日本企業が持続的な成長を目指すためには、無から有を生み出すという意味での取り組みが大切だ。そのためには、研究開発への情熱を持った人材が経営に参画し、組織をまとめ、社員のやる気を引き出していくことが欠かせない。そうした取り組みが、イノベーションの発揮を支え、より付加価値の高いテクノロジーやモノの創造を可能にするはずだ。
不透明な官民ファンド傘下での再建
このように考えると、官民ファンドであるINCJの下でJDIが発足した本来の狙いがよくわかるだろう。それは、日本のディスプレイ分野における英知を結集し、他国にはまねできない新しいモノを生み出すことだった、といえる。
現時点で官民ファンドの役割を評価すると、成果は上げられていない。当初、積極的な姿勢を示してきた嘉実基金管理グループがJDI支援から離脱を決めたことを見ると、同社の実情はかなり厳しいといわざるを得ない。
現在、JDIにとってINCJからの資金供給は、生命維持装置というべき役割を果たしている。今後、筆頭株主であるINCJの責任はさらに増していくだろう。INCJは、大局的かつ長期的な視点から世界経済の変化を見据え、JDIの強みが発揮できる分野に経営資源の再配分を迅速・大胆に進めることができる経営者人材を確保しなければならない。これまで十分な改革を主導できなかった官民ファンドがその役割を果たせるか、かなり不透明だ。
JDIの再建は、時間との戦いと化している。すでに主力の白山工場の操業停止が長引いている。言い換えれば、同社が事業そのものを続けることが難しくなっているということだ。財務内容は悪化傾向となるだろう。状況によっては、より大規模なリストラが不可避となる恐れがある。現経営陣は、この負の循環を止めることができていない。
すでに世界のスマートフォン市場では、先進国を中心にシェアを高めてきたアップルの販売鈍化が顕著だ。世界経済を支えてきた米国の景気後退懸念に加え、GAFAをはじめとする米IT先端企業の成長期待にも陰りが見られる。
世界経済の減速が鮮明になれば、JDIの経営にさらなる下押し圧力がかかることは避けられないだろう。JDIがどのように経営の悪化を食い止め、成長に向けた新しい取り組みを進めることができるか、先行き不透明感は一段と高まっている。
わが国企業は守りを固めつつ、JDIの教訓を生かさなければならない。重要なことは、自らの強みをしっかりと把握し、従来にはないテクノロジーやモノの創出に取り組むということだろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)