PepperとASIMOの違いは何か――。この問いに、果たしてあなたはどのくらいの違いをリストアップできるだろうか。1分間で10個以上の違いを挙げられたとしたら、あなたは日ごろの情報収集力に自信を持っていいと思う。3つくらいで行き詰まってしまった人は、なぜ行き詰まったのか、理由を分析してみよう。
さらに、もうひとつ質問したい。「歩行アシスト」と「歩行練習アシスト」の違いは何か――。
PepperとASIMOの違い
まず、PepperとASIMOについてみていこう。いずれもロボットであることに違いはないが、両者にはいくつかの相違点がある。Pepperはソフトバンクという通信会社が発売したもので、ASIMOは本田技研工業(ホンダ)という自動車会社が開発したものだ。ASIMOは長年にわたって2足歩行という難しい技術にチャレンジしてきた。それに対して、Pepperは2足歩行を当初からあきらめている。
ホンダは自動車会社であるから、その得意分野はメカトロニクスであろう。ロボット研究、特にヒト型ロボットを得意とする日本においては、人間のように歩くことがロボット技術の中心課題であり、それこそホンダの強みを生かせる分野でもあった。ASIMOの開発はホンダ自身で行っており、販売するとしたら、おそらく生産も自社工場となろう。
一方、ソフトバンクは通信会社で、ロボットとは無縁のようにみえる。その通信会社がPepperを、それも20万円を切る価格で本体を販売し始めたことに誰もが驚いたであろう。発表によると、フランスのロボット会社を買収して開発し、生産は台湾の鴻海精密工業で行っているという。自前主義のホンダに対して、ソフトバンクは外部の力を活用したわけだ。
Pepperの特徴は、人とのコミュニケーションにある。そこには音声認識、構文解析、音声合成など、通信業界で長年にわたって蓄積されてきた技術が詰まっている。それに今回、「感情エンジン」なるものを導入した。その基本になっているのが、東京大学大学院医学系研究科特任講師の光吉俊二氏が体系化した「感情マップ」理論だ。いわば、Pepperに感情という魂を吹き込んだのだ。
そのPepperは、タブレットを胸に掲げ、人間とネットワークをつなぐ。そのアプリ開発も公開するなど、Pepperは通信会社の得意分野を生かしたロボットといえる。
歩行アシストと歩行練習アシスト
ASIMOが商品化される気配は今のところないが、今秋ホンダはリハビリ支援ロボットを発売する。医療分野において、身体に装着して使用するロボットでは、サイバーダインの「ロボットスーツHAL」や東京理科大学の「マッスルスーツ」などが知られている。
ホンダの「歩行アシスト」は、ASIMOで培った技術の一部を活用したものだ。1999年に歩行アシストロボットに関する研究を開始し、商品化まで実に16年間という期間を要している。「日経ビジネス」(日経BP社)の記事によると、初期の試作機は電池内蔵型で重さが32キロあり、とてもリハビリ患者が装着して使えるものではなかったらしい。全国50の医療施設などで試験利用しながら改善を繰り返し、ついに商品化にこぎつけたようだ。そこで生かされているのが、ASIMOで培った「倒立振子モデル」という歩行理論だ。リハビリ患者にとって、歩行アシストが福音となることを願っている。
事業化とは「言葉の開発」でもある
欲をいえば、そのネーミングにもう少し工夫があってもよいのではなかろうか。歩行アシストは、あまりにも一般名詞そのままのようにも思える。もちろん、機能がわかりやすいというメリットはある。しかし、似たような名称があると区別がつきにくい。たとえば、「歩行練習アシスト」だ。これはトヨタ自動車のリハビリ用ロボットの名称だ。こうなると紛らわしい。たかが名前、されど名前なのである。
事業化とは、自社の得意分野を生かして商品やサービスを提供し、世の中の問題を解決することにほかならない。したがって、製品やサービス、あるいはそれを支える技術開発にリソースを集中する。それは当たり前である。しかし、せっかく良い製品を世に出しても、それが知られなければ顧客を創造できない。事業化では、製品やサービスだけでなく、言葉を開発することも同じくらい重要なのだと思う。
(文=宮永博史/東京理科大学大学院MOT<技術経営専攻>教授)
参考資料
1.『未来テック ロボットが機能回復を支援』日経ビジネス(日経BP社/9月14日号)