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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

スタバ、勉強している客を追い出し 「居心地のよさ」追求で回転率低下という深刻な課題

文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授

心地よい経験の提供 vs. 回転率の向上

 また、「勉強していたら、店を出ていくように言われました」という学生の言葉には大変驚かされました。低価格を強く訴求するハンバーガーショップなどのファストフード店ではよく聞く話ですが、スタバでもそのようなことが行われているというのは、にわかに信じがたいことです。

 というのは、スタバが重要視する理念の一つに「サードプレイス(第3の場所)」というものがあります。ファーストプレイスは自宅、セカンドプレイスは職場を意味し、その間にあるサードプレイスで心地よい時間を提供することがスタバのコンセプトであり、こうした考えと真っ向から反対することが実施されているからです。

 いまや世界を代表するカフェといえるスタバですが、日本国内ではスタバを上回る店舗数を誇るドトールと単純にコーヒーの値段を比較すると、スタバはドトールのおよそ1.5倍です。この差を消費者が許容するのは、コーヒー自体の味の違いよりも、上質な机や椅子、ゆとりあるスペースといった店舗の雰囲気のよさにより、いわゆる経験的価値を得ているからでしょう。

 筆者はアメリカのシアトル本社でスタッフにインタビューしたことがあるのですが、彼はスタバの強みに関して、コーヒー以上に“インテリア”や“空間づくり”を強調していました。

 スタバの強みである居心地のよさにより、長居する客が増加して回転率が低下するというのは、なんとも皮肉な話です。筆者はシアトルでスタバをはじめとしてカフェを数多く回りましたが、日本と違ってテイクアウト客の多いことが強く印象に残っています。仮に座席の回転率が悪くとも、店全体の売り上げはある程度の数字が残せるでしょう。また、長居する客の割合や時間が、日本ほどはひどくないとも感じました。

 こうした消費者購買行動の相違は文化に依存する部分も多く、1つの企業の力によってコントロールすることはなかなか難しいと思います。

 サードプレイスというコンセプトは、アメリカでは比較的容易に実現できても、日本においてはスタバ人気が高まれば高まるほど、深刻な課題となってくるのかもしれません。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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