増資インサイダー問題が退任の直接の引き金になったのは事実だが、海外部門が垂れ流す赤字が、渡部=柴田の2トップにトドメを刺したといっていいだろう。
後任のCEOは傘下の野村證券社長の永井浩二が兼務した。COOには野村HD専務で米州地域CEOの吉川淳が就いた。永井は“ノルマ証券”と異名をとる営業畑出身のトップ。これまで冷や飯を食わされてきた国内営業の第一線の人々が、永井のトップ就任を歓迎したことは言うまでもない。
12年9月6日、永井CEO、吉川COOの新経営トップ2人による経営説明会が開催された。新経営陣は創業90周年を迎える16年3月期に、2500億円の税引き前利益を稼ぐという経営目標を立てた。
旧経営陣はリテール(個人営業)部門とアセットマネジメント(資産運用)部門で稼いだ利益をリーマンから引き継いだホールセール(法人営業)につぎ込んできた。グローバルな投資銀行に変身することによって収益を拡大するという、ビジネスモデルにこだわり続けてきた。
永井CEOは「グローバルな投資銀行の旗は降ろさない」と明言しているが、そのスタンスは渡部の時代とは、かなり異なる。「身の丈に合った経営」を標榜する。新経営陣が打ち出した2500億円の利益目標の内訳は、リテール部門で1000億円、アセットマネジメント部門で250億円、ホールセール部門で1250億円。ホールセール部門は国内が750億円、海外が500億円である。
この利益目標を達成するためのカギは、大幅な赤字に沈んだままのホールセール部門、なかんずく海外事業の再建にかかっている。まず、さらなるコスト削減だ。14年3月末までに、ホールセール部門では10億ドル(約800億円)の追加コスト削減を断行する。はっきりいって、リーマン切りだ。
脱リーマンを進めるが、アジアに立脚したグローバル金融機関の旗は降ろさない。確かにアジア経済は高い成長が見込めるが、それだけに強豪がひしめき合う。野村HDの苦戦は避けられないだろう。
リーマンの買収で描いた、欧米を舞台とする一流の投資銀行になる夢は幻に終わった。それでも永井はアジアと日本にこだわる。
●安倍政権の誕生が追い風に
安倍政権の誕生で証券市場にも神風が吹きかけている。株価も12月21日に年初来の高値453円をつけ、やっと大和証券グループ本社(同じく年初来の高値の462円)に追いついた。
野村HDのウエートが高い証券セクター(証券株指数)は2011年末から12月21日までに78.6%上昇した。セクター別の年間上昇率のトップの座を不動産(同69.4%アップ)と争っている。証券セクターの上昇率がトップになるとすれば実に26年ぶりのことだ。
株価の推移を見ておこう。2011年末に大和が野村を逆転し、ジワジワ差を広げてきた。だが、ここへきて野村が猛進している。