「怪しい仕事をしていますね……」
ある探偵会社の幹部は、パーティーで名刺交換をした相手に、そう揶揄されたという。この相手が探偵業の実態をどこまで知っていたのかは定かでないが、世間一般の見方が反映された発言で、必ずしも偏見とはいえまい。ともかく、最近でも以下のように不祥事続きの業界なのである。
・2011年11月:愛知県警警察官の個人情報不正取得で、横浜市の探偵業者が逮捕
・12年4月:個人情報不正取得で、元東京都調査業協会専務理事が逮捕
・同6月:探偵業者から職歴情報漏洩を請け負ったハローワーク職員が逮捕
・同6月:愛知県警幹部の個人情報不正取得で、広島市の探偵業者が逮捕
半年間でこれだけ逮捕者が相次ぐと、もはや「悪質な業者は一部で、多くの業者はマジメに仕事をしている」などと釈明できない状況になってしまった。
そもそも調査業(探偵業)には、依頼者が取引先の信用状態や経営者の人間性などリスク情報を把握してトラブルを未然に防いだり、債務不履行者の所在を特定して取引を正常化させるなどの役割がある。だが、こうも不祥事が続くと、本来の役割は見過ごされてしまう。
●警察にもクレーム多数
実際、探偵業界は事態を深刻に受け止めている。不祥事が続くさなかの6月27日、探偵業者の団体である東京都調査業協会(以下、協会)は、会員業者を対象に教育研修会を開いた。
以下は、出席した探偵会社幹部の話である。
まず協会役員が、「業界関係者の不祥事が多発して、悪い意味で耳目を集めている。火急的な事態です」と危機感を示した。次に、『探偵業界の現状と課題』と題して講演を行った警視庁生活安全部の担当官は、「探偵業者に関する苦情が警視庁に寄せられない日はありません」と強調した上で、苦情の内容を報告した。
ある探偵業者に調査料を支払ったのに、期日を過ぎてもなかなか調査結果の連絡がこない。電話をしても「やっています」と繰り返すだけで、依頼者は所轄の警察署に相談した。警察が立ち入り調査をしたら、その業者は実態では探偵業を行っていなかったという。
警視庁には、未公開株や先物投資の被害者にダイレクトメールを送って、被害者救済を装い契約を取ろうとする探偵業者に関する苦情も多く、数社の探偵業者が特定されているという。
「2000万円の被害を受けた人に対して、10万円の調査料を提示して安く見せかけた上に、被害者があと3人揃うと取り戻せると話したりもしている。詐欺の二次被害を生んでしまいます」(担当官)
さらに担当官は「犯罪履歴など、正当な手段で入手できない情報の依頼は断るべきです。警察は、悪質な業者は放置しません」と厳しい口調で語ったという。
探偵業者が違法行為に手を染めているかどうかは、利用者からの苦情をきっかけに発覚するだけではない。警察が利用者を装って探偵業者に電話を入れ、個人情報の取得を依頼して、応ずるか断るかで業者の法令遵守を判断する場合もあるという。
ある探偵業者は「どんな罠が仕掛けられているかわからないので、飛び込みの案件は受けていません。受けるのは紹介のみにしています」と打ち明ける。調査依頼を受ける業者もまた疑心暗鬼になるという、なんとも不健全な状態にある業界なのである。
警察庁の調査によると、探偵業者に対する営業廃止命令は11年に6件、営業停止命令は5件。前年比はそれぞれ5件増、2件増となっている。今年は共に2ケタに上るのではないかとの見方を、前出の担当官は示している。