しかも同院の管理職と臨床研修医を除く医師66人の残業時間は、1人平均で月8.06時間にすぎなかった。処遇もきわめて手厚い。管理職以外の医師には1回の宿直につき5万円の手当に加えて、急患対応などに時給が加算され、1回の当直に約10万円が支給されている。月2回の宿直で約20万円になる。さらに医師には自己研鑽手当として、月40時間分の金額が支給されている。4年目の後期研修医の年収は約1500万円にも達するという。
同院の最大の特徴は「選択と集中」「連携と分担」である。「患者数が多く、心筋梗塞や吐血など開業医では手に負えない疾患も少なくない」(同院臨床検査センター長・遠藤希之氏)という理由から、循環器、消化器、呼吸器の3領域に医師と医療資源を集中させた。そのうえで、3領域以外の診療科は他の病院や約1400人の登録医との間で、連携と分担を図っている。
この体制が医師や他の職種の労働時間に余裕を生んだのだが、体制だけの問題ではない。同シンポジウムで遠藤氏は、同院が掲げる「職員第一主義」を紹介した。
「医師や看護師を心身ともに健康な状態で治療に従事させるという職員第一主義は、究極の患者第一主義である。中途入職した内科医が時間外労働で診療を行って収入を上げようとしていたとき、その内科医に向かって、当院の目黒泰一郎理事長は『時間外まで診療を行って収入を上げることは断じて評価しない!』と一喝していた。時間外で診療をやれば稼げるが、診療にかかわる看護師や臨床検査技師、放射線技師などは疲れてしまう。そんな無理をしてまで稼ぐ必要はないというのが当院の考え方である」
問われる病院経営者の方針
同院のように取り組めるかどうかは、ひとえに病院経営者(医療法人理事長)の方針次第である。一般論として、法人理事長が絶対的な権限をもつ病院組織の力関係のなかで、勤務医による改革はさほど期待できない。過酷な就労環境を強いられている病院勤務医は、どう対処すればよいのか。中島氏は「労働環境のよい病院に転職することもひとつの自己防衛策である」と述べ、転職時の留意事項として以下を挙げた。
(1)急かす転職斡旋業者は断る
(2)契約する前に病院をお忍びで見学して雰囲気を確認する
(3)契約書に署名する前に36協定、就業規則、退職規程を確認する
(4)当直が「宿直」か「夜勤」かを確認する(宿日直手当は夜勤手当より少ない)
(5)オンコールは業務命令か否かを確認する
(6)所属診療科の人員は余裕をもった交替制を可能にする8人以上かを確認する
長年にわたって自己犠牲をいとわずに医療を支えてきた文化に由来するのか、労働基準法令の遵守に対する医師の認識はかなり低い。労働政策研究・研修機構によると、3割が遵守されなくてもやむを得ないと考えていて、その割合は男性・高齢・長時間労働者ほど高い。
もっとも、この傾向は一般の会社員も同様ではないのか。自己防衛策として労働関連法令の知識は、いまや必須要件である。
(文=編集部)