今年4月1日に施行された改正労働基準法で、時間外労働の上限時間が「月45時間・年360時間」に規定された。特別な事情がある場合も「年720時間」「休日労働を含め複数月平均80時間以内・単月100時間未満」が上限に設定された。
ところが、適用猶予・除外とされた業務もある。そのひとつが医師で、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」は、地域医療維持の観点から地域医療確保暫定特例水準を設けて、時間外労働時間の上限を「年1860時間」とした。月平均155時間である。過労死ラインは「時間外労働時間が健康障害の発症前1カ月間におおむね100時間」「発症前2カ月間ないし6カ月間にわたって、おおむね月80時間超」と設定されているが、これをはるかに超えている。
さらに検討会は「医療の公共性・不確実性を考慮し、 医療現場が萎縮し必要な医療提供体制が確保できなくなることのないような規制とする必要がある」と「医療安全の観点からも、医師が健康状態を維持できることは重要」という2つの課題の両立を提言した。
勤務医の団体である全国医師連盟が6月9日に都内で開いたシンポジウムで、連盟代表理事の中島恒夫氏は、こう持論を述べた。
「2つの両立は無理である。医師が不足しているのだから。本来、検討会がすべきだったことは“労基法違反を前提とした病院経営はあってはならない”と厚労省に言わせることである。医師の過重労働を防ぐためには、医師を増やすこと、主治医制からチーム制への移行、都市部では急性期病院の集約、夜勤医師の集約、単なるベッド数削減でなく地域の実情に合った医療提供体制に改めることが重要である」
医師の働き方改革では、医師の就労観が変化していることにも目を向けなければならない。登壇した淀川キリスト教病院(大阪市東淀川区)産婦人科副医長の柴田綾子氏は、実態を打ち明けた。
「30代以下の医師たちは、身を粉にして、自分を犠牲にして働いて医療を支えることがカッコイイとは微塵も思っていない。男性医師も家庭を大切にする考え方に変わってきていることを理解してほしい」
かつては聖職と呼ばれ、自己犠牲のもとに医療提供体制を支えてきた医師も、労働基準法が適用される労働者である。ワークライフバランスの重視は必然の流れだ。
「職員第一主義」の病院
こうした難局にあって、医療提供体制の確保と医師の健康維持を両立させている例もある。
仙台厚生病院(仙台市)は、入院治療能力を評価する指標である平均在院日数が今年4月に8.5日を記録した。厚生労働省がこの6月4日に発表した一般病床の平均在院日数の全国平均は16.4日(今年2月時点)。同院の実績は際立っている。