億円とするほか、別途最大で100億円程度の運転資金の確保が必要とする「スカイマーク株式会社の再生に向けた当社の出資に関するご提案」を提出。今回、第三者割当増資で集めることになった180億円では債権者への弁済として不足する恐れがあることを、早くから主張していた。再建にあたって債権者の同意を取り付けて円滑に計画を軌道に乗せるためには、少しでも多くの資本や運転資金を確保して、債権カット額を減らしたほうがよい。
それにもかかわらず、あえてANAHDの提案より少額の資本金を選択する決定を行った第一の責任は、多比羅監督委員にあると考えるべきだろう。というのは、同氏は再生計画づくりの遅れを理由に、東京地裁のお墨付きを得たとして4月16日に増資額を180億円、出資額をインテグラル50.1%、ANAHDコンソーシアム合計で49.9%とする「多比羅裁定」を下したからだ。専門家の間では、この増資額や出資比率が、スカイマークの破綻時にいち早くDIPファイナンス(再建のためのつなぎ融資)を行ったインテグラルが潤沢な資金を保有していないという事情に配慮しすぎたものだと批判の対象になっている。
加えて、多比羅監督委員が民事再生手続きの期限を最優先したため、出資者は十分な資産査定(デューデリジェンス)の時間を与えられなかった。両社は、翌日までに多比羅裁定を受諾するか否かを迫られたのだ。
民事再生手続きの欠陥
責任という意味では、当事者、責任者でありながら経済合理性や論理的根拠を考慮せず、強引な裁定に唯々諾々と従ったスカイマークとGCAも同罪だろう。さらにいえば、経済や経営の専門家ではない弁護士の多比羅監督委員にお墨付きを与えた東京地裁の判断も、きっちりと問われるべきなのである。
裁判所が、あくまでも法律家であって、経済、経営、ビジネスの専門家ではない弁護士に多くを依存して企業の再生を進めていく現行の民事再生手続きのあり方は、弁護士にその能力を超えた判断を迫ることになりかねないという致命的な欠陥がある。この制度が、創設時に中小企業を対象にしていたため、大規模な監督チーム・組織の設置の余地を残していないことが、こうした状況を招いている。
既得権化したビジネスを失いかねないだけに反発が予想されるが、弁護士たちに依存しすぎる企業の破綻、再生処理の制度は、経済社会に馴染まないはず。早急な見直しが必要である。
(文=町田徹/経済ジャーナリスト)