そうした実態を受け、働き方関連法の施行で労働者代表の選出方法も厳格化されました。同法では、年5日の時季指定による有休休暇の取得も義務化されています。
例えば、労働基準法施行規則第6条の2第1項で『過半数代表労働者の選出要件』には、『管理監督者ではないこと』などが明記されています。具体的には、管理職を除く一般社員を選出の対象にすること、そして協定の対象になる社員にどのような協定なのか、あるいは意見を求めるなどの内容をしっかり説明したうえで、投票もしくは集会で挙手などによる民主的手続きを踏まないといけないことになっています。
代表を申し出る社員がいない場合は、社員の間で誰かを推薦し、推薦した人を信任投票することもできます。経営者が推薦することはもちろんダメです。こうした手続きを踏まないで労基署に届けた就業規則、協定類は無効となり、法的効果を持ちません。
今回のドトールのケースでは従来の休日数を削減したものになっており、労働条件の不利益変更の疑いがあります。厚生労働省も、今回の法改正を契機に法定休日ではない祝日などの所定休日を有給休暇に振り替えるような手法は『実質的に年次有給休暇の取得につながっておらず、望ましくない』という通達をあえて出しています。
仮に協定が正当な手続きを経たものであるとしても、裁判で『就業規則の改定が労働者に不利益をもたらすもの』だとして訴えることも可能です。就業規則の不利益変更が合理的であること求めている労働契約法10条に違反している可能性があるからです。
ドトールの就業規則、協定の変更が、従業員に自ら有休をとらざるをえない状況にして、年5日の有休取得義務化を回避しようという目的であれば、就業規則、協定の変更は無効だという判決が下される可能性もあります。
今回労基法の取得義務化の改正は、労働者の休みを増やそうという趣旨であり、もし会社がそれに逆行する行為をとれば、脱法行為といわざるをえません。
したがって、ドトールの問題は労働者代表選出手続きがちゃんと行われていたのかが重要です。もし無効であれば年間119日に減らした協定は無効になります。仮に正当な手続きを経ていても、裁判所に提訴すれば無効になる可能性もあると思います」
労組がない企業の不利益変更増加が懸念
最近では、ドトールと同様に労組のない会社も増加している。労組があっても社員が加入しないケースも目立つ。非正規雇用の労働者も多いなか、今後も各社で同様のトラブルが頻発するケースも考えられる。
溝上氏はそれに関しても次のように指摘する。
「労組がないことを逆手にとって、経営者が恣意的に法的な手続きを踏む可能性があります。とくに今回の働き方改革関連法は労働者代表との協議事項がたくさんあります。法律を逆手にとって、会社に都合の良い仕組みにするなど脱法的行為の多発が懸念されます。
有休休暇の年5日の時季指定による取得義務化は正社員だけではなく、パートなど非正規社員にも適用されます。一定の労働日数があれば、アルバイトにも有休を付与しないといけません。知人の社会保険労務士は、ある経営者から『月水金勤務のパートにも今回の法改正で年5日有休を取得させないといけないが、出勤日ではない木曜日を有休扱いにしてもいいか』と相談を受けたそうです。
その社労士は『それでは本人が有休を取ったことにならないし、違法だ』と指摘したそうですが、『もしかしたらその経営者はやってしまうかもしれない』と言っていました。
この20年間、労組がないことをいいことに経営者が長時間労働を強いたり、アルバイトにも有休はあるのに、知らないことをいいことに『ない』と言ったり、法を無視した行為を繰り返してきました。長時間労働の上限規制や有休の付与、非正規との同一労働同一賃金の法制化は労働者の処遇の改善を目指したものですが、社員が逆らえないことをいいことに、逆に悪用するケースが多発する危険があります」
働き方改革の趣旨や理念は多くの人が賛成している。問題はその場しのぎの対策を図る会社経営のあり方なのだろう。制度をうまく活用して、的確な人員配置や仕事量の配分などを工夫し利益を上げている企業もたくさんある。小手先だけの労務対策では、深刻化する人口減少社会で人員を確保して生き抜くことは難しい。知恵を絞って経営全体を見直さなければ、今回のドトールのように外部から厳しい指摘を受け、企業のブランディングに大きな支障が出ることもあるだろう。
(文=編集部)