日本人にとって“高級外車”といえば、メルセデス・ベンツやBMWなどに代表されるドイツ車を想像する人も多いだろう。だが近年、スウェーデンの自動車メーカーであるボルボ・カーズが好調だ。
2018年の世界年間売上は前年比12.4%増の約64万台となっており、5年連続で売上を伸ばし、同年の国内市場でも22年ぶりに年間2万台を突破。外国メーカーモデル別の同年度(18年4月~19年3月)国内新車登録台数順位を見ても、BMWやフォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツらがトップ10にひしめくランキングにおいて、ドイツ車勢以外で唯一ボルボ40シリーズが6位にランクインしている。
このように、ボルボの躍進が目立つ近年の自動車市場だが、その理由はいったいなんなのか。輸入中古車評論家でありモータージャーナリストの伊達軍曹氏に聞いた。
ボルボのブランドイメージを変えた3人のデザイナー
伊達氏はまず、デザイン性の革新が最も大きな要因だと分析する。
「ボルボはもともと牧歌的といいますか、あまり先進的ではないデザインが特徴でした。しかし、12年頃にトーマス・インゲンラート氏がボルボグループ・デザイン担当副社長に就任し、ロビン・ペイジ、マクシミリアン・ミッソーニというデザイン責任者とともに新体制を確立。これによりボルボのカーデザインはスタイリッシュとなり、ブランドイメージが一新されたのです」(伊達氏)
ボルボ・カーズはボルボグループの乗用車部門が1999年にフォードに買収されたことから誕生したが、このフォード時代のカーデザインは特筆すべきところはない、というのが多くの車好きの意見だという。
その後、フォード傘下を抜けて、V40が発売されると日本におけるボルボ人気が過熱。そして伊達氏の言う3人のデザイナーが結集して生み出された、大型SUVのXC90が世界的に話題に。後年発売された同じくSUVのXC60が北米カー・オブ・ザ・イヤーに、XC40が欧州カー・オブ・ザ・イヤーを獲得。このXC40とXC60は日本カー・オブ・ザ・イヤーをボルボ車として2年連続で受賞するなど、国内外で非常に高く評価されたのである。
一方、ボルボといえば、1927年の創業当時から安全面への追及を基本理念に掲げており、現代でもそのスペックはトップクラス。
「安全志向がより強くなった現代人にとっては、『ボルボ車なら安心』という気持ちに拍車をかけています」(同)
北欧的センスが定着すればさらなる飛躍もありえる
もうひとつ、ボルボが打ち出した大きな方針変換として、ターゲット層のシフトがあると伊達氏は続ける。
「ボルボを購入するのは比較的富裕層ですが、メーカーイメージとしては、少し前までは“プレミアム”というよりは、“準プレミアム”という印象が強かった。ですが、デザインを変えたくらいのタイミングで、明確にプレミアムを意識し始めました。当然、ロールスロイスなどの“超プレミアム”なメーカーにはかないませんが、ベンツやBMWなどといった一般的なハイブランドと変わらない製品づくり、ブランドづくりを目指し、それを消費者に提示できたのが功を奏したのでしょう」(同)
現代のマーケティングはより大衆に寄せるか、もしくはプレミアムに振り切るか、そのどちらかでないと広く受け入れられないといった二極化が進んでいる。それまでは中途半端な立ち位置だったボルボが、思い切って高級路線へと舵を切ったことが勝因といえるようだ。
「国内でも、2014年からボルボ・カー・ジャパンの社長となった木村隆之氏が、ブランド価値について全社に徹底させています。たとえばディーラーへの対応。直営ではなく地場資本で運営しているディーラーは、売り方についてメーカーがコントロールできない部分があるのですが、木村氏はボルボのイメージを守ることをディーラーにも徹底させて、それを守れないディーラーは契約を解除するといった方針を取っています。そのくらいしないとブランド価値はブレて統一できないということでもありますね。
ただし、プレミアム感を出しつつも、ベンツなどに比べるとボルボ車は若干安い。そのため、高級だけどがんばれば現実的に手が届くという感覚も庶民にとっては大きいのです。私もよく街中でXC60が走っているのを見かけますし、確実に“外車”のなかでポジションを確立しつつあると思います」(同)
“高級外車”といえばドイツ車――日本人のこのイメージを、ボルボは今後変えていくことはできるのだろうか。
「車に限らず、デザインがスタイリッシュな北欧家具を始め、北欧のものが日本では人気を集めています。ボルボはスウェーデンのメーカーで、デザインコンセプトの『スカンジナビアンデザイン』が受け入れられているのもその例のひとつ。ですから、ボルボがもっともっと世間的な知名度を上げていくポテンシャルはあるでしょう」(同)
国内外でブランドイメージを一新して生まれ変わったボルボが、現在の外車販売の台風の目になっている模様。この快進撃はどこまで続くのか、今後のボルボに注目だ。
(取材・文=A4studio)