一般的な傾向として、銀行員は証券マンよりも信用されている。特に、高齢者はまだ高金利だった自分が若い時分に、銀行の預金や金融債でお金を増やした経験を覚えている場合がある。
しかし、1998年の「投信窓販」(銀行の窓口での投資信託販売)解禁以来年月が経って、銀行員もすっかり投信販売に慣れたし、収益を稼ぎたい状況は銀行も証券と同じだ。銀行員は決してお金を任せていい相手ではない。むしろ、現実の銀行のビジネスと顧客側の銀行員に対する信頼感とのギャップこそが危険だ。
金融セールスによる被害は身近な問題
認知症の場合でも、認知症まで至らない段階であっても、高齢者の保護と高齢者の自己決定権(自分の物事を自分で判断する権利)の関係は微妙だ。高齢者本人が「この金融商品を買いたい!」と明確に主張しているのであれば、金融機関は法的な形式さえ整えばそれに応じるに違いないし、それが悪いことだともいえないが、金融マン(女性も含む)の側が高齢者を「その気」に誘導することはしばしば可能だし、そうしたケースが多々あるはずだ。
高齢者を「食い物」にするにあたって、証券会社社員や銀行員が特別に悪い人である必要はない。彼らが自分の会社に忠実な「真面目な金融マン」であるだけで必要十分条件を満たしている。
先の週刊朝日の記事では、認知症の高齢者の場合、後見人を付けるくらいしか有効な対策がないと書いているが、場合によっては後見人が金融機関と親しい場合もないとはいえない。金融的な判断力を失っている高齢者の場合、後見人を付けるとしても、正しい判断ができる身内がダブルチェックできる体制が必要だろう。
拙稿を読んでくださっている読者及び、読者のご両親の年齢は様々だろうが、何はともあれ、ご両親の金融資産が今どこにあって、どのように運用されているかを、一度確認してあげてほしい。
ご両親自身が、相手が子供であっても、自分のお金の詳細を見せたくないと思うケースや、金融マンに対して親近感を抱いて彼・彼女との取引が切れることを恐れるケースなど、現実には様々な障害があるかもしれないが、「金融セールスによる被害は身近な問題なのだ」ということを粘り強く伝えてほしい。
ビジネスの世界では、「高齢者の金融資産からいかに稼ぐか」が大きなテーマであり、現実のビジネスなのだろうが、せめてその0.1%くらいの規模であっても、高齢者の資産を悪いセールスからどう守るかということをテーマにしたビジネスがあってもいいように思う。
(文=山崎元/楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表)