残念ながら統計データが揃っていないため推測を交えるかたちになりますが、消費増税以降の景気悪化は「人災」だと筆者は考えています。7月下旬に公表されたIMF(国際通貨基金)の「世界経済見通し」によれば、わが国の経済成長率は2019年が0.9%、2020年が0.4%と予測されています。4月に公表されたデータより、共に0.1%下方修正されました。IMFは年後半から来年にかけ世界の景気は回復していく(現状では後ずれの可能性も出始めている)と予測していますが、わが国は蚊帳の外となる可能性が高いようです。
蚊帳の外になる要因ですが、「米中貿易摩擦の影響」が大きいのでは? と思われるかもしれませんが、その「外需」より「内需」のほうに問題ありといえ、とりわけ「消費」の低迷が長期化すると考えられるのです。
その要因の1つが「働き方改革」です。筆者は昨年から「働き方改革と同時に抜本的な賃金改革を行う必要あり」と述べていますが、賃金改革が行われず働き方改革による「残業時間の規制」が始まってしまったからです。子細な賃金データはこのコラムを書いている時点では公表されていませんが、残業時間規制により手取額が数万円減少したケースが多々あるようです。
筆者は情報サイト「オールアバウト」で「マネープランクリニック」を担当しているのですが、残業時間規制により収入が減ったという相談がすでに2件ありました。残業規制により収入減となっているところに、今夏のボーナスは昨年の支給額より伸び率は低かった模様です(最終集計は執筆時点では公表されていません)。収入が減少しているところに、10月には消費税が10%に引き上げられるのです。ボーナスの減少は外需要因があるかもしれませんが、残業時間規制、消費増税は法律により決まったものです。ゆえに「人災」だと声を大にしていいたいわけです。
わが国の国内総生産(GDP)の6割弱は個人消費が占めているのですから、収入減に増税となれば、個人消費が低迷するのは目に見えています。ポイント還元などの策を講じていますが、消費減の影響を多少食い止める程度とにらんでいるうえ、軽減税率適用があることも消費の現場を混乱させることでしょう。
前回の消費増税時には内需の低迷を外需で補いましたが、世界経済の成長が鈍化気味であるうえ、たとえば米国への輸出増はトランプ大統領が許すはずがありません。つまり、内需の低迷を外需で補うのは事実上不可能であるといえるのです。安倍晋三首相は消費増税後に景気が落ち込めば対策を打つと述べていますが、落ち込む前に手を打たなければ、往々にして予算などを大規模にしないと回復は難しくなるのは、歴史が証明しています。少々気が早いですが、令和初の年末年始は暗い気分で過ごさなければならないかもしれません。消費増税以降の景気後退に要注意なのです。
余談ですが、最大の景気刺激策は消費増税の延期ですが、それはできそうもないので、増税は行うもののサービス等を含む全商品(取引)を軽減税率適用にするという奇策も検討すべきではないでしょうか。
(文=深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー)