これまで、ソフトバンクグループは孫正義会長兼社長の指揮の下、IT先端企業などに出資し新しいテクノロジーが生み出す需要を取り込んできた。ただ、今回のウィーカンパニーの新規株式公開(IPO)の延期をきっかけに、同社の経営体制に対する不安が徐々に高まってくる可能性もありそうだ。
その背景の一つとして、米国のオフィスシェア大手ウィーワークを運営するウィーカンパニーの資金繰り悪化などが顕在化してしまったことがある。今年9月、ウィーカンパニーは米ナスダック市場へのIPOを目指していた。しかし、同社の企業統治(コーポレート・ガバナンス)体制や、赤字が累積する収益状況などへの懸念が高まり、IPOは延期されることになった。それに伴い、米国の債券市場でウィーカンパニーの社債価格は大きく下落し企業価値も棄損している。同社の経営が一段と悪化すると警戒する市場参加者も多い。
ソフトバンクは、今後もウィーカンパニーの経営改善を主導しIPOの実現を目指すだろう。また、ソフトバンクには孫氏の後継者発掘という体制面の課題もある。この2つが、これからどう進むかはソフトバンクの持続的な経営に無視できない影響を与えるはずだ。
生粋の企業家・孫氏の壮大なビジョン
ソフトバンクという社名には、孫氏の壮大なビジョンが込められている。それは、今後の人々の生き方を大きく変えうるテクノロジーやソフトウェアの貯蔵(バンク)、創出、発信において主導的な役割を果たすことだ。孫氏は最先端のテクノロジーや、新しいエコシステムを生み出す企業、あるいは個人を発掘し、資金の提供(出資)を通してその成長を実現し、利得につなげようとしている。
よい例が、中国のネット大手アリババ・ドット・コムへの出資だ。2000年に孫氏はアリババの創業者であるジャック・マー(馬雲)氏と面会した。孫氏はマー氏と会って5分で20億円の出資を決めたという。その後、アリババは急成長を遂げ、株式の上場とともにソフトバンクは大きな利得を手に入れた。今なおソフトバンクの業績は、アリババの成長に大きく支えられている。
このように、孫氏は自らの経験をもとに、成長を目指し、実現に邁進し続けることのできる企業家の資質を即座に見抜き、出資を行ってきた。そのために、ソフトバンクは10兆円規模のソフトバンク・ビジョン・ファンドを設定した。ビジョン・ファンドは、米ライドシェアのUber、オフィスシェア大手のウィーワーク(ウィーカンパニー傘下)など、成長期待を集めてきた数々のスタートアップ企業に投資してきた。