今年も、日本中が相次ぐ日本人のノーベル賞に沸いた。先週、微生物の力を使った熱帯病治療薬の開発に寄与した大村智・北里大学特別栄誉教授が「生理学・医学賞」、素粒子ニュートリノに質量があることを初めて実証した梶田隆章・東京大学宇宙線研究所所長が「物理学賞」の栄冠に輝いたのだ。
2人受賞の快挙は、2014年の赤崎勇氏ら物理学賞の3人受賞に続くもの。これで2000年以降の日本人のノーベル賞受賞者数は16人(米国籍を取得した南部陽一郎、中村修二の両氏を含む)となり、米国に次ぐ受賞大国となった。自然科学分野の3賞に限れば、1901年の同賞創設からの累計でも、米、英、独、仏に次ぐ世界5位に躍り出た。
原動力は、バブル経済が華やかだった80年代に、潤沢な資金に後押しされて、画期的な基礎研究を成し遂げた日本人研究者が多かったことだ。往々にして、研究に対する評価が世界的に定着するまでにはタイムラグがあるので、2000年以降に受賞者が急増したとされる。
だが、手放しで喜んではいられない。受賞ラッシュはあと5年か10年ぐらいしか続かないとの悲観的な見方があるからだ。過去の栄光とは裏腹に、日本の研究開発能力は近年、急速に弱体化しているという。
大村氏の異色の経歴
「微生物の力を借りて、仕事をしてきた。私がこの賞をもらっていいのかなという感じだ」――。新聞報道によると、ノーベル生理・医学賞の受賞が決まった大村氏は5日、北里大学で記者会見に臨み、ユーモアたっぷりにこう語った。
北里大学発表の経歴をみると、大村氏は70年代、静岡県内の土壌に生息する細菌がつくり出すさまざまな物質の中に、有益な抗生物質が含まれていることを発見。米製薬大手のメルク社と共同で、家畜用の抗寄生虫薬イベルメクチンを開発した。イベルメクチンは世界の食糧増産に道を開いた。
その後、イベルメクチンは、寄生虫が引き起こす人間の感染症にも高い効果を持つことが判明。ヒト用製剤のメクチザンが、オンコセルカ症(河川盲目症)やリンパ系フィラリア症の感染予防だけでなく、治療薬としても使われるようになった。世界保健機関(WHO)はメルクと北里研究所から無償供与を受けて、80年代後半から同薬の途上国での配布を始めた。毎年3億人が服用しており、多くの人々が失明の危機から救われたという。
大村氏の業績は、イベルメクチンの開発だけではない。85年に世界で最初の遺伝子操作による新しい抗生物質の創製に成功したほか、500種に及ぶ天然有機化合物を発見した。