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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

業界4位でもタリーズにいつも行く人が多い秘密は“細かいルール”?毎年増収増益の堅実経営

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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タリーズのドリンクと内装イメージ(タリーズコーヒー 麻布十番駅前店:筆者撮影)

「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。 コーヒー業界に、「シアトル系カフェ」(シアトル系コーヒー)という言葉がある。

 一般には、従来の喫茶店で提供されるドリップコーヒー(コーヒー豆を焙煎・挽いたあとで抽出)ではなく、エスプレッソをベースにする。ミルクを加えたメニューでも、ドリップ+ミルクを「カフェオレ」、エスプレッソ+ミルクを「カフェラテ」と呼ぶことが多い。

 シアトル系の代表が「スターバックスコーヒー」で、今回紹介する「タリーズコーヒー」もそうだ。米国のシアトルで、スタバは1971年、タリーズは92年に創業された。日本に上陸し、1号店を開業したのは96年(スタバ)と97年(タリーズ)で、99年に日本1号店を開業した「シアトルズベストコーヒー」(米国の1号店は1971年)とともに、当時は“シアトル系御三家”とも呼ばれた。たが、その後、シアトルズベストは伸び悩んだ。

 スタバほど目立たないが、タリーズの認知度も高い。さまざまな消費者を取材すると「スタバではなく、いつもタリーズに行く」(20代の女性会社員)、「コンビニで買えるコーヒー飲料も、タリーズが一番おいしい」(40代の男性カメラマン)という人も目立つ。

 今回はタリーズの“ロゴの裏の横顔”に迫りながら、ブランド戦略を考えたい。

国内店舗数は業界4位、業績も順調

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「タリーズコーヒー 神保町三井ビルディング店」(同社提供)

 まずは、国内における大手カフェチェーン店を数字で紹介しよう。店舗数で500店を超えるのは次のブランドで、いわば「4大チェーン」だ。

【4大チェーンの国内店舗数と売上高】
(1)スターバックス コーヒー 1458店(6月30日現在)、1827億6600万円(2018年10月期)
(2)ドトールコーヒーショップ 1107店(6月30日現在)、725億6300万円(2019年3月期)
(3)珈琲所 コメダ珈琲店 835店(2月28日現在)、303億3500万円(2019年2月期)
(4)タリーズコーヒー 735店(4月30日現在)、345億6800万円(2019年4月期)

 タリーズの店舗数は4位だが、売上高では3位のコメダをしのぐ。

 米国のタリーズは最盛期に比べて規模が縮小している。そんななかで目立つのが日本市場(タリーズコーヒージャパン)だ。日本法人創業時の社長・松田公太氏(元参議院議員)の印象が強いが、現在は松田氏と資本関係はない。2006年から伊藤園のグループ企業となり、現在の経営幹部も伊藤園出身。親会社のブランド力も背景に拡大し、長年増収増益を続ける“孝行娘”だ。

 安定した人気の秘密を、筆者は「基本の徹底」と「奇をてらわない」姿勢だと考えている。「基本」は、たとえば店の主力商品であるコーヒーだ。「豆」や「焙煎」、コーヒーを提供する「バリスタ」育成など、社内で基準を設けて品質を高める。先日、その一端を取材した。

20年続く「バリスタ競技会」

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10月16日に開催された「バリスタ競技会」の参加者(同社提供)

 10月16日の東京・恵比寿。この日、「タリーズコーヒージャパン 第20回 バリスタコンテスト」という競技会が行われた。9時から18時近くまで続く一大イベントだ。

 参加したのは、予選会を勝ち抜いた同社のバリスタ24人(アルバイト、社員各12人)で、午前は「アルバイトフェローの部」(競技審査は各11分)、午後は「社員フェローの部」(同16分)が行われた(同社は従業員をフェローと呼ぶ)。参加者1人ずつ登壇し、「自己紹介プレゼン」「接客販売審査」「オペレーション審査」をこなす。社員の部では、競技者がオリジナル制作のドリンク「シグニチャービバレッジ」もその場でつくり、審査を受けた。

 もともとタリーズの「コーヒー豆」は、担当者がコーヒー生産地に出向いて調達する。産地のブランドやグレードなどにこだわらず「ユニークで際立った特徴がある」といった条件で、カッピングによる評価で選ぶ。こうして調達された豆を国内の工場で焙煎する。

 焙煎された豆を各店舗で抽出するのが、今回の参加者に代表されるバリスタたちだ。普段は全国の店舗でコーヒーを提供したり、接客を担当したりする。

「シグニチャー賞」のドリンクは、翌年に商品化

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大会の公式ポスターは、佐伯優果さん(フジグラン松山店)が描いた(筆者撮影)

 今回の競技会の結果は次のとおりだった。

・アルバイトフェローの部
優 勝 平野 愛梨さん(大丸梅田店)※
準優勝 宮本 直子さん(武蔵小杉店)※
第3位 山下 祐佳さん(イオンモール神戸北店)
ホスピタリティ特別賞 名越 真奈さん(中央林間東急スクエア店)

・社員フェローの部
優 勝 石川 峻さん(Emio Style BIGBOX高田馬場店)
準優勝 児玉 愛美さん(錦糸町テルミナ店)※
第3位 吉田 勝さん(ウニクス浦和美園店)※
ホスピタリティ特別賞 工藤 彩花さん(札幌HTB創世スクエア店)※
ベストシグニチャー賞 工藤 彩花さん(同上)※

 札幌から参加した工藤さんが制作したドリンク「金平糖きな粉のキャラメルソルティラテ」が、「ベストシグニチャー賞」に輝いた。同賞のドリンクは安定提供できるよう社内で調整を行い、翌年、全国各店のメニューとして販売されるという。

FC店と一体で「タリーズ愛」を高める

「タリーズのコーヒーは、ご注文後にバリスタが半自動式のマシンで1杯ずつ丁寧に抽出します。コーヒー粉の重量、抽出時間、抽出量など細かいルールがあり、ボタンを押せば出てくる飲料ではありません。毎年競技会を実施するのは、そうした品質維持やスキル向上のねらいもあります」(広報担当・山口さほりさん)

 なぜ、手で淹れることにこだわるのか。

「やはり機械抽出とは味が違いますし、フォームミルクの出来も違います。当社向けに北海道で特別に採取する牛乳を使って上手にふくらました、フォームミルクのカフェラテをご提供しています」

 こう語る山口さんは、広報に来る前は都内の店で店長も務めていたという。

 競技会のもうひとつのねらいは「社内一体化」だろう。実は、上位入賞者の多くがFC(フランチャイズチェーン)店の従業員であるのも興味深い。上記の※印を付けた人たちがそうだが、直営店・FC店の区別なく、日々の接客や競技会に一体で取り組む。

 競技会のプレゼンでも、「タリーズのミルクは、メーカーの方に聞いたら、こんな特徴がありました」「私はこれからのタリーズをつくりたい」と熱っぽく話したのは、FC店の人だった。

スタバを意識しつつ、独自性を打ち出す

 引いた視点でタリーズの活動を見ると、スタバへの意識がチラ見えする。たとえば、従業員のことをスタバは「パートナー」、タリーズは「フェロー」と呼ぶ。バリスタ競技会は約20年前(ほぼ同時期)からスタバも行っており、筆者は昨年、今年とスタバの競技会も取材した。

 一方、時にミステリアスな表記をするスタバに比べ、タリーズはわかりやすく、舌をかみそうな表記は少ない。たとえば、フードメニュー「ナスとベーコンのトマトパスタ」、夏季限定のアイスドリンク「パッションピーチ&マンゴーティー」などは、中身がイメージしやすい。定番のコーヒー豆の名称は「ハウスブレンド」だ。

 これなどは、前述した「奇をてらわない」姿勢だと思う。

 一方で課題もある。たとえば「パンメニューを食べたが、いまひとつだと思った」(50代男性)という声も聞いた。筆者の取材経験では、前述の大手4社のうち、フードの評価がもっとも高いのは「ドトール」だ。開業時(1980年)から出し続ける「ジャーマンドッグ」など、手頃な価格を含めて今なお好評だ。スタバは自家製ベーカリーに力を入れ出した。

 タリーズの「本日のコーヒー」は13種類あり、各店が自由に決められるという。そうした訴求も人気の秘密だが、筆者は、もう少しティーメニューに注力してほしいと思う。親会社が茶系飲料に強い伊藤園だからだ。安定した人気の今だからこそ、チャレンジする環境も整っているのではないだろうか。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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