この状況下、日本の電機業界は素材・部品から完成品までを一貫して生産することにこだわった。結果的に、日本企業は価格競争などに対応することが難しくなり、世界の半導体やテレビ市場におけるシェアを失った。
この反省に立って、2012年、ソニー・東芝・日立のディスプレイ事業を統合してJDIは発足した。ただ、JDIの業績は悪化続きだ。バブル崩壊後に日本企業が陥ったリスク回避の後遺症は大きく、JDIは成長への取り組みを進めることが難しかった。
単純な“組み立て業”になってしまったJDI
JDIとは対照的に、近年、日本企業のなかには、高機能の素材やパーツなどの分野で競争力を発揮してきたケースもある。そのよい例がソニーだ。JDIにディスプレイ事業を譲渡したソニーは、自社の強みを生かし、より高い成長が期待できる分野に“ヒト・モノ・カネ”の経営資源を再配分した。この取り組みを基礎に、ソニーはスマートフォンのカメラに搭載されるCMOSイメージセンサーでシェアを高め、経営を立て直した。
同社の経営陣の発言からは、技術力を磨き、高めることで従来にはないモノを生み出すことが成長には欠かせないという強い意思が感じられる。ソニーが半導体事業の分離を求める株主提案を拒否したのも、経営陣がモノづくりを重視しているからだ。
これに対してJDIは新しいモノを生み出すという意味での製造業よりも、既存のプロダクトの組み立てとしての生産活動に終始してしまったように見える。
事業開始以降、JDIは、アップルの求めるプロダクトの生産を優先してきた。その発想は目先の収益獲得には重要だった。アップルは、韓国や台湾勢などからもディスプレイを調達してきた。韓国・台湾勢は日本などから素材や部材を仕入れ、それを組み立て、アップルにディスプレイを納入している。
生産技術が確立した分野で日本企業が新興国などの企業と競争するのは、コスト面を中心に不利な点が多い。JDIが価格競争から距離をおき、経営基盤の強化を目指すためには、海外にはないモノの創造が重視されるべきだった。次世代のディスプレイ技術として注目を集める量子ドットの研究・開発などはより大胆に進められてよかった。