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工藤貴宏「幸せになるためのクルマ選び」

トヨタ「スープラ」発売直後に納車半年待ちに…“儲からない”スポーツカーをつくり続ける理由

文=工藤貴宏/モータージャーナリスト
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トヨタの「スープラ」(「トヨタ スープラ | トヨタ自動車WEBサイト」より)

 17年ぶりに復活して話題になっているトヨタ自動車スープラ」。発売するや否や「仕様によっては2019年分が完売」「納車は半年以上先」などと話題になっている。しかし、それは爆発的に注文が集中したからではなく、そもそもの生産台数が少ないことにも起因する。トヨタは年間の日本割り当て台数を公表していないが、19年分は500台程度とも噂されている。驚くほど少ないのである。

 実は今、スポーツカーは冬の時代を迎えている。理由のひとつが、かつてと違ってスポーツカー市場が縮小していることだ。それは欧州のプレミアムブランドも同様で、たとえばメルセデス・ベンツはオープンスポーツカーである「SLC」の次期モデルを発売する予定がないし、アウディは「TT」に関して「次期型はない」と株主総会で同社の役員がコメントしている。いずれも理由は、販売台数が多く見込めないからである。

 もうひとつの理由は、欧州を中心に年々厳しくなる環境規制である。欧州では21年から「各自動車メーカー平均で走行1kmあたりのCO2(二酸化炭素)排出量を95g以下にしなければならない」という燃費規制がスタート。CAFE(企業別平均燃費基準方式)と呼ばれる方式である。

 これはガソリン車の燃費でいえば24.4km/Lに相当し、達成するのは「ほぼ困難」というくらい極めて厳しい数値だが、達成できなければ莫大な罰金を払う必要が生じる。そのため今、自動車メーカーは燃費向上に対して神経をすり減らし、開発に膨大なコストをつぎ込んでいる。

 もちろんスポーツカーも計算に含まれるので、今後のスポーツカーは「爽快感あふれる気持ちよさ」よりも「燃費の優れるエンジン」へと牙を抜かれる、もしくはハイブリッドの搭載が必須となる可能性も高い。

 さらには、「車外騒音規制」として、通過時にエンジンやタイヤから発生する音を一定以上に抑えなければならない規制の強化も予定されている。高出力エンジンはもちろん、スポーツカーに欠かせないハイグリップタイヤは一般的に発生する音が大きいので、スポーツカーにとっては頭の痛い問題だ。

 それらの規制強化は開発費用の増加に直結する。かつてのような販売台数が見込めない上に開発費用が高騰するため、スポーツカーは「儲からないクルマ」となったのだ。“お荷物”になり得る、それらスポーツカーのラインナップをやめるのは、自動車メーカーとしては利益追求のための正しい経営判断だろう。だから、メルセデス・ベンツやアウディは一部のスポーツカーを廃止する方向へ舵を切ったのである。

 一方でトヨタは、そんな状況においてもスポーツカーをつくり続ける決意を固めた。そこにはどんな意味があるというのか?

スポーツカーをつくり続けるトヨタの狙い

 大きな理由は、クルマをつくる技術力を高めることにある。かつて戦争が航空技術やコンピュータ技術を進化させたように、極限の世界で争う自動車レースやラリーのクルマづくりは、多くの経験とノウハウを生み出す。それが蓄積され、直接的ではないとしても市販車の質を高めることになるのだ。

工藤貴宏/モータージャーナリスト

工藤貴宏/モータージャーナリスト

1976年長野県生まれ。自動車雑誌編集部や編集プロダクションを経てフリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに執筆中。心掛けているのは「そのクルマは誰を幸せにするのか?」だ。
執筆媒体はモーターファン別冊新車速報シリーズ(使い勝手チェック及びバイヤーズガイド担当)、ガルヴィ(新車紹介記事担当)、カーグッズマガジン、RESPONSE、&GP、goo-net.com、gazoo.com、くるまのニュース、clicccarなど。国産車を中心に新車から中古車まで幅広く原稿を手掛ける。
本当はスポーツカーが好きだけど、ミニバンや軽自動車も得意。
現在の愛車は10年乗ったポルシェ・ボクスターSから乗り換えたルノー・ルーテシアR.S.とマツダ・プレマシー。

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