キリンとの統合破綻も影を落とす?サントリー有力子会社上場のウラ
世界第5位の総合食品・酒類カンパニーになるはずだった統合後の新会社で、寿不動産に3分の1以上の株式を持たせるかどうかをめぐって両社は対立した。3分の1以上の株式を保有すれば、株主総会において重要事項に対する拒否権を持つことになり、実質的に経営を支配できる。統合後の新会社は、寿不動産の株式を保有するサントリーの創業家一族がオーナーになる。そのため、寿不動産の扱いで交渉が決裂したのである。キリンは三菱グループを代表する企業である。三菱グループの「金曜会」の長老たちが、「鳥井・佐治一族にキリンを売り渡していいのか」と猛反対したと伝えられている。
寿不動産は1956年の設立。資本金は1億2200万円。社名はサントリーの旧社名である壽屋に由来する。賃貸マンションを経営しているが、実態はサントリーHDの持ち株会社である。創業者の子孫である鳥井・佐治家の人々が寿不動産の株式を所有することで、巨大なサントリーグループの全体を支配するという二重構造になっている。
株式は非公開で、株主は佐治信忠氏(サントリーHD会長兼社長)が4.97%を保有するなど、鳥井・佐治一族の18人が株主に名を連ねている。10年10月に、筆頭株主で、“ゴットマザー”と呼ばれた鳥井春子氏が99歳で亡くなり、株主の異動があった。
春子氏は阪急グループの創始者、小林一三氏の次女。サントリーの創業者、鳥井信治郎氏の長男・吉太郎氏に嫁いだ。世代交代が進むなか、春子氏は本家の鳥井家と分家の佐治家をつなぐ鎹(かすがい)のような存在だった。
一族にとって頭痛の種は、春子氏が持っていた株式をどうやって相続するかだった。誰が相続するにせよ、莫大な相続税を払う必要が生じる。相続税を支払うために一族が保有している寿不動産の株式の売却に追い込まれかねない。持ち株を売れば、鳥井・佐治家によるサントリーの実効支配のバランスが崩れる可能性だってあった。
莫大な相続税を払わないで済む妙案はあるのか。それがあった。公益財団法人への寄付である。公益財団法人は08年12月に施行された「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」に基づいて設立された法人である。
最大のメリットは、個人が相続財産を公益財団法人に寄付した場合、寄付した財産には課税されない。
寿不動産の株主にはサントリー文化財団、サントリー音楽財団、サントリー生物有機科学研究所の3財団法人が名を連ねていた。この3つを、いずれも公益財団法人に衣替えし、春子氏が保有していた寿不動産の株式などの相続財産は、公益財団法人に寄付された。
その結果、寿不動産の株主は、公益財団法人サントリー芸術財団が13.81%を保有する筆頭株主になった。もちろん同音楽財団が、公益財団法人に移行したものだ。公益財団法人になったサントリー文化財団が9.21%で第2位。生物有機科学研究所が変身したサントリー生命科学財団は寿不動産の大株主から消え、サントリーHDの株式を0.52%保有する第8位の株主として登場した。
サントリー創業一族は公益財団法人に相続財産を寄付することで、一族の財産が外部へ流出するのを防いだ。