また、ビジョン・ファンドは、スタートアップ企業に加え、世界のネットワークテクノロジー開発と利用に欠かせないソフトウェア企業にも投資を行っている。
その代表例に、英アーム社の買収がある。アーム社の半導体設計ソフトウェアは世界の標準になっている。世界のスマートフォンに搭載されるICチップの90%程度が、アーム社のソフトウェアによって設計されているといわれるほど、その影響力は大きい。さらに孫氏は第2のビジョン・ファンドの設定にも取り組み、成長期待を集めるITスタートアップ企業や、高いシェアと競争力を持つIT先端企業に投資を行い、自らのビジョン実現にコミットしている。
ソフトバンクのアニマルスピリットは行き過ぎか?
ただ、ウィーカンパニーのIPOは延期された。それは、成長の実現にこだわるソフトバンクの血気(アニマルスピリット)にやや行き過ぎの部分がある可能性を示唆している。
2017年、ソフトバンクはウィーカンパニーに出資した。この時も孫氏は共同創業者であるアダム・ニューマンCEO(最高経営責任者)と短時間の面談を行い、出資を決めたと報じられている。ウィーカンパニーはニューヨークのマンハッタンや東京など、賃料が高騰する大都市でオフィスを借り、シェアオフィスを提供して会費を徴収してきた。その上で同社は会員が所属企業や業種の垣根を越えてつながり、イノベーションを生み出す空間を創出しようとしてきた。同社は、ユーザー同士をつなぐアプリ開発などにも取り組み、会員がウィーワークのエコシステムから抜け出しづらい環境の整備を目指した。
しかし、ウィーカンパニーは最終赤字が続いている。今のところ、同社のビジネスモデルは想定された成果をあげられていない。さらに、8月にウィーカンパニーがIPOに関する目論見書を提出すると、共同創業者であるアダム・ニューマンCEOが普通株の20倍の議決権を持つ株を手に入れ、経営支配権の強化を目指していることなどが明らかになった。ニューマン氏が身内の利益を優先していると、同社のコーポレート・ガバナンス体制を危惧する市場参加者は一気に増えた。
この展開を受け、ソフトバンクはニューマンCEOの退任やIPO延期も求めたようだ。ソフトバンクはウィーカンパニーに100億ドル超を投資してきた。ウィーカンパニーの企業価値が低下する中でIPOを強行すれば、ソフトバンクは多額の評価損に直面し、業績が大幅に悪化しかねない。
ソフトバンクには、IT先端企業を傘下に収めてそのIPOを通して収益を得ることに、過度にこだわってしまった部分があるといえそうだ。カネ余りの影響から世界的に株価が高値圏で推移する中、ソフトバンクには競合相手よりも有望な企業にいち早く投資し、成果を実現しようとやや前のめりになってしまった部分もあるだろう。